第二十五話 表情

翌日、ケンジは意識的にナオと話をする機会を作ろうとした。ナオはクラスメイトたちと楽しそうに話していたが、ケンジに気づくと少しぎこちない表情になった。それでも、ケンジが近づいてくるのを見て彼女は微笑んでみせた。


「やあ、ナオ。ちょっと話せる?」ケンジはそう言って、教室の隅の方にナオを誘った。彼は、これまでの出来事について少しでも彼女と向き合いたいと考えていた。


ナオは少し緊張しながらも、ケンジの言葉を待っている。ケンジはどう切り出せばいいのか分からず、しばらく言葉に詰まってしまった。しかし、ようやく口を開いた。


「ナオ、その…この間のことなんだけど、本当にありがとう。気持ちを伝えてくれて嬉しかった。でも、俺、自分の気持ちがまだ整理できてなくて、どう応えたらいいのか分からないんだ」


ナオはケンジの言葉をじっと聞いていた。そして、彼が悩んでいることを理解しているかのように、優しい笑顔を浮かべた。「大丈夫だよ、ケンジ。無理に答えを出そうとしなくていいから。私は待つつもりだから、ゆっくり考えてくれて構わない」


その言葉に、ケンジは心からの安堵を感じた。ナオの笑顔は、彼を急かすことなく、自分のペースで進んでいいと許してくれているようだった。


「ありがとう、ナオ。本当に、ありがとう」とケンジは改めて感謝の気持ちを伝えた。


ナオは頷き、少しだけいたずらっぽい笑みを浮かべた。「それに、ケンジがどうしても答えが出せないなら、私の方からもう一度アタックするかもしれないしね!」


ケンジはその言葉に驚き、少し赤面しながらも笑ってしまった。「それはプレッシャーだな…でも、その時はきっとちゃんと向き合うよ」


二人の会話は、まるで以前のように自然なものに戻っていた。ナオの存在が、ケンジにとってどれだけ大きいのかを改めて感じる瞬間だった。彼女とこうして笑い合えることが、今は何よりも心地よかった。


その後、二人は学校の屋上に向かい、しばらくの間、一緒に風を感じながら話を続けた。空は晴れ渡り、優しい日差しが二人を包み込んでいた。


「ねえ、ケンジ」とナオが少しだけ照れた様子で口を開いた。「もしも私のことを好きになる可能性があるなら、ちゃんと言ってね。その時はもう、逃がさないから」


ケンジはその言葉にドキリとしながらも、真剣な表情で頷いた。「うん、わかった。ちゃんと考えるよ、ナオのことも、自分の気持ちも」

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青春迷宮にて。 蛇トロ @ageagesan

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