第2話 待って、それなら私も付き合うわ


 教室に到着した俺は自分の席に荷物を置くと先に来ていた瀧に声をかける。


「よお、たき。おはよう」


「奏多か、おはよう」


「相変わらずだるそうな顔してるな」


「週明けは皆んなそうだろ」


 瀧とはいわゆる幼馴染という関係でずっと同じ学校なのだが今まで同じクラスになった事が無かった。だから始業式の朝クラス表に夏川瀧なつかわたきという名前があった時は嬉しかったものだ。


「奏多は今日も杏奈と瑠花ちゃんと一緒に登校か?」


「ああ、いつも通りな」


「美人な姉妹と一緒に登校出来る奏多が羨ましいよ」


「彼女と一緒に毎日登下校してる奴に言われても全く響かないんだけど」


 そう、瀧は腹立たしい事に彼女持ちだったりする。中学時代はパッとしないキャラだった瀧は高校へ進学したと同時にメガネをコンタクトに変え髪型もお洒落な感じに変えた。

 その結果バレンタインの日に告白されてリア充へとランクアップを果たしてしまったのだ。俺達には彼女なんて必要ないとよく一緒に話していたはずなのに今では自慢してくるため裏切られた気分になった事は言うまでもない。


「それはそれだろ」


「あーあ、俺にも彼女出来ないかな」


「奏多なら普通に出来ると思うけど、てか今まで彼女いないのが俺的には不思議なくらいだ」


「俺にだってチャンスはあったんだぞ」


 そう、今まで彼女が出来るかもしれないと思った場面も何度かあった。まあ、途中までは上手く行きかけたもののどれもこれもよく理由が分からないまま駄目になってしまったのだが。

 そんな会話をしているうちに予鈴がなったため自分の席に戻る。そしてしばらくしてから本鈴がなり授業が始まった。午前中の授業は特に何事もなく終わったが昼休みになった瞬間に問題が起こる。


「あれっ、おかずが入ってないじゃん」


「本当だ、両方米だな」


 リュックサックから取り出した二段弁当の中身は何と両方白米しか入っていなかった。莉乃は大学の学食を利用していてここ最近は弁当を持っていっていないため杏奈か瑠花のどちらかがおかずを二つ持っているはずだ。


「めちゃくちゃだるいけどとりあえず杏奈の教室に行くか」


「いってらー」


「学内でスマホ禁止のルールとかマジで辞めて欲しいんだけど」


 俺は瀧に見送られながらそう愚痴りつつ教室を出る。うちは進学校で治安もかなり良いんだからその辺りの校則はもう少しだけ緩くして欲しい。

 少しして杏奈のいる二年五組の教室に到着した俺は中に入る。杏奈は友達数人と教室の後ろの方に固まってお喋りしていた。


「奏多ったら朝から俺にくっつけとか言ってきたのよ」


「また惚気? 毎回聞かされるのもそろそろ飽きてきたんだけど」


「はいはい、杏奈が奏多君を大好きなのはよく分かったから」


「違う、そんなんじゃないから」


 何故か俺の話題で盛り上がっているため非常に話しかけにくい。先に瑠花の教室へ行こうかなと思っていると運悪く杏奈と目が合ってしまう。


「な、何で奏多がここにいるのよ!?」


「うわっ、急につかみかかってくるなって」


 杏奈は血相を変えて俺の元までやってきたかと思えば怒りと恥ずかしさが混ざったような表情を浮かべながら責め立ててくる。


「愛しの奏多君の前なんだからもっとお淑やかにしないと」


「そうそう、そんなんじゃ嫌われちゃうかもよ」


「そこ、余計な茶々を入れない」


 友達から揶揄われて杏奈はさらに顔を赤くしていた。もし杏奈がいくらお淑やかに振る舞ったとしても俺は本性を知り尽くしているため無意味だ。


「そもそも奏多は何をしにわざわざうちのクラスまで来たのよ?」


「そうだった、杏奈に用があってな」


「私に用?」


「ああ、実は二段弁当が両方米でさ。杏奈がおかずを二つ持ってるんじゃないかと思って確認しにきたんだよ」


 杏奈から詰め寄られて忘れかけていたがこの教室にきた本来の目的はそれだ。俺の言葉を聞いた杏奈は席に戻り机の上に置いていた弁当袋を手に取る。


「もしかして間違えたのかしら……私はちゃんとお米とおかずが両方あるわ」


「って事はおかずを二個持ってるのは瑠花か、中等部まで行くのは中々面倒だな」


 中等部の教室は高等部から結構離れているため移動するだけでそこそこ時間がかかってしまう。そんな事を考えていると杏奈は申し訳なさそうな顔になる。


「悪かったわね、私が間違えたせいでこんな事になっちゃって」


「杏奈がそんなしおらしい態度になるなんて珍しいな」


「流石の私でも罪の意識くらい感じるわよ」


「あんまり気にするな、こういう事は意外にあるあるだって聞くし」


 そもそも杏奈が毎朝俺達のお弁当を作ってくれるだけで本当にありがたい。俺は料理が出来ず莉乃は色々と壊滅的、瑠花は朝に弱いため実質杏奈にしか作れないのだ。


「って訳で俺は中等部の瑠花の教室に行ってくるから、邪魔して悪かったな」


「待って、それなら私も付き合うわ」


 俺が回れ右をして教室から出ようとしていると杏奈はそう声をあげた。


「別に杏奈は着いてこなくても大丈夫だ、ただおかずを取りに行くだけだし」


「そんなの奏多を中等部の教室に一人で行かせるのは危険だからに決まってるでしょ」


「いやいや、ちょっと言っている意味がよく分からないんだけど」


「もしかしたら欲に負けて女子中学生に手を出そうとするかもしれないじゃない、朝から瑠花を襲おうとしてたし」


「そんな事する訳ないだろ、てかさらっと有りもしない記憶の捏造は辞めろ」


 俺はロリコンでは無いしそもそもこの歳で社会的に死ぬ気なんて全く無いからな。


「とにかく私も着いていくわ、もう決定事項だから」


「……分かったよ」


 こうなった杏奈は今までの経験上梃子でも動かなくなってしまうためこれ以上何か言っても無駄に違いない。一体何の目的があるのかは分からないが、杏奈の同行を認めるしかなさそうだ。

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