第5話 五月の末にようやく目覚める
目が覚めた。
いつもと違うベッドは、すぐにわかった。
背中の収まりに違和感がある。
頭がぼーーーっとして、目覚めが悪い。
何だか体幹が痛くて、体が起こせない。
顔には何かが覆い被されていて、視界は真っ暗。
覆いを外そうと、手を動かすが、重い?固い?
上手く動かせないが、やっとの思いで右手を額に乗せると、
頭の上半分は、何かで包まれている。
包帯?
「なっちゃん!、、、なっちゃぁん!!」
おかあさんが呼ぶ声が聞こえる。
「ふぁあんぁ、、、」
返事をするが、上手く言葉にならない。
「あぁあぁ、よかった、よかったぁあぁ、、、」
おかあさんは泣いている。
あっ、思い出した。
私は車にぶつかって、跳ね飛ばされた。
交通事故にあったんだ。
ここは病院かな。
視界からは何も情報は得られないが、音が聞こえる。
病院の音が聞こえる。
うぅ、首が痛い。
手や足は動くが、重い。力が入らない。
頭も、、、痛い。
私、元通りになるのかな。
おかあさんは、よかった、と泣いている。
私も釣られて泣けてきた。
でも、意味が違う、不安の涙。
私、元の生活に戻りたい。
四月、高校に入学して、新しいお友達もできて、
さあ、これから!というときに。
目覚めたら、もう五月。
GWは、とうにすぎて、みんな楽しかったかな。
新人戦、出たかったな。
あれ、私、何か大切なことを忘れている気がする。
リハビリが始まった。
お医者様によれば、意識を失っていた約一ヶ月の間に、
落ちた体力を取り戻せば、歩けるようにはなる、と。
体の能力としては。
ただ、頭を強く打って、そちらのダメージが未知数。
相変わらず、頭痛がひどい。
そして、目が見えない。
毎晩泣いてるのに、また泣けてきた。
何だか、ふわふわ雲の上で生活しているようなイメージ。
生きている実感が薄い。
リハビリして、検査を受けて、ベッドで横になって。
最近、イヤホンでラジオや音楽を聴くようになった。
「Siri」は使ってみると、とても便利だ。
でも、動画も写真も楽しめない。
部活の卓球は、、、もう無理かな。
お菓子作りも、ちょっと難しいのかな。
また、涙が出てきた。
あれ、でも何か大切なことを忘れている気がする。
「七子!」
「ななこぉ!!」
「七ちゃん。」
聞き覚えのある声たち。
頭はぼーーーっとしていて、
長いトンネルの向こうから聞こえるようなイメージ。
「あ、咲ちゃん?」
「うん!」
「ニーナ?」
「そう!」
「まりあ?」
「うちだよ!」
「ユカポン?」
「ぅん、、、うん、、ぅぅ、」
「なに!?泣いてるの?」
「だって、七子、あのまま死んじゃうのかと思ったから、、、」
「死なないよ、勝手に殺さないで、この世に未練たっぷりなんだから。」
とにかく、明るく振る舞おうと思った。
みんながお見舞いに来てくれた。
他愛のない、本当にくだらない、話をたくさんした。
こんな楽しい時間があることを忘れていた。
ただ、時々言葉が詰まる。
感、極まったからなのか、脳機能へのダメージのためか。
あぁ、頑張って堪えてきたのに、
また、不安が高まって、涙が止まらなくなった。
「、、、、ごめんね。ぐすぅ!泣くつもりなかったのに。
でも、みんなの声を聞いたら、嬉しくて、、、、ぅぅん。」
「謝ることじゃ無いよ、、、んぅん。私も七子の顔見たら、、、。」
みんなで泣いた。
「、、、ねえ、みんなにお願いがあるの。」
私は、ずっーと気になっていたことを確かめるには、
彼女たちに聞くしかない、と思った。
「みんなを信用して、本当のことを教えて欲しいの。
私、目が見えないから、教えて欲しい。
私の顔は、姿は、容姿は、壊れていない?」
手の指で、何度も顔をなぞってみたが、
指の感覚も正常ではないようで、よくわからない。
私もJKの端くれ、気にならないはずがない。
少しの沈黙の後、冷静な話が始まった。
「正直に言うね。
おでこの傷は、エグい。見るに耐えない痛々しさ。
でも、帽子をちょっと深く被れば、隠れる場所。
おでこさえ見えなければ、昔のままのかわいい七子だよ。」
「うん、鼻も口も頬も顎も、なにも変わっていない。
瞳もキラキラして、七子、かわいいよ。」
「そう、その点は心配しなくていいよ。
、、、あの人、電車の彼には連絡取れたの?」
「えっ!?電車の彼?」
大切な用事を思い出しそうな気がした。
事故に遭った日の前日の夜、私はみんなにメッセージを送っていたらしい。
前から気になっていた男の子に助けてもらったと。
クッキー焼いて、明日はお礼をするんだ、と。
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