第7話 七子さんとの再会

朝の通学の電車は、いつも通りの混み具合。

俺は始発駅から乗り込むから、

ホームに並んで、最悪、一本見送って、

次の電車なら座れる可能性が高い。

今朝は朝から、カッタルイので、次の電車に乗ることにする。

学校の始業には、ギリギリだが間に合う電車。

俺は、なんとか席を確保した。

優先席含め、全ての席が埋まって、立っている人もチラホラ。

その程度の混み具合なら、まだ良いのだが。


途中駅をやり過ごす度に、人は徐々に増えてきて、

いつものことだが、嫌な感じ。

何はともあれ、ムカつく。

人の熱気が気持ち悪い。

イライラする。


以前は、こんな気持ちになったことがなかったのに、

あの事件以来、俺の心はずーっと落ち着かない。

俺は社会的に抹殺されてもおかしくないのに、

今、こうしていられるには、

犠牲となった人を忘れてはいけない。

世間に迷惑をかけてしまった事を忘れてはいけない。

なんとか恩返しをしたいが、実現していない。

俺の人生の最大課題と決めたのに、

具体的に何をすべきか、わからない。

ほんと、自分にムカつく。






また、次の駅に到着。

またまた人がたくさん乗り込んでくる。

ほんと、ムカつく。


「あっっ。」


思わず、小さいが声が出た。

あの子だ。

深くキャップをかぶっているが、

座っている俺の目線から見上げれば、

間違いない、あの女の子だ。


以前、この電車でよく見かけた気になる女の子。

何気ない仕草、笑顔がかわいい女の子だった。

よく覚えている。

半年ほど見かけない、と思ったら、事態が変わってしまったようだ。


以前と違い、彼女は白い杖を持って、

一緒にいる女性の腕をしっかり掴んでいる。

目が見えなくなったのか?

病気なのか?事故なのか?


俺は無意識に立ち上がり、彼女の腕を取った。


「ひゃぁ!!」

彼女は声を上げた。


「ご、ごめん!でも、どうぞ。」

しまった、びっくりさせちゃったかな。


彼女の腕を取って、座席に導く。


「ありがとうございます。」


あの時と同じ彼女の声だ。

ほんの一言二言しか話したことはなかったが、

確かに彼女の声だ。


「ど、どう、いたし、まして。」

俺の返事は、たどたどしい。

ほんの些細な接点だったが、

知っている人が視力を失っている事実に動揺していた。

何があったか知らないが、

この人を助けなければ、と、思った。


これは、世間への恩返しの一つになる、と、思った。


そう、そしてこれが、七子さんとの再会だった。






翌朝も、遅刻ギリギリ覚悟の電車に乗る。

彼女が乗るはずのこの車両に。

そして彼女のために、席を確保する。

今朝は、優先席しか押さえられなかったが、

目が不自由な彼女のためだ、良しとしよう。






こうして、俺の毎朝のルーチンワークが始まった。

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晴子さんと大沢先輩の恋 ムーゴット @moogot

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