借金したら地雷グリコファンのヤクザとギャンブル対決することになった
不悪院
対決
打ちっぱなしのコンクリートがむき出した暗い小部屋で、
すると、部屋のドアが乱暴にノックされる。木田は震える手でサムターンを回し、ドアを開けた。
「よォ」
そこに立っていたのは、濃い色つきレンズの銀縁眼鏡に長髪をジェルで撫でつけたオールバックヘア。リネンのシャツからは立派な昇り龍の入れ墨が透けている、どう贔屓目に見てもカタギとはいえない人物であった。
「今月も逃げんかったか。偉いやん」
口元では笑いながらも蛇のように木田を睨めつける男の名は、
木田の借金は現在も総額で10億を超えている。大学を卒業してすぐに立ち上げた事業に失敗し、逃亡生活を送っていたところを運悪く森谷たちに捕まったのだ。
森谷は組の中でもそこそこ高い地位にいる。彼は日頃から外車を乗り回し、女を侍らせ、高い酒を飲み漁り、舎弟を気絶するまで殴っていた。
――アレと出会うまでは。
「今日もな、読み直したわ。これで10万回は読んだかいな。もう一言一句違わず暗唱できるで」
「そうですか……」
引きつった笑みを浮かべる木田を他所に、森谷が懐から取り出したのは、「地雷グリコ」であった。
地雷グリコ。それは青崎有吾作のゲーム小説である。主人公が毎話オリジナルのゲームで対決していく頭脳戦が特長的な連作短編作品で、第24回本格ミステリ大賞と第77回日本推理作家協会賞、および第37回山本周五郎賞をトリプル受賞した傑作だ。
森谷は地上げのために立ち寄った本屋で地雷グリコを偶然手に取り、数ページめくって止まらなくなり、その日の仕事を全てすっぽかして日が暮れても本屋にしゃがみ込んで読み続けた。気づいたときには、森谷は沼に落ちていた。
――つまり、地雷グリコという作品に完全に惚れ込んだのだ。
自宅には観賞用、保存用、布教用の地雷グリコ3冊×10セット分を常に置いている。地雷グリコの感想をチェックするために組の飛ばしケータイを使ってSNSも始めた。
そして何より驚きなのは、彼の森谷という名前が偽名であることだ。
木田と森谷が初めて出会った時は、森谷はたしか
聞くところによると、舎弟の一人は名前を真兎の親友である「
そして、森谷の地雷グリコ好きの魔の手は債務者の木田にも及んだ。――いや、一概にデメリットだけを被ったわけではないのだが。
ある日、森谷は前触れもなく木田の家に押し入り外へ連れ出した。ついに東京湾で魚の餌にされるのかと戦々恐々としていた木田だったが、車が到着したのは、1話目の舞台でもある神社の境内であった。
そこで森谷が語るには、木田は真兎のライバルである「
別に
実はもう木田は返済のアテも無いということで、そろそろ「処分」が近い。だが、森谷とのゲームに勝てば、借金の返済を1ヶ月延期してやる、というのだ。
これは木田にとっては願ってもない話だった。確実に殺されるよりもゲームで対決して勝てば延期の方がいいに決まっている。負ければ即日東京湾で魚の餌とのことだったが、木田は勝負に乗ることに決めた。
そういう取り決めで、債務者の木田とヤクザの森谷は毎月15日の夜に命を賭けたゲーム――通称「
「よっしゃ、御託は抜きでさっそく始めよか。今回もドえらいゲーム、考えてきたで」
森谷は心底楽しそうな表情を浮かべ、死体を入れるのに使いそうなサイズのトランクをゴソゴソと漁った。彼はいつも謹製のオリジナルゲームを手を変え品を変え用意し、毎月の実践向上に持ち込んでいる。
「使うんは……これや!」
木田がトランクから取り出したのは、白と黒の2種類の碁石と、理科の授業で液体を計るのに使うメスシリンダーだった。
「あの、これ、血を抜く拷問に使うやつですか?」
「アホ。そんなモン神聖なゲームの場に持ち込むかい」
