第二話「大きな獣」
「神獣種」。それは純血種の中から稀に生まれる高等な血筋の持ち主であり、
それらは人間の世界にも神獣として崇め奉られるほどの血種であった。
神獣種は通常より何倍も体が大きく、
人の言葉をそのまま喋ることができる個体がほとんどで、
力も知恵も弱肉強食の頂点に立つ人間と肩を並べるほどの実力があった。
そんな神獣種は、人間の中だけでなく動物たちの中でも尊敬され、優遇され、
そして我ら獣族の誇りだ、と崇められていた。
しかし、その美しい毛並みや強い力、知恵などを軍事利用しようとした
人間たちによって昔よりその数は激減、絶滅寸前の最中にあった。
よって、神獣種は獣族の中でも最も人間を恨み、忌み嫌っているものが
多かったのである。
___________
黒い美しい毛並みが月の光に反射して、少し青く光っている。
どこからか新しい血の匂いを感じたのか、その獣は匂いの元を辿り探し始めた。
普通より大きく、そして美しい見た目をしているそのオオカミは、
ボロボロで倒れている血だらけのリンクを見るや否やその場に近づく。
「…おい、死んでるのか」
『………』
「…いいや、微かだがまだ呼吸をしてるな。」
喉が閉まっているかのようなヒューヒューと甲高い呼吸音を聞いて、
そのオオカミはリンクを優しく咥え持ち上げると足早にその場を去っていった。
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『ん…』
なんだかもふもふとしたような感触に包まれている気がしたリンクは、
朝の光で目を覚ました。ぼやけた頭で体を起こそうとすると、
鈍い痛みが全身に走る。
『い“っ…』
力が抜け、そのままヘナヘナとまた倒れ込んだリンク。
だけどどうしてだろうか、以前より少しだけ息がしやすい。
(たくさん眠ったからかな…えっと…確か崖から突き落とされて…
あれ、僕死んじゃったのか…?)
朦朧とする頭で考え事をしていると、ヌッと視界に大きな影が映る。
『へ』
「まだ体は動かさない方がいい。傷は癒えていない」
大きなノズルが目の前に現れて、ペロリとひとなめされたリンクは
状況が理解できないまま、かちこちに固まった。
理解が追いつかないにせよなんにせよ、
彼にとって自分以外の動物たちはいじめてくるものだったからだ。
『えっ、あ、うっ、』
体の痛みと、突然の驚きに心臓が跳ねてますます傷が痛くなる。
そんな様子を感じ取ったのか、目の前の巨大なそれは言葉を続けた。
「安心しろ、ここにはお前をいじめる奴はいない。」
『えっ、』
その時、初めてリンクはフォスシルの顔を見た。
黒くて美しい毛並みに、温かい蜂蜜のような黄金の瞳。右目には少し、
人間と戦ったのか傷跡があって、そこだけはげてしまっていた。
「お前の傷の状態を調べたら、中くらいの牙や爪を持つ動物に
噛みつかれたり引っ掻かれたりしたようなものばかりだった。
強い打撲や骨折も見られるから、しばらくの間は安静にしてるといい。
大丈夫だ、俺がいれば誰もよってこん」
そう言ってリンクのことを自分の大きな体で囲み、
しっかりと守っていてくれているフォスシルを見てリンクは驚く。
だけど、そんなに困惑できるほどの体力も戻っておらず、
ひとまずなんだかよくわからないけどいじめられないのかと思った安心感から、
またリンクは意識を手放してしまうのだった。
そんな様子を見て、フォスシルはふと一息をつく。
「眠ったか…。傷の具合が酷そうだな。
仕方ない、あいつのところへ連れて行こう。」
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