第19話 鮮度の低下は死なずとも

煉は大罪人達とサルミアの住処に向かっていた…


「…霧で何にも見えないわ…本当にこっちなの?」


「嗅覚で辿れるから平気だよ。あの野郎は随分と

カビ臭い奴だったから覚えてるよ。」


進むにつれて…霧が晴れ、最深部に辿り着く…


「…待っていたぞ…」


「……あれ?なんか姿が違う…」


サルミアは腐った死体の様に腹が膨れており、毛も抜け落ちて

原型が無くなっている…


「私の復讐を終わらせはせん…!貴様らは永遠に

罪の苦しみを味合わ無ければならんのだ…」


「なんだってそんな事…」


「この世界は永遠に穢れたままだ…貪欲で醜悪な

心を持つ人ならぬ獣共だけが世界に残った…

儂一人に全ての罪を背負わせたのだ…奴らは大罪の業を背負わず…永劫に続く罪の代償に苦しむ事もない!」


サルミアが魔術式を組み始め、全員がそれを阻止

する為に動く…が、標的は違った。


「ぐはっ…」


「なっ!?じ、自分を!?」


「ククク…私は…滅びぬ…貴様達全てに罪を自覚 させるまでな…!」


サルミアが魔術で弾け飛び…亡骸は塵になった…


「一体…何を」


その時、塵が形を成し…全員の体を通り抜ける…


「うわぁっ!?」


「まだ生きている!?」


「何…うっ!?」


全員の体から力が抜け、体に異常が生じ始める…

セドナは体が崩れ、キーケは己の魔力に蝕まれる…

マリネアの肉体が歪み、メーヴルは咳き込んで

血反吐を吐く…煉は体が小さくなっていく…それにも関わらず、自身の体の重さを支える事が出来なくなるほどに力が弱まる…


「こ…れ…は…」


「貴様達は罪状の分だけ力を得る…私も同じ様にな……私が刻んだ大罪によって貴様らが積み上げた力は罪が清算された時、消える……」


「あ、アンタ一体…」


サルミアは塵からどんどんと形を成し、遂には人型になる。そして煉達は意識を手放した…


「さあ…もう一度全ての罪を一つに…!」


──────────


放り出された意識の中、煉は夢を見る…ねじくれてぐちゃぐちゃの大地とヒビの入った空…狂った世界の中…一人の男が佇んでいる。


(これは…サルミアか?)


それを見た時、彼の記憶が煉へ入っていく…


「うわっ…!?」


自分ではない男の夢…男は人々の為に生き、自身の身を粉にして人々に生きる力を与えた。その行動はただ、善き心から起こされた…男のおかげで人々は飢えと病を凌ぎ、平和を取り戻していった…


(こいつは…飯屋 育人の記録と一致する…じゃあ…

コイツは…)


しかし…一つだけ治せぬ病があった…魂が歪み、

狂気的な欲望に取り憑かれた人間だ…彼らはその

代償により凄まじい力を得た…直さなくてはいずれ

完全に狂う。人々を災厄と化す兆候は七つあった。


(これは…大罪の話か…?)


…唐突に平和は崩された。善き人々の平和は強欲な人間達に焼き尽くされた…災厄の芽を摘む為という大義名分を背負って街を蹂躙した。人々は

理不尽な行いで殺されていった…しかし彼らは

自分達が世界の癌となると考えるほどに、優しい者達だった…だが仇達の行いは…下卑た欲望によるものだ…殺されると知っても、愛した人々は優しく…愚かだった…この様な穢れた獣共に侮辱されて尚、清らかな心を曲げなかった…


「…そう…だったのか…」


だが私だけは復讐の穢れと…殺した者達の業と罪を背負った。そうせずにはいられなかった…もう…

この世界に救われるべき者はいないからだ。

ランチスを侵略した者達は…奴らは大罪の業を背負わず…何もかも奪い去った…

愛した人々も街も全て焼き滅ぼした!

善き人々は消え…この世界は永遠に穢れたままだ…だから、罪が消えるなどあってはならん…この世界には罪の苦悶が永遠に続かなくてはならない…!


「あ…」


煉はサルミアの精神に入り込んでいた…魂の歪みが

取り込まれ、切り離せなかったが故に…


「クッ…混じらない…何故だ!?大罪は全てここにあるはずだ…!」


「…オイ!」


「な!?貴様は…!何故ここに…!大罪が無くなれば…お前達の魂は抜け殻になる筈だ…!」


問われる煉自身も想定がつかないものの、皆を救うために動く…攻撃は全く通じていない…体は小さくなり…パワーが全く無い。


「なんでこんな事に固執する!?見せてもらったがなぁ…お前の復讐対象はもういないだろ!」


「貴様に何が分かる…友も家族も焼き尽くされ…

仇討ちの為に大罪だけを背負った…私の何が…!」


「知るかよォ!」


「!?」


一心不乱にサルミアを攻撃するが、赤子のように

ひ弱な力しか出ない…が、サルミアに傷がつく…


「そもそも!私達があんたの復讐に付き合わされる義理はないんだよ!それに!無関係の人間を攻撃するのは単なる八つ当たりだろうがよおぁ!!」


「…ッ!…黙れ…黙れえぇ!」


サルミアの一撃に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる…


「グッ…ゲフ…!ガァ!…ハァ…結局お前も…

憎んでた奴らと全く同じ事をしてるだろうに…」


「……何…!?」

 

「…復讐なんて言っときながら…罪の無い人々を…罰するなんて事をやってる時点で!お前の大嫌いな侵略者達と同類なんだよ!」


「…ぐはっ…!?…ぅう…ぐっ…!」


サルミアの体がひび割れていく…


「うるさい…うるさいうるさい!何故無辜の彼らは殺され!私達だけが苦しみを背負わねばならない!?何故!?貴様らは…その責を背負わない!?私達を殺し!狂わせた罪人の癖にィ!!」


「知るかよオォ!」


…言葉は意味を失い、暴力だけで二人はぶつかり合う…ある者は体を砕かれ、もう一方は大義と心を砕かれ…魔術すら使わずに殴り合うだけの獣の如き

戦闘が続く…


「グアァ…!」


いつしか二人は地に倒れる…


「…い…嫌だ…まだ…私…の…復讐…は…」


世界が崩れていき、空が溶け…大地は全て消えて

落ちていく…


続く


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