業腹

とりたろう

業腹



 お前の身体を開いたら、空っぽなんだろう。なぜならお前が考える脳みそを持ちえていないからだ。

 三十年近く生きてきて、自分の人生において哲学を持っていないやつなんてつまらない。いや、つまらないとかいう話では無い、人として生きていないに値する。お前は人ではない。人の振りがやけに上手いだけだ。生物学的にはヒト科ヒト目だが、人を人としてたらしめるものがお前の中にはない。お前の中に、お前の血肉という名の哲学を感じない。そんなもの、私からしてみれば人間なんて到底言えないし、私と同じ生き物だと思うだけでゾッとする。

 私は、お前という人間に大層失望した。お前は面白い人間の振りをした。私を、騙した。時間を返せ。私の揺れ動き高鳴り、血が滾る様な衝動に襲われ多幸感に充たされた私の感情を成仏させろ。お前とずっと友達といたいと思った私に恥をかかせやがって、業腹な思いだ。お前のとなりで楽しそうに笑う過去の私自身が憎たらしくてしょうがない。お前のことをこんなにも大切にした私に深く失望した。私は人間を見る目がないのだろうか?こんな風に私に思わせるお前もお前だ。私がどれほどお前との時間を大切にしていたかわかるのか。お前もそうではなかったのか。私は、お前にどれ程のものを与えた?私は、お前からどれほど貰ったか、いや、お前から貰ったと勝手に思いこんでいた。お前は私に与えようなんてしていないのに。お前がただ私からコソコソと思想を盗むだけ盗んで、それをあたかも自分のもののように人様に語るのがどれほどの痛みかお前にわかるのか。お前は自分でも何も考えられない、考えるフリをした葦なのに、皆に嘘をついてまでそんな思想を語りたいのか。自作自演をして、自分をよく見せたいか。自分がどれほど思慮深い人間かと錯覚したいのか。その思想は私のものだ。その哲学は私の血肉で出来ているものだ。お前がボーッとしている間に私は自分の中の本物の欲望と対峙して、苦しみの中に見出した人生だ。だと言うのに私が少し語っただけでそれをまるで理解したかのように軽々と表にだしやがった。憎たらしい。憎たらしさでどうにかなってしまう。お前への苛立ちだけで人としての形を失ってしまいそうだ。お前が人様の思想を理解した気になって気持ちよくなっていること自体が腹立たしい。それを思慮深いと思われて気持ちよくなっているのもお前のことを市中引き回しにしてその四肢五回ずつへし折ってやりたい。お前の醜態を晒しあげて不特定多数から指さされて罵詈雑言の大雨にうたれればいい。


 お前という人間が嫌いだ。

 誰でも極悪犯罪者には嫌悪感を示すだろう。

 お前には、それと同等の嫌悪を持っている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

業腹 とりたろう @tori_tarou_memo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画