第6話 六ヶ月後に復帰

事故で視力を失った。

どうやら、回復の見込みはないらしい。

人生終わった、と思った時もあったが、今は違う。

半年の入院とリハビリ期間を終え、明日から学校に復帰する。


私は高校二年生、音楽科に通う女子高生です。

出席日数が足りず、来年も二年生の予定。

でも、命は助かった。

盲目の音楽家、なんて、ちょっとかっこいい。

私はポジティブです。

と、自分に言い聞かす。


事故の後は一ヶ月近く、意識が戻らなかったらしい。

その間、なんだか、いろいろな夢を見ていた気がする。

ピアノを弾きながら、世界中を旅する。

学校の友人たちと演奏会を企画する。

部活の卓球は、一回戦敗退。

気になる男の子と一緒に街を歩く。


友人に送ったメッセージの履歴によれば、

気になる男の子、

いつも電車で一緒になる、名前も知らない男の子に、

お礼としてクッキーを渡すことになっているらしい。

確かに、事故の前日の夜、

私はクッキーを焼いていた、と母は言う。

ところが、翌日の早朝、日課のランニング中に事故に遭ったらしい。

事故の前後の記憶は、前日も含めて、はっきりしない。

そうして、その男の子とは会えずじまい。






事故後、初めていつもの電車で学校へ向かう。

しばらく、母が付き添ってくれることになった。

本格的に街を歩くのは、これが初めて。

母の腕を掴んで、牽引してもらう。

以前は、あまり意識したことはなかったが、

360度パノラマサウンドが、ちょっと怖い。

その音の発生源が、次の瞬間、襲ってきそうで、怖い。


ザワザワざわザワガチャガチャかちゃガチャコツコツごつコツ、、、、


駅は、怖い。

プラットホームは、怖い。

電車は、怖い。


扉が開く音。

人が流れる音。


なんとか車内に乗り込んで、母親にしがみつく。






突然、腕を掴まれて、思わず声が出た。

「ひゃぁ!!」


「ご、ごめん!でも、どうぞ。」


どうやら、席を譲ってもらったらしい。

母が何度もお礼をしている。

その人は、私の腕を取って、座席に導いてくれた。


「ありがとうございます。」

背中側は窓のはずだから、とりあえず正面に向かってお礼を言う。

ターゲットは右か、もしくは左にいるかもしれないが。


右から返答があった。

「ど、どう、いたし、まして。」

たどたどしく、動揺を感じる男性の声。


どこかで聞いたことがある声!?

でも、わからない。

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