いただきます……♡

 ピンポーン!

 ガタンッ! ガタガタッ、バタバタバタ!


 俺がインターホンを鳴らした途端、家の中からドタバタと慌てたような物音が聴こえてくる。



 いきなり家に入るわけにもいかず、待つこと数十秒。インターホンを通して聴こえてきたのは、聖羅せいらさんの声だった。



『どなたですか……?』


春空はるくだけど……聖羅せいらさんの様子を見に来ました」


『っ……! すぐ行くからちょっと待ってて……!』



 そう一言残してインターホンが切れ、玄関を隔ててこちらへと向かってくる足音が聞こえてくる。ガチャッと鍵が開けられ、玄関がゆっくりと開き───



「お待たせ、春空はるく君……♡」


「っ!?」



 その瞬間、俺は本能的な恐怖に襲われて身体を硬直させる。千夏オオカミの牙を首筋に突き立てられた時のような、食われそう・・・・・な恐怖。


 聖羅せいらさんが出てきた瞬間に、リスは敏感に感じ取っていた。



 そんな獣人としての本能とは裏腹に、男としての本能が、この場から逃げ出すことを拒否していた。


 玄関を開けて姿を見せた聖羅せいらさんは、乱れた衣服の胸元を何とか手で押さえ、髪も纏めていないまま、太股や素足も晒して俺の前に現れたのだ。



 白い素肌は赤く上気し、なんと言うか……どう見ても事後・・のような雰囲気を醸し出している。


 俺はゴクリと唾を飲み込み、思わず彼女に魅入っていた。



「せ、聖羅せいらさん! そんな格好で───」


春空はるく君……来てくれると思ってた……♡」


「えっ───っ!?」



 瞬時に下がろうとするも、時すでに遅し。あっという間に捕獲された俺は、聖羅せいらさんに抱き抱えられたまま家の中へと連れ込まれる。


 薄いシャツ一枚隔てただけの聖羅せいらさんの肌は熱くて柔らかく……というか、下着つけてませんよね……?



「おとなしくしてて……?」


「いやっ、ちょっ……」



 抵抗空しく、連れてこられたのは聖羅せいらさんの部屋、ドアを開けてその中へ───



「っ……!?」



 甘ったるいような匂いに包まれ、ゾクリと身体を震わせると同時……視界に飛び込んできたのは、乱れた衣服で何とか身体を隠そうとする美藍みらん千夏ちなつ杏樹あんじゅちゃんの3人だった。


 ───いや、マジで君達何してたの!?



「ハ、ハル!? 来ちゃダメだって言ったでしょうが!」


「いやっ、聖羅せいらさんが心配だったんだから仕方ないだろ!」


「それで女の子の部屋に押し入るとかあり得ないっ!♡ お兄のバカッ!♡」


「これは不可抗力でっ、聖羅せいらさんに無理やり……!」


「いいの……私達が今、一番欲しかったのは春空はるく君だったんだから……♡」


「欲しい? 何を言って───ぅわっ!」


「ちょっ!」


「きゃっ!」



 聖羅せいらさんに押し倒された俺は、美藍みらん達がいるベッドへと倒れ込む。


 仰向けに倒れた俺を、美藍みらん千夏ちなつ杏樹あんじゅちゃんの3人が受け止めてくれたことでどこも痛くない……というかむしろ気持ち良いけど、安心したのも束の間。


 聖羅せいらさんがノシッと俺の上に馬乗りになったことで、俺の身動きは完全に封じられてしまった。



「せ、聖羅せいらさん……?」


春空はるく君……私、風邪なんかじゃないよ……?」


「えっ……?」


「発情期♡」


「えっ───はっ、えっ!?」


「今年はすっごくて……春空はるく君を見たら我慢できなさそうだったから休んだの……♡」



 吐息を漏らすようにそんな言葉を口にしながら、馬乗りになった聖羅せいらさんは、服を脱ぎはじめる。


 目が釘付けになる俺の目の前であっという間に全裸になった聖羅せいらさんは、そのまま前のめりになり───



「んむっ!?」



 俺の顔は、彼女の胸に埋まることになった。



「オモチャを使っても美藍みらんさんに手伝ってもらってもダメで……んっ♡ 本当は、春空はるく君の【ピ──】で私の【ピ──】に【ピ──】して欲しくて堪らないのっ……!♡」



 なんだかすごいことを口走りながら、聖羅せいらさんは身体を擦り付けてくる。以前もやられたマーキングよりも、さらに激しい。



「ねぇ、いいでしょ……?♡」


「プハッ……!」



 ひとしきりマーキングして満足したのか、ようやく身体を離す聖羅せいらさん。だが、それは終わりではない。


 彼女の細指が俺の身体に触れたと思ったら、今度は俺の服を脱がしにかかった。



「いやっ、さすがにそれはっ……!」


「どうして……? 春空はるく君だって───んにゃっ」


「ダメぇっ!」



 叫んだのは美藍みらんだった。他3人の視線もはばからず迫りまくる聖羅せいらさんを制止するため、美藍みらん聖羅せいらさんに飛び付き、俺の上からはがす。



「み、美藍みらん! 助かっ───」


「んぅっ♡」



 ───ってない!?


