第6話 ドロボーとの出会い
「おいっ!」
ついに旅に出たルイとエミルの目の前に突然、紫の布で目より下を覆った、小柄な人物が走り込んで来てぶつかりそうになる。
「そいつを捕まえてくれ!」
そんな声がして、ルイはとっさに、手と足を広げて通せんぼしようとしたが、逆に空いた股の下をその小さな影は滑り込んで通り抜けてしまう。
「あっ」
ルイは慌てて振り向くと、小さな影はすでに体勢を立て直し、あっという間に人の少ない通りを走り抜けてしまった。
ルイは少しバツの悪そうな顔で、先ほど捕まえてくれと叫んでいた店主に話を聞く。
「えっと、どうされましたか」
「ドロボーだよ。金を払わずに、唐揚げを持ってかれちまった」
「唐揚げ……」
美味しそうだという考えが先に来てしまって、生唾を飲み込み、首を左右に振ったルイ。旅の資金としては、とりあえずエミルの親族やルイの母親から支援されている。気を取り直して、話を伺う。
「身なり的に、まだ子どものようでしたね」
「そうだねぇ。何があったんだか。こっちも、何か話してくれれば、まだやりようがあるのに」
そう話す店主は怒りよりも憂うような、優しげな雰囲気があった。この一連の流れを見ていたエミルはここで口を開いた。
「ボクにいい考えがあるよ」
「えっ」
ルイは正直、エミルのこのどこか気が利く感じ、頭が回る感じを勘づいている。だから少し、嫌な予感もした。何か面倒ごとに巻き込まれるのではないかと。
しかしそもそも、涙止人のことや父親のこと、自身のことを知るだけが旅の目的ではなく。面倒ごとに首を突っ込んで解決するのも、ルイがこの旅でやるべきこと。
あの子に何か事情があり、その心を助けることができれば、それはルイのこの旅の意義、生きがいに繋がるのかもしれない。
「うーん。上手くいくかわからないけど。やってみようか」
エミルの提案を受けてルイは、唐揚げの移動販売をすることになった。そこでまた、先ほどの子どもが現れたら、捕まえるという質素な作戦。
貴金属のドロボーなら気軽に現れないとしても、食べ物に困っているなら、食べ物に釣られてやって来るという、実に簡単だが深い発想である。
涙止人-るいしじん- 浅倉 茉白 @asakura_mashiro
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