入会していました。

「俺とともにフットサルをやらないか?」

「え?」


 なんだこの頭のおかしい先輩は!

 さっきまでシリアス展開だったのに全然空気読まねえじゃん!

 怖い怖い怖い怖い……


「あ、はじめ? はじめじゃん! 久しぶり~!」

「すまないな全代まさよ、気持ち嬉しい。だが次の大会は男子だけなんだ……だから全代とフットサルをすることは出来ないんだ。」

「誰もやるなんて言ってないでしょ! サッカーは見る専だし~」

「サッカーではない。フットサルだ。二度と間違えるな」


 なんだ……なんなんだ……なにが起こっているんだ……?

 先ほどのゴツい先輩と、髪が水色の女性が話している。

 全く会話が噛み合っていない気がするがまあいい。気にするだけ無駄であろう。

 よし、二人の気がお互いに向いている間にこっそり逃げてしまおう。


「あ!!!」

「うわっ……なんですか?」


 水色ともよが目を輝かせていきなり叫び出す。

 こちらに指をさしていたので知らん振りをして去るわけにもいかなかった。


鳴坂憧馬なるさかしょうまじゃん!!」

「はい、鳴坂憧馬です」

「なんだ、全代も知っていたのか。こいつは俺とフットサルで全国にいく男だ。ちゃんと覚えておけよ」

「いやまだやるとは……」

「え! ほんと!? 絶対大会の日呼んでね! 見に行く!」


 駄目だ、話が通じない……こんなテンション絶対ついていけないぞ……どうしよう、いろんな意味でこのサークルに入りたくない!


「ていうかなんで俺のこと知ってるんですか? もしかして……」

「あーそれね、私西涼のOGでさー……サッカー部でマネージャーやってたから全国大会観に行ったの! そこで君のファンになっちゃった!」

「ぼこぼこにされたチームのファンになるの、どうかしてると思います」

「個サポだから良いの!」


 西涼とは俺が3年の頃のサッカー全国前哨戦にて、三回戦で当たった高校だ。

 ドリブル重視の学校でトリッキーな選手が多い印象がある。

 でも、俺達はディフェンス陣が皆プロ内定しているというほどに優秀だったので、シンプルに得意のドリブルが封じられた。

 だからあんまり怖くなかった。


「いやー、あの氷皇をこんなに近くで見れるなんて……やっぱりイケメンだね!」

「その呼び方辞めてください」


 いつの間にか周りから“氷皇”と呼ばれるようになっていたが、当時は心の底から嫌だった。

 だってダサいもん。カッコ悪いもん。


「憧馬ってそんなに有名だったのだな」

「そりゃある程度サッカー知ってる人だったら皆知っていると思うよ? 全国優勝した高校のエースで、史上初の得点王アシスト王の二冠。加えて最多得点と最多アシストを更新。極め付けはこのルックスでしょ? 何回かテレビ出てたもん」

「ほう……やるではないか。俺の目に狂いは無かったようだ」

「……」


 サッカーはもう辞めた。

 大学で続けるつもりはもうない。

 やりきったというか、燃え尽きたというか……あの頃はどうしても全国優勝したいだけの理由があった。

 だから走り続けていたのだ。

 でも今はどうだ? もはや俺にサッカーをやる理由は残っていない。

 もう一度本気で打ち込むだけの熱が足りない。覚悟が足りない。

 先輩には申し訳ないがここは断ろう。


「すみません。俺はたぶん、もうサッカーに対して本気になれません。だからこそ本気で全国を目指しているあなたの隣で、ともにボールを追いかけることは……俺には出来ない」


 はじめ先輩が日々一生懸命努力しているのは身体を見ればわかる。

 飛び出たふくらはぎや太もも。決してぶれることのない身体の軸。

 あげ出すとキリが無いが、そこまで鍛え上げるのはかなりの労力が必用だ。

 周囲との熱量の違いから来る虚しさは俺にも覚えがあるので、現在全くやる気のない俺がこの人の横でプレーすることなんて出来ない。


「憧馬……」

「そっか……憧馬君辞めちゃうんだ。残念だなあ……もっとプレー見ていたかったのに」

「フットサルじゃなくてサッカーな。二度と間違えるなよ?」

「……」


 俺は何事もなかったかのようにこの場を去った。

 やってられるか!



 あれから1週間がたった。サークルの勧誘も徐々に減ってきて、人通りが良くなった外の通路を歩いていると見覚えのある筋肉ダルマが現れた。

「俺はあんな人知らない。こちらを見ている気がするが気のせいだ。きっと俺の後ろに知り合いがいるだけに違いない」


 見なかったことにして足の向きを変えた。

 遠回りをしよう。

 別に大した意味はないがとにかく遠回りだ。


「久しぶりだな、憧馬」

「あたしもいるよ~」

「……」


 バレた……もとよりバレていた。

 そして途轍もない力で肩を押さえられている。つまりもう逃げられない。


「なんですか……? サークルなら入らないですよ?」

「今日は勧誘ではない。別の話だ。ついてこい」

「えぇ……」


 ついてこいとは言われたが、ほぼ引きずられるような形でどこかへ向かわれる。

 まあいい。これで終わらせよう。

 勧誘じゃないらしいし、話だけ聞いて帰ろう。

 そして二度と関わらないようにしよう。


「ここだ」

「ここって……?」

「ああ、フットサルコートだ」

「そりゃ見れば解りますよ?」

「む? ああそうか……そういうことか、全代はここで待っててくれ」

「えー? どこ行くの?」

「もちろん更衣室だが? 俺は着替えているがこいつはまだだからな」

「あーね!」


 えーっと……? どういうことだ?

 俺はフットサルコートに連れてこられた。そして着替えが必要らしい。

 ということは……


「あの、もしかしてサッ……じゃなくて……フットサルやらされようとしてます? 俺」

「? 何を言っているんだ?」

「ですよね、まさかそんなわけ──」

「それ以外になにが有るというのだ?」

「……勧誘はしないって言いませんでした?」

「ああ勧誘してないぞ? だってお前はもう入会しているのだからな。する必要がない」


 そういってなにやら名簿らしきものを見せられた。

 そこに何故か俺の名前が……


「え……えぇーーーー!?」

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憧れの先輩につれられて入ったサークルは飲みサーでした。 ハンバーグ @bargarkun

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