 直後に口を塞がれた俺は、一瞬遅れて状況を理解する。



 見えないほど近くにある彼女の顔、脳を揺さぶるような良い匂い……何より、非常に長い先の割れた舌スプリットタンが、俺の舌を絡め取って逃がさない。


 ───美藍みらんに、キスされている。しかも、かなり深いやつ。


「んむっ、んっ♡」


「んぐっ……っ~~!」



 離そうにも、背中と後頭部に回された美藍みらんの腕がさらに強く締め付けてきて、一切離す気はない様子。


 次第に、酸欠と初めて感じる艶かしい感触で意識がぼんやりしてきたところで、ようやく美藍みらんは口を離した。



「っ~~!」



 俺の口から彼女の舌がズルルッと引き抜かれる感覚にゾクゾクと身体が震え、そんな俺の姿を見て、彼女の笑みを深くして熱い息を漏らす。



「んっ、はっ……あたしが『最初にする』って約束してたの、忘れたわけじゃないわよね、ハル?♡」


「ハッ、ハッ……」


「その約束、今から果たしてもらおっか♡」



 熱に浮かされた表情のまま、美藍みらんは俺を見つめながら服を脱ぎ捨てる。一糸纏わぬ姿になった彼女は、俺の上に腰を降ろし───



「先輩、そんな約束してたんですか……?」



 身体の芯から凍てつかせるような声が、俺の耳に届いた。


 見れば、身体を起こした杏樹あんじゅちゃんが、ハイライトの消えた目を見開いてこちらを見つめている。



「ねぇ、先輩?」


「ひっ……」


「そんな約束、したんですか?」


「いやっ、その───」


「先輩、私の背中とか腰とか撫でてくれましたよね? それ、ウサギにとっては求愛行動……いえ、もはや交尾なんですよ。私、先輩に気持ちいいところを刺激されてメスにされたんですよ? 赤ちゃん作る準備してたんですよ? ほら───」



 抑揚のない声で言葉を連ねる杏樹あんじゅちゃんが、躊躇いなく服を脱ぎ捨て、俺に裸体をさらけ出す。


 聖羅せいらさんにも引けをとらないメリハリのある身体と、何よりその下───



 【表現規制】



 まぁとにかくすごいことになってる。



「先輩は私を愛してくれたと思っていたのに、私は先輩を好きになったのに……私じゃダメなんですか? ねぇ、先輩?」


杏樹あんじゅちゃん、ちょっと落ち着いて───」


「あはは、そっかぁ……先輩は皆のことが好きで、皆を手に入れるつもりなんですね?」


「あ、杏樹あんじゅちゃん?」


「───じゃあ私も……無理やりにでも、先輩を私のものにしますね?」


「っ……!」



 女の子とは思えない強さで腕を押さえられた俺は、抵抗すら許されず服を剥ぎ取られる。


 このままではまずい、発情期でおかしくなってる……。何より、『ちょっと良いかも』と思ってる俺がいるのがまずい。



 頼みの綱は千夏ちなつだけ……お兄ちゃんを助けてくれ、千夏ちなつ……!



「お兄、この状況を『悪くない』とか思ってるでしょ。女の子を3人も手籠めにしようとかサイテー♡ お兄は私のリードだけ握ってればいいの♡」



 そんな言葉と共に俺の手に握らせてきたのは、一本のロープ。


 その先は千夏ちなつの首輪に繋がれており、お座り状態で『待て』をかけられ、エサを食べるのが許されるのを今か今かと待つ、飼い犬のような千夏ちなつがいた。



 あっ、終わった(察し)



 正面からは美藍みらんが、左右からは聖羅せいらさんと杏樹あんじゅちゃんが、頭側には千夏ちなつが……



 獲物を狙う肉食獣の目が俺の脳裏に刻み込まれ、視界が肌色で埋め尽くされる───


 ───それが、俺がこの日見た最後の記憶だった。

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