第5話 ルイの心情

 一方で、本の中のルイはエミルを家に見送りに行った後、別れて一人考えていた。


 夜もなかなか眠れずに考えていた。



 自分のこれまでの人生。これからの人生。涙止人という謎。会えなかった父の謎。


 もしかしたら、エミルに引っ張られて、旅に出ることで何か変わるかもしれない。


 けど、変わることは怖いこと。それでも、村長が亡くなってしまったように、何もかもずっと変わらずにいられることもない。


 自分も、ある日、謎の影に襲われてしまったら? そこで人生は終わるのか。


 どうすればいいのか、答えは出ない。もしかしたら、答えはないのかもしれない。


 るいも思ったように、どんな道でもそれが一つの人生になる。


 後悔しても、しなくても。



 ルイは寝返りを打ちながら、ここでちょっと、考え方を変える。これがもし物語ならと。


——もう一人の僕のような存在がどこかにいて、その人とは似たような人生をあゆんでいるけど、違う人生があるとする。


 そしてそのもう一人の僕が、この本を読んでいて、その本の中に僕が存在する。


 だとしたら僕が、その人にはできない体験を、なかなか踏み出せない勇気を、踏み出してみるのもアリかもしれない。——



 ルイはそんなふうに、自分自身に言い聞かせ始めた。旅を始める理由を、「本」のせいにしようとして。


 翌朝。ルイは母のユイに「行ってきます」の挨拶をした。「おはよう」よりも、先に出た。ルイの目には涙は浮かばない。浮かぶのはむしろユイの方だった。それでもルイの心は、さびしさと、どこか非現実さと、これからの未知な気持ちに揺れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る