負ければ即魚の餌なのは神聖なのかとのツッコミが喉元まで出かかる木田だったが、森谷は上機嫌だった。
「このメスシリンダーはな、ちょうど碁石1個がぴったりフィットするようになってんねんで」
森谷は碁石をいくつか掴み、メスシリンダーに放り込んだ。碁石はするりと吸い込まれていき、重なり合うこともなく底で積み上がった。
「今回のゲームは、碁石をオセロの要領で交互に積んでいく……名付けて『積みオセロ』や!」
どうだ、という様子で自慢げに胸を張る森谷。
「すみません……」
「なんや」
「ゲームの内容を話してもらわないと全然分かりません」
森谷は吉本新喜劇の芸人がやるように盛大にズッコケた。
「フン、まあええ。じゃあさっそくルール説明に入らせてもらうで」
森谷は胸元から一枚の紙を取り出した。彼はいつもゲームのルールをまとめたサマリーを丁寧にもパワーポイントで作ってくるのだ。
「まず、ジャンケンで先攻後攻を決める。まあデモンストレーションやし俺が先攻でええやろ。先攻の色は黒、後攻の色は白や」
なるほど、このゲームには先攻後攻の概念があるらしい。囲碁と同じく先攻が黒、後攻が白の碁石をそれぞれ使うのだろうか。
「次に、自分の色の碁石を7個、相手の色の碁石を2個用意せぇ」
森谷は黒の碁石を7個、白の碁石を2個手元に引き寄せた。木田もそれに倣って白7個、黒2個の計9個の碁石を自身の前に置く。
「シリンダーに白い碁石を1個入れたらゲームスタート。このゲームはいかに自分の色を増やして、相手の色を減らすかで勝敗が決まるからな」
森谷は横に避けられていた白の碁石を1個掴むと、メスシリンダーに放り込む。これでいま現在、メスシリンダーには白の碁石が1個だけ入っている状態だ。
「プレイヤーのターンでは、碁石を色を問わず最大3個まで入れることが可能や」
説明を続けながら森谷はメスシリンダーに黒、白、黒の順番で碁石を3個入れる。
これで碁石の並びは、以下のようになった。
□■□■
←底
「このゲームのおもろいとこはやな、同じ色で挟んだ場合、その色がオセロみたいにひっくり返るところや」
この場合だと、一番下の白と下から3番目の白に挟まれた2番目の黒が白になり、下記のようになるということだろう。
□□□■
「なるほど、これで白の俺は3ポイント、黒の森谷さんは1ポイントをゲットしたということですか」
木田がふむふむと呟きながら頷く。挟まれると色が変わるというのなら、相手の色の碁石を使えるというのも分かる。このゲーム、どのタイミングで色をひっくり返すかが重要になりそうだ。
「せや。それで最後の碁石が入った時点でポイントの高いほうが勝ち。ちなみにこのメスシリンダーは最大で碁石が11個までしか入らんようになっとるから気をつけぇよ」
森谷は持っていた残りの碁石を全てメスシリンダーに入れた。最初に入れた白も含めてちょうど11個の碁石がきっちり縦一列に収まっている。
「後はそうやな……『パスは可能』。『色をひっくり返すのはターンプレイヤーが1個碁石を入れるたび』。他に『一度メスシリンダーに入れた碁石同士を並び替えることはできない』と『ゲーム中の暴力及び5分以上の遅延行為は即敗北』も付けさせてもらおか」
森谷はそう言いながら、まるでカジノのディーラーのような手つきでシリンダーから碁石を取り出した。
木田は顎に手を当てて考え込む。森谷は最終学歴が小学校卒の典型的反社だ。そもそも地雷グリコ並みに精緻なルールのゲームなど考えられるわけがない。それはこれまで幾度となくやってきたゲームでも分かっていた。
――だが、森谷が生き馬の目を抜く組織の中で一定の地位にいるというのも事実だ。もしかして何か裏があるのか。
「一つ、ルールの追加を申し出たいのですが」
木田はおずおずと手を挙げた。もし、もし木田の想像通りの攻略法を森谷が考えているならこれを追加する必要がある。
