最終話 心無くしては飢えを満たせぬ

「うおぉ!?落ちてる!?」


世界が崩れ、全てが奈落に落ちていく…


「畜生!!飛べ!私!飛べぇ!」


小さな翼をばたつかせて必死にもがく…おかげで

少しは宙に浮き、わずかな足場に飛び移って脱出を試みる。空間にぽっかりと空いた空洞に一か八かで飛び込んだ…


「ウオラァァァ!」


……………………


ふと、柔らかな布の感触に目を覚ます…


「……あ…!?」


煉が目覚めた場所はベッドの上だった…


「うぅん?…ここは…あいてて…」


目線の先には眠たげな目でこちらを見ていたセドナがいた…そして自分を見るなり、目を覚ました。


「…煉…い、生きて…!」


セドナがぎゅっと自分を抱きしめる…なんだか

こそばゆい感じがする。


「うん、何でか生きてるよ…あてて…」


「あぁ…すまん、傷に障ってしまうな…」


「皆ぁ!煉ちゃんが目を覚ましたわ!!」


「母さん!煉はまだ病み上がりなんだ…!少しは大人しくしててくれ…!」


「はーい…」


セドナは元気にマリネアを叱っている。自分よりも重体に見えたというのに大分回復していた…自分はまだ弱ったままで、体が縮んで力も弱いまま。なんとか体を支える事はできるが、身体中が焼けるような痛みに包まれている…


「サルミアは…?」


「奴なら消えたさ…奴は妾達の大罪を取り込んだはいいが、その後…魂が崩れて大罪ごと消え去った。恐らく…全ての大罪を制御するのは不可能だったのだろう…一つの魂に複数の魂を統合するなど…」



(…崩れていったあの世界は…奴の魂の内側だったのか…)


「それにしても…本当に良かったわ…!一ヶ月も

起きなかったのよ?」    


「マジか…皆はなんだか元気そうだが…」


「お前が一番の重症者だ、身体の変化も大きい…」


「サイズはちっちゃくなってるけどね。」


「ふふふっ…確かに…」


「お前は特に大罪が魂に深く根付いていた様でな…

魂の一部である大罪が剥がされたせいで、

損傷を治すのに時間が掛かったんだろう…

メーヴルでさえ倒れたのは一週間だったのに…」


「うっへぇー…確かにめちゃくちゃ成長が早かったけどさ…大罪が無くなっただけでこんなに

小さくなる?」


「そりゃお前…まだ産まれてから間もないだろう。それを差し引いても、龍としては小さいが…」


そんな話の中、どたどたと走る音が響く。


「オイッ!目を覚ましのか!?」


「あんまり騒いじゃ傷に障るニャ…」


「落ち着いて、メーヴル?私達もまだ治ったばかりなんだから…」


キーケとメーヴル達も合流して来た。


「いやぁ…それにしても、一ヶ月も寝てたんなら飯を食ってないよな?…何で生きてるんだ?」


「それはな…これだ!」


「…私の角じゃないか。」


「そうだ、お前の力がまだ強い頃に折ってたから…力がまだ残っていたわけだ。」


「はへ〜…」


「それと、お前の大罪が消えた事も影響してるだろう…」


「え?消えたの?」


「消えたというよりは…大罪が一箇所に集まらなくなって、全ての生命に行き渡ったんだ…魂を歪める程の偏りはなくなり、あの時の様な渇望も消えた。代わりに、全員がちっちゃな欲望を持つことになるがな…」


「でもね?悪い事では無いのよ。魂の歪みって言っても、それはなんて事無い個性なの。誰にだって

ある者だわ。それを無理矢理外して矯正していたんだから…きっと、本来の形に戻ったのよ…」


「よくわかんねぇな…私はそんなことよりも

腹が減ったね…」


「言うと思ったよ…粥でも作ってきてやるから待っておれ…」


「それにしても…良かったわ…こんかにちっちゃくて可愛いんだもの〜♡ねえねえ?

どうしてそんな姿になっちゃたの〜?」


キーケが擦り寄って抱きついてくる。


「ぬわぁ…!?何か気持ち悪いぞお前!?」


「キーケは小せえ奴が大好きだからなニャ…

しばらくは君に矛先が向くだろうニャ。」


「まあこうなった原因はテトにあるんだけどな…」


「ぬおおお…!暑苦しいぞおぉ…!」


「何やってんだキーケ…病人にじゃれつくんじゃ

無いよ…」


「はーい……」


キーケは明らかにしょんぼりしている。


「ほれ、飯だよ…口開けな」


もぐもぐと食事を取って初めての感覚を感じ取る。

今まで飢え続けた自身の渇きが癒されていく…

言葉にしようもないが…遠い過去、初めて食べた美味いもの。そんな思い出の味になるであろう、温かく

美味い食事であった。


「な、何で泣く!?そんなに不味かったのか…?」


「逆だ…めっちゃウマいし腹が満たされる…

こんなん今までで初めてだよ…毎日食いてぇ

くらいに…!」


「そ、そりゃあ良かった…本当に良かった…」


セドナは何だかほっとしている様子だった…


「あらぁ大胆ねぇ。」


「多分そういう気は無いニャ…」


[ハハハハハハ…]


…………あれから少し経って私達の傷は癒えていった…大罪が消えた事で私は随分と人々と暮らすのが楽になった。何せ巨体で街を壊す事も無いし、馬鹿みたいな力も無くなった。…まあ、野良猫に負けるくらい弱くなったが。だが、少なくとも今までよりも随分と満たされた生活を送っていると感じられる。それに、今までよりも食事が美味しい。それだけで十分だ。



ありがとうございました

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転生龍は食べ盛り! ハトサンダル @kurukku-poppo

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