獣人リンク冒険記

ジン

第一話「まがいもの」

『はぁ、はぁ、はぁっ』


リンクは走っていた。ボロボロで傷だらけの4本足を精一杯動かして。


「待てよ!このまがいもの!!」

「そっち行ったぞ、絶対に逃すな!」


息を潜めて茂みに隠れる。彼らに追われてできた傷や、

噛んだり引っ掻かれたりしたところがジンジンと痛んで、リンクは泣きそうだった。


(どうして僕ばっかり…、僕だって、半分はみんなと同じなのに)


リンクは動物たちの住むワカサギの森に住んでいる子供の狼だ。

人間のせいで罠にかけられ、親がいない子供の獣というのは珍しい話じゃなかった。

リンクが周りの動物たちにいじめられ“まがいもの“と呼ばれてしまうのは、

リンクの血に流れる半分のもののせいだ。

この世には、人間、人間のハーフである「獣人種」純粋な獣である「純血種」

そして純血種の中でも高等な一族の名前を持つ「神獣種」が存在する。

人間と獣の間には長い間険悪な関係が続き、

残念なことにリンクは狼の「獣人種」だった。半分人間の血が流れている彼を、

純血種の動物たちは許さなかったのだ。


「どこいった!」

「絶対に見つけ出して今日こそ追い出してやる…!」


特にリンクが彼らに何かをしたわけではない。

ただ、純血種や神獣種の住む場所、食べ物、その生体の毛皮などを求めて

狩りをしてきた人間のことを恨んでいるのだ。

何もしていないのに、自分の血のせいだけで毎日いじめられ、

噛みつかれ、追い出され、酷い言葉を浴びせられる。

そんな生活に嫌気がさしていたリンクは、頭を抱えてその場にちぢこまった。


(どうして僕は獣人種なんだろ。何もしてないのに。

 僕だってみんなと一緒に暮らして、遊んだり狩りをしたりしたいだけなのに)


考えれば考えるほど涙が溢れてきて、声が漏れそうになる。

場所がバレたら嫌なので、リンクはその声を必死にこらえながら

ただその場で身を小さくしていることしかできなかった。

幸いリンクの体は子供でまだ小さく、じっとしていればバレることはないだろう。

今日はここで彼らをやりすごそうとギュッと尻尾を硬く巻いたリンクは、

一日中追いかけられてきた疲労からかいつの間にか眠ってしまっていた。


『ん…寝て、た。』


あたりをくんくんと観察し、彼らがいないことを確認すると顔を出す。

鈴虫たちがリンリンと鳴いていて、どうやら今は夜のようだ。

月明かりが植物や岩や草木に反射して、とても綺麗だった。


そろりそろりと足を出しながら、川へ向かう。

本来獣人種の回復度は凄まじいもので、噛み傷もかすり傷も一晩で治る。

だが、リンクは十分なご飯も食べられていなかったからなのか、

ずっと噛まれたところも引っ掻かれたところも痛いままだった。

歩けば歩くほど傷がずきんずきんと痛んで、また泣きそうになる。

口を食いしばって、一生懸命月のよく見える崖の上へとよじ登った。


リンクのお気に入りの場所だ。ここからはよく森が見える。

空も見たわすことができるこの静かな場所は、リンクの心を

癒してくれるとても大切な場所だった。

痛いところをぺろぺろと舐めながら、血の味のする自身の体を毛繕う。


『僕、ずっとこのままなのかな…』


はぁ、とため息をついたその瞬間、突然周りから複数の遠吠えが聞こえた。


『何?!』


痛む体を起こして、あたりを見回す。

恐怖で体が震え、耳はピンとはり、鼻はヒクヒクと動いていた。


「やっぱり出てきた。今日こそぶっ殺してやる!」


リンクのいる崖上から反対方面の茂みから声がしたかと思うと、

日中追いかけてきた彼らが姿を現した。


『ひっ、ど、どうして?!』

「お前が獣人種だからだよこのまがいもの!」

『僕が君たちに一度でも何かした?!』

「んなの関係ないんだよ、お前はまがいものだ!」

『待ってよ、話を聞いてよ!僕だってみんなと同じだよ、同じ動物だよ!』


全く話を聞いてくれない彼ら。ジリジリと囲うようにして近づいてくる彼らの瞳は、

静かに闇夜の中でリンクのことを捉えていた。


『ねぇ、やめてよ…』

『ねぇ、お願い…』


震えながら後退りをすると、後ろでカラッと何かが落ちる音が聞こえる。

咄嗟に振り向くと、もうそこは崖の先端で、

下にはよく見える森が広がっているだけだった。逃げ場はなくなったのだ。


「今だ!やっちまえ!!」

「このまがいものめ!」

「出ていけ!!この森から出ていけ!!!」

『やめて、やめでッ痛い、痛いよ!やめっ_』

「誰が辞めるもんか!この人間の手に落ちた裏切り者め!」

「森から出ていけ!」

「お前なんか誰も必要としてないんだよ!邪魔なんだよ!出ていけ!」


日頃純血種に追いかけ回される影響で、体は傷だらけ。

癒えるものも癒えないまま、十分なご飯も食べることができず。

挙げ句の果てにその身に勝手に背負わされた血種のせいで酷い言葉を

浴びせられ、毎度毎度ボロボロになるまで噛みちぎられ、叩かれ、引っ掛れ、

酷い言葉を浴びせられる。もう、リンクの心は限界だった。


数十分は経っただろうか。体に与えられる衝撃が止み、目を開ける。

いろんなところから血が出ていてとても痛い。

噛まれたところがジンジンと刻むように痛んで、そしてとても熱かった。


「もう2度と起きられないようにこうしてやる」


痛みで動けないリンクの体を、前足でグイグイと押した一体。

「生まれてくんなよ、このまがいもの!」

崖からあっけなく落ちていくリンク。体は中を舞い、痛みで朦朧とする中

リンクは自分を突き落とした純血種のことを見つめていた。

(どう…して、僕…だ…って、皆…と……同じ、)


なのに。


ガサガサガサッとすごい音がして、リンクの体は木々の葉っぱや枝に刺さりながら

すごいスピードで落ちていく。道中岩にぶつかって跳ねたりする姿を、

彼らは上から高笑いをして見物していた。


「これでもうあいつは死んだよな。」

「あぁ、俺たちが成敗したんだ。」

「全く、しつこいやつだった。まがいもののくせに仲間に入ろうだなんて」

「行こうぜ。」


ドンッ、と鈍い音がしてリンクの体は地面に投げ出される。

すでに意識を失っていたリンクは、転がるがままに野原へと放り出された。

傷だらけでご飯もまともに食べられていないリンク。

そんなリンクの元に、ヒュー、ヒュー…と今にも消えそうな息の音を聞いて

近づいてくる大きな影が一つ。


彼の名前を、フォスシルと言った。

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