番外編 「中村華の夏休み」

 今日も今日とて、公園で朝からアタシは正拳突き1000回。 

 夢は音を置き去りにする程の速さを手に入れ、暁晴那に打ち勝つため。 

 日々精進の日々が続いた。しかし、未だに音を置き去りに出来ないし、鋭さも足りない。


 正拳突きが終わったら、回し蹴り両足合わせて、1000回。 

 今日も脚はキレッキレ、昔より、どんどん、上がっている気がする。 

 いつか、この蹴りを晴那にぶつけてやるんだ。


 「その前に、メンタルトレーニングした方がいいんじゃないっすか?」


 咲も同じように、アタシと同じ訓練を熟していた。 一応、元空手部だっただけに、キレは良い。


 「なんでよぉ~、どの口が言うんじゃ」


 こいつもアタシと同じ負け犬同士なので、似たようなもんか。


 「さぁ、いい汗掻いたな。帰るか」 2人で汗を掻き、そろそろ、帰るかと思った時だった。


 「待て!!!」 公園にいたのは、観たことのない筋骨隆々のタンクトップ女だった。


 「中村華、勝負しやがれ」 

 腕回りも、ふくらはぎも、太腿も引き締まってはいたが、目つきや体つきで分かる。  


「ごめん、誰?知ってるか?」


 「アタイも分かんないっすわ」


 「おめぇが殴った春谷だよ!」


 「すまん、知らん。っていうか、お前」


 「勝負しやがれ!それとも、戦うのが怖いか?」 筋肉ウーマンの顔は不健康そうに見えた。


 「おめぇ、減量前のボクサーかよ。悪ぃけど、カロリー摂らねぇと体持たんぞ」


 「はっ?」


 「体づくりの基本だろうが。筋肉をそんなに作りたいんなら、ちゃんと食え。そういう筋肉のつけ方すると死ぬぞ」


 「何、まともな口言ってんだ!不良の癖に!」 

 こいつ、相当疲れてるな。 糖分足りてねぇのか、それとも、過度の筋トレの所為なのか?


 「そうだな。勝負してやるよ。だがな」


 アタシは筋肉ウーマンのタンクトップの袖を掴んだ。


 「こんなボロボロのヤツと戦っても、何も面白くねぇんだわ」


 「な、ナニを・・・」


 「お前、分かるぜ。その腕、その脚、腹回り、それになる為に筋トレばっかで、相当体絞ったな」


 「だから、何だ。お前に勝つためには」


 「それやっていいのは、スポーツ選手だ。お前、ガキだろ。お前の人生、そんなくだらねぇ減量でムダにすんな」


 筋肉ウーマンは、立ち尽くし、地面に座り込んだ。 

 どうやら、心が折れたらしい。相当、体に負荷を掛けた筋トレをしていたようだ。 

 しかも、休みなく、ぶっ通しで続けたようで、精神的に相当参ってるように思えた。


 「じゃあ、どうすればいいんだ。お前にグーパンされ、加納にシカトされ、筋肉つける以外、ナニをしたら・・・」


 「いや、発想が馬鹿すぎて、他にもやれることあったっしょ」 

 咲のツッコミよりも、こいつから出たマムというワードにアタシは背中がヒヤリとした。 頭を一度振るい、アタシはそいつに目線を合わせ、中腰で座った。


 「そういうのいいからさ。飯食おうぜ。よく言うだろ、健全な身体には、健全な精神が宿るって」


 「何で、そんなこと・・・。アンタをぶん殴りに来たんだぞ」


 アタシは再び、立ち上がり、女を手を差し伸べた。


 「嫌いなんだよ。そういうくだらねぇこと言って、自分を傷つけるヤツがな」


 「不良の癖に生意気な」


 「言ってろよ、次会った時はてめぇのツラに一発ぶちかましてやっからよ」


 女はあたしの手を取り、立ち上がった。 


 「言ってろ、クソ女」


 アタシに華以外の友達が出来た朝のことだった。 

 その背後のトイレ付近から、見つめる視線に気付かなかったアタシ達は、公園を後にした。


 「ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ?依、依は、渡さない。渡さないんだから!絶対に依は私のだから!」 

 若宮舞14歳。春谷依を取り戻す為、筋トレを始めて、腰をやってしまうまで、あと3日。


 続く


 「続かなくていいから、部活しよ・・・。君たち、吹奏楽部だよね?」

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キミとシャニムニ踊れたら 第4話「ヒーローごっこ」 蒼のカリスト @aonocallisto

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