第23話 そういう関係
「……」
「……」
(……弥生)
(分かってるから。この空気どうにかしないと私も泣きそう……)
旅館での昼食。
グループ毎に集まって食事をする楽しい時間、のはずだった。
大部屋を襖で分割し、グループ一つにつき一つのテーブルと人数分の料理が用意される。必然的に和人達は固まる事になり、喧嘩した歌乃と奏は隣、対面に座る事を拒否。
男女に分かれて和人の対面に奏が、弥生の対面に歌乃が座ったことで一旦は落ち着いた。
「お、おお、料理、豪華だな……」
「そう、だね……」
しかし歌乃と奏は一言も発さない。目線を合わせない。
和人と弥生の目は完全に死んでいた。
半分諦めてこの地獄の時間を耐え抜こうと決意して。
それから五分ほど経った時だった。
「……悪かった」
歌乃が呟くようにそう言った。
驚いた和人の隣で歌乃は続ける。
「……八つ当たりしたのは、完全に俺が悪い。ごめん」
ストレスが溜まっていた事で奏に八つ当たりをしてしまったと。
歌乃は謝った。
「……私も、ちょっと感情的になり過ぎた。ほっぺた叩いたのは、やり過ぎだった。……ごめん」
お互いに目は逸らしたまま。
それでも二人は静かに食事を再開した。ぎこちないが謝る前の不機嫌さは無い。
和人は小声で歌乃に声をかけた。
(歌乃)
(……何だよ)
(偉い)
(……うるせ)
そして対面。
弥生も小声で奏に話しかける。
(奏ちゃん、良かったね)
(……私から謝りたかったのに)
(ふふ)
ようやく空気が良くなる。
が、和人がふと気づいたように歌乃の頬を見た。
「そういや……まだほっぺた赤いな。もう痛くないのか?」
「……普通に痛い」
「後で冷やしといた方がいいと思うぞ。……ていうか、あれだな。ビンタされても本当に手形がつくことってあんま無いのな」
「それは漫画の読み過ぎだ。現実的に考えろ」
「……奏ちゃん、さ。喧嘩とは別に謝ったほうがいいと思う」
「うっ……」
未だに赤みの残った歌乃の頬。
原因は言わずもがな奏のビンタによるもの。
怒りに任せてしまったとはいえ、一方的に叩いた事に奏は罪悪感を感じていた。
「ご、ごめんね……流石にほっぺた叩いたのは反省してる……」
「……右のほっぺたこっち向けろ」
「えっ……うん」
言う通りに奏は右のほっぺたを歌乃に向ける。
一気に引っ張られた。
「黒瀬君っ!?」
「っ!?いひゃいいひゃい!!」
歌乃はすぐに手を離した。
ジンジンと痛む頬を涙目で抑える奏に、歌乃は飄々とした様子を見せて言った。
「これでおあいこな」
「容赦ないな……」
涙目で睨まれても歌乃は気にした様子もなく料理を食べる。
何事もない風を装ってはいるが歌乃の仕返しに弥生は感心していた。
強引なやり方。
それでも奏の中で一方的に叩いた罪悪感は上手に消えているだろうと。
その上で自分はやり返す。
双方の不満の落とし所をきちんと見極めたやり方だった。
だからこそ疑問に思う。
「黒瀬君って他に友達いないの?」
「…………鈴代さん何でいきなり言葉で刺してきた?割と辛い」
「あはは、ごめんね」
「真面目に答えると歌乃は話しかける部分で躓いてるよ。面倒臭いね」
「……何だ、もう一度喧嘩するか?」
「おいやめろ歌乃。飯の時間にあの空気は最悪だ、二度は勘弁してくれ」
「煽ったのは奏だ」
「か、な、で、ちゃ、ん?」
「……ごめんなさい」
四人は話しながら料理を平らげていく。
食べ始めた時とは正反対の、心地よい雰囲気でお昼時は過ぎていった。
高校生活を幼馴染と 黒奏白歌 @kensaki_kagura
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