恋のショベルカー

惣山沙樹

恋のショベルカー

前回までのあらすじ

 大学生の瞬は、酔っ払った兄が買ってきた変なもので散々な目に遭ってきた。そのシリーズもいよいよファイナルである!




 今度はちょっと遠いところまで兄が飲み会に出かけた。帰りは終電になるという。しかし、待てども待てども連絡すら来ない。時計の針が夜一時を指して、そろそろ電話でもしてみようか、と思った時に玄関が開いた。


「ただいまぁ……」

「兄さん、遅かったね。心配したんだから」


 今日の兄は手ぶらだった。何も買ってこなかったんだな、と安心しかけていたら。


「瞬……すげぇもの買っちゃった。コンサートするぞ!」

「はぁ?」


 兄にスマホを見せられた。Gepp東京というライブ会場の使用料を払ってきてしまったらしい。


「兄さん……一体全体何やってるの?」

「いいじゃねぇかよ。俺さぁ、瞬のステージ姿見たいんだよ。歌って踊ってくれ。なっ?」


 そんなわけで、僕のアイドルデビューが決まった。兄は交際範囲が広かった。作曲を手がけてくれる人から、衣装や照明、音響など、一通りのスタッフが集まってしまった。

 僕のイメージカラーはオレンジに決まった。胸元には大きなリボン。パフスリーブのシャツ。ギンガムチェックのフリフリスカート。我ながら……よく似合っている!


「兄さん、僕、可愛い? めちゃくちゃ可愛い?」

「可愛いぞ! 俺の弟は宇宙で一番可愛い!」


 歌詞は兄が考えてくれて、それに曲がついた。「恋のショベルカー」。アップテンポでキャッチーだ。

 僕は懸命にレッスンを重ねた。宣伝なら兄がしてくれているようなので大丈夫そうだ。僕は当日、練習の成果を出せばそれでいい。

 母からは電話がきた。


「瞬! 母さん、うちわ作ったの! 父さんの分も!」

「やったぁ! 二人とも楽しみにしててね!」


 そして当日、Gepp東京。舞台袖から見ると、お客さんは満員だった。


「に、兄さん……一体どこからこんなに人呼んできたの?」

「ん? まあ、先輩とか後輩とか、色々な」


 最前列に両親がいた。母のうちわには「瞬推し」父は「こっち見て」の文字。知らない人たちも沢山いるけど、みんな僕のことが好きな人たちなんだと考えればやりきれるはず!

 照明が落とされ、短いムービーが流れた後、僕の登場だ!


「いっくよぉー!」


 そして、渾身のデビュー曲が始まった!


(瞬くんは非常に音痴だということをふまえて曲のノリだけはいいという想像だけ広げてオレンジ色のペンライトをフリフリしてください)


恋のショベルカー

作詞 坂口伊織

作曲 進藤寿乃


カッコつけ君のSTYLE お似合いBIG SMILE

僕の心をぐらぐら揺さぶるの

止められない恋のショベルカー!

全力でDIG! DIG!  DIG! どこまでも!


やったことないじゃん できるわけないじゃん

言い訳ばっかそんな自分が嫌い嫌い嫌いだったけど

君に出会えて世界が変わった

もっと知りたい! 試したい! 愛してみたい!


彗星のような勢いで

まっすぐ君の胸に飛び込むの DIVE!


遠かった二人のMILE 今はTWIN SMILE

僕ら手と手を繋いで見つめ合う

オレンジ色恋のショベルカー!

思い切ってDIG! DIG!  DIG! 奥深く!


そんなことないじゃん 意外と可愛いじゃん

君のどんな顔もどんな言葉もキラッキラッキラッ輝いて

二人で作る世界は鮮やか

もっと行きたい! 歌いたい! 愛し合いたい!


神様がくれた奇跡だから

大切に永遠に温めるの TRUE!


カッコつけ君のSTYLE お似合いBIG SMILE

僕の心をぐらぐら揺さぶるの

止められない恋のショベルカー!

全力でDIG! DIG!  DIG! どこまでも!


(歌い切った瞬くんに盛大な拍手を送って下さい)


「みんな、大好きー!」


 僕は目が合った人全員にウインクをした。




「はぁ……疲れたぁ……」


 僕は兄の部屋に帰って、ボクサーパンツ一枚でベッドにうつ伏せになっていた。


「よかったぞ、瞬。最高に可愛かった」

「歌は? 歌も頑張ったでしょ?」

「あっうん……そうだな。可愛かったな」


 兄がもそもそと僕の隣に寝転がって、頭を撫でてきた。


「瞬、好きだぞ。可愛い可愛い俺の弟」

「そう思うんだったら普段からもっと大切にしてよね?」

「わかってるって。あっ、そうだ。来週さぁ……飲み会入ってさぁ……」

「またぁ? 今度もどうせ変なもの買ってくるんじゃないの?」

「そんな気はしてる」


 兄の癖は困りものだが、こうしてアイドルデビューできたので悪いことばかりではない。僕も好きだよ、兄さん。

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恋のショベルカー 惣山沙樹 @saki-souyama

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