第5話 ルイの心情
一方で、本の中のルイはエミルを家に見送りに行った後、別れて一人考えていた。
夜もなかなか眠れずに考えていた。
自分のこれまでの人生。これからの人生。涙止人という謎。会えなかった父の謎。
もしかしたら、エミルに引っ張られて、旅に出ることで何か変わるかもしれない。
けど、変わることは怖いこと。それでも、村長が亡くなってしまったように、何もかもずっと変わらずにいられることもない。
自分も、ある日、謎の影に襲われてしまったら? そこで人生は終わるのか。
どうすればいいのか、答えは出ない。もしかしたら、答えはないのかもしれない。
後悔しても、しなくても。
ルイは寝返りを打ちながら、ここでちょっと、考え方を変える。これがもし物語ならと。
——もう一人の僕のような存在がどこかにいて、その人とは似たような人生を
そしてそのもう一人の僕が、この本を読んでいて、その本の中に僕が存在する。
だとしたら僕が、その人にはできない体験を、なかなか踏み出せない勇気を、踏み出してみるのもアリかもしれない。——
ルイはそんなふうに、自分自身に言い聞かせ始めた。旅を始める理由を、「本」のせいにしようとして。
翌朝。ルイは母のユイに「行ってきます」の挨拶をした。「おはよう」よりも、先に出た。ルイの目には涙は浮かばない。浮かぶのはむしろユイの方だった。それでもルイの心は、さびしさと、どこか非現実さと、これからの未知な気持ちに揺れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。