彩終話 幸手の教会で挙式する二人 若き政治家は埼玉都知事を目指す

 一色と五十嵐の二人は相談して、もう一度、病室の父親の元へ行くこととした。しかし、その返信は意外なものであった。

「別に反対した覚えはない。もう、先は短いからいますぐ役場に行ってこい」

 突然の手のひら返し。その日のうちに、ふたりは役場に行って、婚姻届けを提出した。二人が帰ってくると、病室の父親は亡くなっていた。

 二人は幸手の教会で結婚式を挙げた。そこに県民研究会のメンバーが呼ばれたが、大黒静香の姿はなかった。白蓮商事は脱税捜査が入り、それどころではなかったと言われている。武里駅前の白蓮ビルは解体され、そこには金子商事のビルだけが残された。

 一方、彩野が提出した立つパイプに付着した指紋照合の結果、選挙事務所狩りの犯人がDZUメンバーであることが判明。DZUも一斉に摘発された。

 最終的には、白蓮グループ系の政治資金にも捜査が及び、県議が辞職した。そこで、一色幸太郎の元に連絡が入った。繰り上げ当選となったのである。



 それからしばらくしたころの事であった。彩野は新座市での街頭演説から練馬区の新泉町の実家に立ち寄った。

「ただいま」

 玄関から家の中に入ると久しぶりに自宅に立ち寄った息子の姿を見て両親は驚愕した。「いったい、どうしたの、その怪我は?」

「ちょっと、路上で不良に絡まれただけだよ」

「平成なのに、そんな不良いますか?」

 彩野は、食卓にどかりと座って、用意されていた夕食を食べながら答えた。

「いまだにいるんだよ、埼玉県には」

 テレビをつけると、ニュースが流れていた。全国ニュースのあと、続けて地方ニュースとなるが、埼玉県用のニュースでは暴走族の幹部逮捕が流れていた。これをみて、父親がぼそっと口にした。

「春日部の暴走族が岩手県まで逃げたのか。それは大変なこった」

 彩野は黙々と夕食を食べ続けていた。

「邦雄、政治活動に熱心なのはいいが、お前もそろそろ30歳だろう。いい人は見つからないのか?」

「いい人?」

「結婚してもいいと思うような人だよ」

「ああ、それだったら、さっきのニュースで言ってたね。東北で見つかったらしいよ」

 息子の意味不明な回答に父親は沈黙した。その代わりに母親が食って掛かった。

「邦雄。今度、知事選挙に立候補するといっていたけど、どこにそんなお金あるの?お父さんはもう年金暮らしなんですよ。」

 母親の問いかけに息子はグラスの水を飲みながら答えた。

「大学の同期がベンチャーを起業していたんだけど、実は俺も出資していたんだよ。その会社が、ITブームで急成長して株式公開までいったんだよ。だから、資金繰りは大丈夫」

 父も母も言い足りないことがたくさんあったようだが、息子はとっとと風呂に入って寝てしまった。


 その後、埼玉県知事選挙に出馬表明をする彩野邦雄は記者の質問にこう答えた。

「街頭演説を通じて有権者からかなりの手ごたえを感じました。私が知事になった際にはさいたま市に周辺自治体との合併を進めたうえで埼玉都への昇格を目指したいと思います」

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彩の国のミレニアム 幸手と五霞とカスカビアンと練馬区民 乙島 倫 @nkjmxp

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