通学のバスの中で喘ぎ声を聴いていた俺を罵倒する美少女と同じ〇〇になってしまった……

山本泰雅

『……ンっ♡ れろ…………あっ、んぅ……♡』

 早朝のバス内。一番後ろの座席に腰掛ける俺は、耳に付けたイヤホンでオーディオブックを聴いていた。




『……ンっ♡ れろ…………あっ、んぅ……♡』




 人気のラノベ『落ちこぼれ魔道士の淫乱契約フレイア』の第七巻。物語の序盤、ヒロインとの濡れ場シーンなんだが……機械音声の抑揚のなさに、俺はため息をつく。やはり聴くなら、アニメ版で担当していた女性声優に限るなと結論を出した。




 その時。




「ちょ、ちょっと……アンタ。それ、止めてくれる……?」




 隣にいた少女が俺を睨みつける。イヤホンから少し音声が漏れていたらしい。色気がない音声でも、内容は過激なので怒るのも理解できる。



 スマホを操作してアプリを閉じると、少女にごめんと謝った。




「ハァ? ごめんで済むと思うの? 公共の場で……い、いかがわしいものを聞くなんて、この変態っ!」


「おい。声が大きいぞ。周りに迷惑じゃないか」


「既に私に迷惑かけてるわよ! スケベ男!!」




 俺に罵声ばせいを浴びせる少女は、一言で表すなら美少女だと思う。腰までぶる程の金髪と海のように透き通るあおい瞳。日焼けを知らない肌は雪のように白い。目鼻立ちはかわいい系というより綺麗系だ。




 同じ高校の制服を着ているけど、こんな目立つ容姿の少女を俺は見たことがなかった。




 俺たちのやり取りにバスの乗客らがひそひそ話。




痴話ちわ喧嘩げんかかしら?』


『あの子かわいくね? 隣の男は冴えないけど』


『ホントだ。芸能人かな〜』


『ったく、最近の若者は……』




 おい、誰だ。冴えないって言ったやつ。他人でもぶっ飛ばすぞ。




痴話ちわ喧嘩げんかじゃないわよ……! アンタのせいで気分最悪だわ……ド変態」


「それはこっちのセリフだ。毒舌女」




 バスが最寄りの停留所に着くまで、一言も交わさずに時間を過ごした。



 § § §



 ──三十分後。停留所で毒舌女と別れた俺は、途中で会わないようにしながら学校へ。




 教室に入ると、自分の席へ行きかばんを置く。HRが始まるまで二度寝しようと思ったが、あの女が頭から離れなくて寝れない。ラブではなくイライラが脳を支配していた。




 同じ高校だが、生徒数が多いこの場所で顔を合わすことなどないだろう。




「──おっはー。聖人まさと


「お前か。玄樹げんき




 俺に声をかけたのは幼馴染の粕谷かすや玄樹。名前の読みどおり、いつも元気な少年。そんな玄樹は熟年夫婦並みに俺の様子に感づく。




「どした。嫌なことでもあったか」


「それがさ──」




 バスでのことを話すと、




「ハッハッハ。それはお前が100%悪い。普通、エロラノベ聴くかよ」


「うっせ。俺の自由だ。もう漫画貸さないからな」


「冗談よせやい。それにしても、美少女か……声でもかけてみようかな」




 俺は玄樹を白い目で見る。彼が陰で『』と言われてるのを思い出す。ムカつくが、あの女の貞操ていそうを心配してしまった。




 その後。チャイムが鳴り、担任によるHRが始まると思ったが。




「今日から転校生が来ることになった」




 転校生、と聞いたクラスメイトは色めき立つ。




 男子? 女子? と騒がしくなるのを、俺は興味なさげにあくびしていた。誰が来ようと日常が劇的に変わる訳がない。




 担任がクラスメイトをしずめさせること五分。せきばらいした担任は「入ってきなさい」と廊下側へ声をかける。




「はい」




 鈴を転がす声がした。……あれ、この声。




 俺の疑問を解決するように、引き戸を開いた転校生は歩いていき教壇に立つ。




「エレーヌ・ジェームズ・東雲しののめです。アメリカから来たばかりで、まだ日本についてわからないことがございますので、その時は教えてくださると幸いです。これからよろしくお願いいたします」




 ペコリと頭を下げた少女──エレーヌに、俺以外は歓声のうず。まるでアイドルのライブだ。




 挨拶あいさつを終えたエレーヌは顔を上げると、




「…………え」




 間抜け面をしているはずの俺をとらえる。




「ななななななななんで、アンタがいるのよ────ッ!!!!」




 神様がいるなら……言いたいことがある。ふざけんなバカヤロー!




                おわり




【筆者よりあなたへ】


 お読みいただき、ありがとうございます。本編が面白そうと感じたら──♥(応援)と☆☆☆(レビュー)の評価をお願いいたします。温かいコメントも。

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通学のバスの中で喘ぎ声を聴いていた俺を罵倒する美少女と同じ〇〇になってしまった…… 山本泰雅 @muramitu

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