「おお~! なんや、ホンマに地雷グリコみたいやんけ! そう来んとつまらんわ!」
森谷は興奮してサングラスから片目を覗かせた。睨まれれば大の大人だろうと失禁しかねないほどの凶悪な眼光が木田を射抜く。
なお、原作の地雷グリコでは主人公の真兎は定石として、毎回勝負する前にルールの追加を申し出、それを利用して対戦相手を追い詰めている。
「俺が追加して欲しいのは、『ターンプレイヤーが碁石の色をひっくり返し間違えたら、過失かどうかに関わらず即敗北』というルールです」
木田は焦りを気取られないよう、息を殺して森谷の出方を待つ。
しばし目線を宙に泳がせていた森谷だったが、急におう、と鷹揚に頷いた。どうやら追加ルールとして採用してもらえるようだ。
「まあ、どんな勝負になるかも分からんし、それくらいの保険は欲しいかもしれへんなァ」
「それを追加してもらえるなら、これ以上俺からの要求はないです」
木田はそう言いながら、机の下で鉛筆を握りしめる。その手は火照る体に反して妙に冷たかった。
◇
【積みオセロ】
・じゃんけんして先攻後攻を決める。先攻が黒、後攻が白の色を担当する
・お互いに自分の色の碁石を7個、相手の色の碁石を2個持ち、メスシリンダーに白の碁石を1個入れる
・ターンプレイヤーは、碁石を色を問わず最大3個まで入れることができる
・もし碁石の色がオセロのように他の色を挟んだ場合、その色はひっくり返る
・碁石がメスシリンダーに計11個入った時、自分の色の碁石を多く入れていたプレイヤーの勝ち(ひっくり返した後に勝敗判定を行う)
・ターンプレイヤーはパス可能
・色をひっくり返すのはターンプレイヤーが全ての碁石を1個入れるたび
・一度メスシリンダーに入れた碁石同士を並び替えることはできない
・ゲーム中の暴力及び5分以上の遅延行為は即敗北
・ターンプレイヤーが碁石の色をひっくり返し間違えたら、過失かどうかに関わらず即敗北
◇
積みオセロが始まった。
じゃんけんの結果は、森谷が先攻・黒、木田が後攻・白だ。
「よっしゃ、俺が先攻か。まずは……様子見で黒1個や」
森谷が黒の碁石をぽとりとメスシリンダーの中に入れた。初手で黒1個は弱気に感じるようだが、ここで相手の白を浪費させられると考えれば得なのかもしれない。
「さあ、ゲームスタートや! お前は石を何個入れるんや?」
森谷が凶悪な笑みで手招きする。早く血湧き肉躍る頭脳戦を楽しみたくて仕方がないのだろう。
――だが、木田の答えは意外なものだった。
「パスします」
「は、はぁ!?」
「パスする、と言いました。森谷さん、次の手番をどうぞ」
「チッ、いきなりパスかい。しゃあないなァ。そこまでへっぴり腰なら、俺は黒、黒や!」
森谷は黒の碁石を2個掴むとメスシリンダーに放り込んだ。これで、石の並びは下記のようになった。
□■■■
「さあ、木田のターンや。はよ入れぇ」
「パスです」
間髪入れず返された木田の言葉に、森谷は言葉を失った。
「お、お前、何を言うとるんや。このままやと――」
「森谷さん。このゲーム、ダメですよ」
木田は冷徹に森谷の言葉を遮る。
「メスシリンダーに入る石は計11個で、プレイヤー1人が貰える石は計9個。最初に1個白を入れるんだから、1人がフルに入れたら絶対に1個分足りないんです」
森谷は赤ベコのようにコクコクと頷いた。どうやらまだこのゲームの欠陥が理解できていないようだ。
「だから、後攻のプレイヤーは延々とパスし続けて、先攻が全部の石を入れてから黒→黒→白×9の順番で入れれば全色白になって後攻の勝ちです」
「つ、つまり……このゲームには……」
「はい、後攻に限って必勝法があります。次回同じゲームをやる時はパス禁止のルールにしてください」
