囚われのリスは強く生きる

 窓から差し込む光に照らされ、ふと意識を取り戻す。どうやら俺は、あのまま意識を失って寝ていたのだろう。



「っ……!」



 目を開けると、すぐ近くに千夏ちなつの寝顔があり、ドキッと心臓が跳ねる。


 俺を挟んで逆側には杏樹あんじゅちゃんが寝ているようで、すやすやと静かに寝息を立てていた。


 そして美藍みらんは……



「っ……あの、美藍みらんさん……?」


「んっ? おぃふぁっは起きちゃった?」


「離れろっ……!」


「あっ……ぅ~……」



 美藍みらんの居場所は布団の中……とりあえず、いまだに俺の下腹部に吸い付いてる美藍みらんを無理やり引き離す。


 美藍みらんの【ピ──】は刺激が強すぎるんだよマジで!



美藍みらん、まだ足りないとか言わないよね……?」


「えっ? 全然足りないけど?」


「ひぇっ……」


「知ってる? ヘビの交尾って、長いと24時間とか続くんだって……私達途中で寝ちゃったから、せいぜい2、3時間ぐらいでしょ?」


「24時っ───死ぬわっ!」


「死なない程度に搾り取ってあげる……♡」



 目を細め、欲を煽るように舌をペロリと見せる美藍みらん。ついさっきまであの舌で俺は───



「っ~~! と、ところで聖羅せいらさんはっ!?」


聖羅せいらちゃんなら先に起きてキッチンに向かってったけど……」



 と、ちょうどそのタイミングでドアが開く。そこには、シャツ一枚のみ・・を着た聖羅せいらさんが、いくつかのマグカップが乗ったトレーを持って立っていた。



「あら、おはよう、春空はるく君……♡」


「あ、あぁ、おはよう……」


「あっ、ごめんね春空はるく君……本当は春空はるく君のシャツを着た姿を見せたかったんだけど、胸が入らなくて……」


「いや、いいけど……チャレンジはしたんだ……」


「あっ……ハル、聖羅せいらちゃんを見てまた反応してる……♡」


「言わなくていい!」


「本当? じゃあ続きしてあげるわね……♡」


聖羅せいらさんも乗らなくていいから!」


「……ふふふ。春空はるく君、コーヒー淹れてきたけど飲む?」


「……今の笑い方がちょっと怖かったけど、ありがとう……」



 トレーを机に置き、聖羅せいらさんはマグカップを一つ取って俺に差し出す。少しでも気分を紛らわせるため一気に呷るが……なぜだかものすごく美味しかった。



「美味しい……聖羅せいらさん、淹れるの上手いね?」


「いつもやってるから……」


「あたしも一つもらうわね」


「えぇ、どうぞ」



 砂糖とミルクを多めに入れてかき混ぜる美藍みらんを横目に、もう一口。苦味とわずかな酸味、そして芳醇な香りが鼻を通り抜け、思わず顔が綻ぶ。


 朝のコーヒーを『美味い』と感じるなんて、心身ともに大人になった気分───



「じゃなくて! 今時間は!?」


「8時半だけど……?」



 『何を当たり前のことを?』とでも言いたげに、聖羅せいらさんはそう口にする。



「いやっ、遅刻確定!」


「今さらでしょ。昨日の時点でそのつもりだったし」



 甘くしたコーヒーをチョロチョロと少しずつ飲む美藍みらんも、あっけらかんとそう言い放つ。


 あれ……学校の心配をしてるのは俺だけ……?



「だいたい、ハルだってそんな状態で学校行けないでしょ。その……そこまでいやらしい匂い付けてると、獣人じゃなくても分かるわよ」


「ご、ごめんなさい……春空はるく君がすごくて、春空はるく君の身体までビショビショに───」


「言わなくていい! というか俺記憶ないんだけど!? 俺何したの!?」


「何って……それは───」


「いやっ、ごめん。言わなくていい、今のは俺が悪かった……。ハァ……とりあえずシャワー貸して……って、そういえば聖羅せいらさん、聖羅せいらさんの家の人とか……」


「……大丈夫、数日家を空けるって言ってたから、明後日まで帰ってこないの」


「あっ、そうだったんだ……」


「あたしは知ってたけど……というか、じゃないとここまでしないでしょ」


「いや、まぁそれはそうなんだけど……なんだか悪い気がして」


「……どうして……?」


「本来はもっとこう……時間をかけて仲を深めて、雰囲気になったらって感じだと思うんだよね。獣人の本能とはいえ、襲いかかるような真似を……」


「襲いかかったのは私だから……春空はるく君が気にすることじゃないと思うわよ」


「そうよ。あたしだって合意の上だったんだから。そもそも、肉食獣と草食獣って立場も覆した、本物の愛だと思うけど?」


「け、けど、俺の気持ちが収まらないから、その……もし何か・・あったら俺はちゃんと責任を取るよ」


「ハル……!」


春空はるく君……やっぱり大好き……♡」


「ちょっ、危なっ……!」



 ギュッと抱きついてきた聖羅せいらさんの勢いに負け、俺は再びベットに倒れ込む。コーヒーはギリギリ飲み終えたから溢れることは無かったけど、聖羅せいらさんのほうが体格が良いから身動きができない。


 しかも美藍みらんまでもくっついてきたから、俺は再び捕らわれた獲物の気分になってしまった。



「急に男らしいこと言うじゃない、ハル♡」


「責任……なら結婚してくれる?♡」


「先輩、それ私もですよね……?」


「くっ……兄妹なのが悔しい……!」


「あ、杏樹あんじゅちゃん!? 千夏ちなつもっ!」



 話し声で起きたのか、布団から出てきた杏樹あんじゅちゃんと千夏ちなつも、俺を囲んで顔を覗き込んでくる。



「ねぇ、先輩? 私の腰を撫でるだけじゃなくて、【ピ──】に【ピ──────────」


「わぁぁぁぁっ! 待て待て待て、分かったから!」


「あっ、思い出しただけでまたっ……♡」



 恍惚な表情を浮かべた杏樹あんじゅちゃんが、ブルリと身体を震わせる。そして目が合い───


 俺は再び、本能的な恐怖に襲われた。



 ふと他の子を見渡せば、杏樹あんじゅちゃんと同じようにギラついた目を向ける彼女達が……



「えっ、あの…………まだ続ける気ですか……?」


「何か勘違いしてるようだけど……ハル、一回したら終わりだと思ってない?」


「発情期って3日から一週間ぐらいは続くから……その間は疼きが止まらないのよ?♡」


「それに、先輩ってすごく上手なんですね……私もう先輩じゃないとダメみたいです……♡」


「昨日はあれだけすごかったのに、今さら怖じ気づいたは無いでしょ? お兄♡」


「ちょっ、待っ───ほらっ、家の人が帰ってくるかも知れないし!」


「明後日までは帰ってこないから♡」


美藍みらん杏樹あんじゅちゃんも帰らないと───」


「許可はもらったわ」

「私もです!」

「ちなみに、私とお兄も連絡済みだから」


「えっ、嘘───」


「ふふ……今日は学校休んで、一緒に楽しみましょう、春空はるく君♡」


「ちょっ、待っ……アッ───────!」



 ダムが決壊したように、4人にもみくちゃにされる俺。


 普通に捕食されるより、むしろキツい生活が始まった…………のかもしれない。



─────────────────────

あとがき


生徒会長さん、ごめん……上手く活かせなかったよ……

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肉食『獣』系の美少女たちは、草食『獣』な俺を食べる気満々らしい 風遊ひばり @Fuyuhibari

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