第4話 四月の通勤電車

高校へ通う朝の通勤電車。

見知らぬ人に囲まれて、決して快適ではない空間。

だけど、俺は彼女の笑顔で癒される。

名前も知らなければ、話をしたこともない。

この時間の電車、この車両の、このドアにいれば、

途中駅で彼女が乗ってくる。


この春、初めて彼女を見かけた朝、

前夜遅かったせいの眠気が、一気に吹き飛んだ。

スマホを眺めて、すまし顔の彼女は、

時折一瞬、天使の笑顔になる。

何見てるのだろう。

こんな笑顔の元が気になる。


たしか西名高校の制服だよな。

一年かな二年かな、三年ではない気がする。

ならば、同じ年か一つ下かな。

あっ、また笑った。

毎朝の一服の清涼剤だね。






高校から帰る、晩の通勤電車。

今日はいつもよりちょっと遅くなった。

席もちらほら空いているが、

窮屈に座るよりは、立っている方がいい、

そんな俺みたいな人も多くいる車内。

あっ、同じ車両の扉二つ先の、

ロングシートの端っこに座る、あの子を発見。

神妙な顔で、スマホをスワイプ。

今日は勉強中かな。

そのまま、離れたところから、彼女を見守る。

ここからなら凝視していても、気付かれないかな。


次の駅で、何人か人の出入りがあり、

彼女の最寄りの扉から、

足元がおぼつかない酔っ払いが乗り込んだ。

ヤツは、彼女の前に立つと、

次に彼女の隣の狭いスペースに座った。

0.8人分しかないようなスペースに腰を捩じ込んだ。

トラブルの予感がした俺は、彼女の元へ移動する。


案の定、ヤツは彼女にもたれ掛かり、居眠りを始めた。


「おっさん、起きろ、他の人に迷惑だぞ。」

肩を揺するが、起きそうもない。

俺は、酔っ払い男の腕を掴み、肩で持ち上げて、

別の余裕あるシートまで運び、ヤツを下ろす。


「大丈夫だった?」


「ありがとうございます。」

彼女は、立ち上がり、頭を下げた。

話を続けたかったが、ちょうど彼女が降りる駅に到着。


「朝、いつも一緒でしたよね。また改めて、お礼します。」

彼女は、再度頭を下げて、電車を降りていった。


彼女は、俺を知っていた!!??


ィヤッツホォーーーーーー!!!!

何だか素敵なことが起きそうな予感。

もーぅこの興奮は、何なんだ!!

スキップして帰りたい気分。

高校二年、大沢 岳人(おおさわ たけひと)の初恋であった。


明日の朝が、とてつもなく最高潮に待ち遠しい。






でも、彼女がいつもの電車に乗ってくることはなかった。


次の日も。


その次の日も。


そのまた次の日も、、、、、。

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