脱力する森谷。自身が寝食を忘れて作ったゲームに穴があったのが相当ショックだったのだろう。
「……もし俺も延々とパスする作戦に出たらどうする気や」
「それはないです。森谷さんは明日も仕事がある。たしか明日16日は総会でしたよね?」
債務者の木田には無限の時間があるが、組に所属している森谷はスケジュールに縛られていた。
「ちなみに、暴力行為は即敗北ですので気をつけてくださいね」
「く……くッ……!」
心底悔しそうな顔で木田を睨みつける森谷。これでまた命が延びるだろう。
「わぁったわい! でもゲームはゲームや。パスはちゃんと宣言せぇよ」
森谷は震えながら碁石を握りしめる。
「白」
□■■■ + □ → □□□□□
「パスします」
「黒や」
□□□□□ + ■ → □□□□□■
「パスします」
2人の声だけが部屋にこだまし、しばし無為なやり取りが続く。
「……次も黒や」
□□□□□■ + ■ → □□□□□■■
森谷が寂しそうな声で黒の碁石を入れる。
「森谷さん……全然ゲームとして成り立たないのもかわいそうなので、1個入れます」
木田は手元から黒く輝く碁石を1個取り出し、メスシリンダーの中に放った。
□□□□□■■ + ■ → □□□□□■■■
「なるほどなぁ。……これで、また俺のターンか」
「はい。森谷さんの石は残り白1個と黒が2個です」
「……そうか。そしたらもう3個全部入れるわ」
森谷は白、黒の順番で碁石を入れた。
□□□□□■■■ + □■ → □□□□□□□□■
だが、最後の1個――黒い碁石を入れる前で森谷の手が止まった。
「……く…………くく…………」
森谷が顔を伏せて唸り声を上げる。積みオセロで負けるのがそこまで悔しかったのか。
「……実践向上、ここまでずぅっと負けっぱなしやったな。ホンマこのままやと青崎先生と真兎に面目が立たんかったわ……」
「立たんかった……? はて、今回も森谷さんの負けなので過去形はおかしいと思いますが」
木田は重箱の隅をつついた。昔から細かいことが気になる性分なのだ。
「いや、立たんかったで問題ない。この積みオセロ、俺の勝ちやからな」
くくく、と笑い声を漏らしながら、ゆらりと森谷が立ち上がる。
「……はあ?」
「これが今回のルールの内容や。隅から隅までじっくり見てみい」
【積みオセロ】
・じゃんけんして先攻後攻を決める。先攻が黒、後攻が白の色を担当する
・お互いに自分の色の碁石を7個、相手の色の碁石を2個持ち、メスシリンダーに白の碁石を1個入れる
・ターンプレイヤーは、碁石を色を問わず最大3個まで入れることができる
・もし碁石の色がオセロのように他の色を挟んだ場合、その色はひっくり返る
・碁石がメスシリンダーに計11個入った時、自分の色の碁石を多く入れていたプレイヤーの勝ち(色をひっくり返した後に勝敗判定を行う)
・ターンプレイヤーはパス可能
・色をひっくり返すのはターンプレイヤーが全ての碁石を入れ終わった後
・一度メスシリンダーに入れた碁石同士を並び替えることはできない
・ゲーム中の暴力及び5分以上の遅延行為は即敗北
・ターンプレイヤーが碁石の色をひっくり返し間違えたら、過失かどうかに関わらず即敗北
森谷はパワーポイントで作ったサマリーを木田に突きつける。
「ここ、『一度メスシリンダーに入れた碁石同士を並び替えることはできない』。この記述、なんかおかしいとは思わんかったんか?」
森谷が猛禽類のような顔でサマリーの記述を何度も読み上げた。木田は森谷の後ろに陽炎のようなゆらめきを幻視する。これは、もしかするともしかして――
「『碁石同士を並び替えることはできない』……つまり、碁石同士を並び替えるんじゃなかったら問題ないんやのォ!」
そう言うが早いか森谷はメスシリンダーを根本からポキリと折り、一番下に黒い碁石を入れ込んだ!
