波長

だずん

私の感じる世界にて



 涼しい風が肌に当たる。私の心は身を連れてくの。

 どこにって? ふふ……。


 すーっ


 さーー


 ……。




 優しい音楽が聴こえる。思考の世界――視覚の世界が視界なのと一緒で――思界しかいはその声に書き換えられるの。

 心がそれを許して、身も。


 ~♪


 ~♪♪


 ……。




 お話の中、女の子が片想い。同じ空間、その子になるの。

 想い人に心は


 『あのね、……』


 『ゆめちゃんのこと! …………』


 ……。




 ……。


 ……、……、すき……


 すーちゃん……


 ハートマークに溺れても助けてなんて言わない。

 思界の中は、あの子と両想いなの。私が片想い、妄想の中へ。




 こんな風に私の心は波長に合わせて色々な過ごし方をするの。

 風も音楽も小説も、浸るの好きだけど、すーちゃん――澄玲すみれちゃんに合う波長はどれより好み。だから思界だけじゃなくて視界に聴界に触界……に入るすーちゃんにもアンテナを合わせてしまうの。


 教室のお昼休み。四人机を合わせてお弁当を食べてお話する、私の好きな時間。すーちゃんとお話できる時間。まだ同じ班になってから少ししか経ってないから、あんまり仲良くなれてないけど……。でも最近はちょっとずつ話せるようになってきてね、だからもっとすーちゃんと話せるようにしたいの。


「すーちゃんあれ見たー? イヌスタで話題になってるワンちゃん!」

「えーしらなーい。どれどれー?」


 私もあんな感じに話しかけられたらなぁ……。


 すーちゃんは差し出されたスマホを見る。


「すご、かわいい~!」

「でしょでしょ~」

「ねえねえこれ、……」


 ううん、私もがんばらないと。

 二人が話し終わったタイミングを見計らう。


「そっかそっか、見せてくれてありがとねー」


 いま、かな……。


「あの、すーちゃんのお弁当おいしそうだよね、卵焼きとか……」

「あー! わかる!? そうなの、これお母さんの得意料理なんだー」


 すーちゃんこっち向いてくれた!

 嬉しい!


「えー! いいね! うちの卵焼きも見てみて! これ自分で作ってんでー! 良かったら交換せーへん?」


 あ……。またすーちゃんが私から離れちゃう……。

 私に向ける顔も声も心も……。んー……。むむむー!


 結局そのあと上手くできずに、すーちゃんと喋れずじまい。波長感じられず終い。私からの波長も乱れちゃう。一番大切な波長が乱れてぐるぐるぐるぐる。




 お昼休みの後、頭の中では「こーしたらどう!?」「あ! もしかして!」「いやいや、そうじゃないでしょ……」とあっちへこっちへ。施策せさく方々ほうぼうに散りゆく。り舞うの綺麗……。


 綺麗……。すーちゃんだ。放課後だ。


 合わせる波長は……空を漂う雲じゃなくて……廊下側天井の換気窓に映る蛍光灯……じゃないでしょバカバカ!

 じゃあ目の前のすーちゃん?



 ……。なんか違うかも……。

 すーちゃんの波長はどこに?

 さっきから何も動いてないよ。


 ……横失礼するね。隣の、机に収まりきってない椅子に掛けるね。


 すーちゃんあっち向いてぼーーっと。

 もしかしてそっち?


 私もそっち向く。ぼーーっとすればいいの?


 視界と聴界の中ですーちゃんが動く。

 確かにいま、微かに声と微笑みが……。こっち向いてた?

 ぼーっとしてたばかりに、わからなかったけど。


波子なこちゃん」


 すーちゃんからの波長にアンテナがびびびと。


「うん」

「一緒なの嬉しい。ふふっ」


 波長が混じりあうのを感じた。

 溺れるためにハートマークがあるわけじゃないのだと、このときさとった。さとるにはまだ早いかもだけど。ふふ。

 

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波長 だずん @dazun

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