「これでさっきと状況が逆になったやろ! ちなみにルールでは、物品の破壊に関しては一切禁止しとらんかったからなァ……!」
□□□□□■■■■ + ■ → 【■】■■■■■■■■■
「これで全色黒! 俺の完全勝利や!!」
森谷が興奮を堪えきれず、サングラスを頭にかけてガッツポーズを取る。
「どっかの誰かさんが黒をプレゼントするとかいう余計な施しをしてくれたおかげで楽に勝ってもぉたわ! ……くく、くくくく」
木田はあまりの事態に視界が歪むのを感じた。まさか、まさか本当にあの森谷がここまで策を練っているなんて――
「――想定通りだ」
「あ? お前、いまなんて言った?」
「あなたの負けです。森谷さん」
木田は森谷の敗北を宣言した。
「あぁ!?」
森谷が目を剥く。まさか負けと言われるなんて想定していなかったのだろう。
「お前……いくら魚の餌にされるとはいえ、寝言は寝て言えや……」
怒りを通り越して呆れ返る森谷。ゴネるかもしれないとは思っていたが、ここまで言うとは見上げた根性だ。
「いや、このルールに気づいた時はマジに驚きました。あの森谷さんが、俺が必勝法に気づくところまで読んで裏をかくなんて。もし、俺が必勝法に気づけばメスシリンダーを折る方法で、気づかなければ俺のやったのと同じ必勝法で攻めてくるつもりだったんでしょう」
森谷は椅子から立ち上がり、折れたメスシリンダーを手に取った。中には11個の碁石がぎっしりと詰まっている。
「明日、仕事があるっていうのも俺の話に乗っただけですよね。……そっちのほうが地雷グリコっぽい必勝法で勝つことができるから」
森谷の体がうっ、と反応する。図星を突いたようだ。
「だから俺も罠を張ることにしました。これは森谷さんがもし俺の想定していた通りメスシリンダーを折ってきた場合に有効な対策で、しかも森谷さんにだけ通用する方法です」
木田は机にメスシリンダーに入っていた碁石をぶち撒けた。白と黒の碁石がバラバラに混ざり、机上に散乱する。
「これ、俺が使った最初で最後の碁石です。よく見てみてください」
机の上の黒く輝く碁石を手に取り、森谷の手の平に乗せる。それは使い古した蛍光灯のか弱い光に照らされ、鈍い光を放っていた。
「――ん? なんやこれ?」
森谷は色レンズの銀縁眼鏡を外し、碁石をよく見つめる。何かが、何かがおかしい。
「これ、鉛筆で塗りつぶした白色の碁石やんけェ!!」
指先についた鉛筆の粉と塗装の剥がれた白い碁石を交互に見つめながら森谷が叫ぶ。
「ルールにこう記載があります。……『ターンプレイヤーが碁石の色をひっくり返し間違えたら、過失かどうかに関わらず即敗北』。森谷さん、アンタはその眼鏡のせいで黒の碁石と鉛筆で黒く塗った白い碁石を間違えてひっくり返した!」
「くゥッ!」
森谷がビクンと跳ねる。今度は演技ではなく、本当に悔しいのだ。
「だいたいアンタは自分のことを塗辺君とか椚先輩みたいなゲームプロデューサーだと思っているようだけど、自分で作ったゲームで自分が罠にハマるとか、坊主衰弱の旗野マスター並みにダサいだろ!」
森谷が連続でビクンビクンと痙攣する。あまりに図星かつ、自身の敬愛する地雷グリコを引き合いに出して非難されたためメンタルを削られているのである。
「く、クソッ! 覚えとけやッ! 次の実力向上では絶対に負けんッ! 絶対東京湾に沈めて魚の餌にしてやる!」
それだけ言い残すと、森谷はトランクすら置き去りにして部屋から逃げ出して行ってしまった。
「勝った……今月も……」
木田は全身の力が抜けるのを感じ、床にへたり込む。
「……マジであいつ、もう来ないでくれないかな」
誰もいない部屋で独りごちる木田。本当に、本当にもう二度とヤクザとやるゲームだけは御免被りたいのだった。
借金したら地雷グリコファンのヤクザとギャンブル対決することになった 不悪院 @fac
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