クラスメイトの高嶺の花にロリコンの疑いを掛けられたと思ったら何故だか一緒にいることが多くなった。あとクラスがやけに騒がしい

さとさん

第1話

それは突然の出来事だった。

月曜日の朝。教室に慌ただしく入ってきた女子生徒に唐突に尋ねられた。


「柊君ってロリコンなの!?」

「!?」


僕は飲んでいたジュースを思わず吹き出し咳き込みながらも、どうにか息を整えつつ先の質問の内容を聞き間違えでないかと反芻させた。


「えっと…高峰さん…。ロリコンかどうか聞いた?」

「うん、聞いた。柊君ってロリコンなの!?」

「突然失礼じゃないかな、高峰さん!?」


どうやら聞き間違えでないらしく、あまりのことに僕は思わず目の前の女性を睨みつけてしまった。


高峰詩音。僕のクラスメイトでありこのクラスの中心人物。

容姿端麗、成績優秀。そして何より捻くれた性格をしている僕から見てもかなり性格がいい。

僕は勝手に人類の良心だと呼んでいる。


クラスメイトの中には熱狂的な信者がおり、恋愛対象というより信仰の対象となっていることに一抹の不安を覚えるが…まぁそれは今はいい。


そんな素晴らしい性格の持ち主の彼女が、何故だか絶賛失礼極まりないことを聞いてきたわけなのだが―――。


いや違うんだ、ロリコンという性癖が悪ってわけじゃなくてね。性癖は人それぞれだから否定すべきではないんだけど…ないんだけど。

だけどこれだけは言わせて欲しい。

彼女の一言で現在絶賛、僕は迷惑を被っているということを。


高峰さんは先ほどの通りこのクラスの中心人物であり信仰の対象だ。

彼女の一挙手一投足に自然と注目が集まるわけであり、彼女との関係性が今後の学校生活に多大な影響を与えると言っても過言ではない。


そんな彼女にだ。

『ロリコンですか?』と僕は尋ねられたわけだ。

となると当然クラスメイト達の評価は―――


「こそこそ。えっ、柊君ってロリコンなの?」

「こそこそ。確かに何かあるとは思ってたけど、まさかロリコンだとは…」

「こそこそ。だってあれだけ高峰さんが―――」


高峰さんに集まっていた視線はその発言も相まって一斉に僕へと向けられた。

完全な針のむしろであり、何故だか僕へのロリコン疑惑は謎の説得力の元、事実であるかのように認識され始めているし…。


ロリコンのレッテルを貼られたままではとても学校生活を謳歌出来るとは思えない。


「何を誤解したのかはわからないけど、出来れば今すぐ訂正して貰えないかな?

 このままいくと警察に事情聴取されそうなんだけど…」


このまま噂が広がると登下校するだけで通報されそうな勢いだ。


「何か僕をロリコンだと誤解した理由があるんだよね?

 それを教えて貰えたら無実を証明できると思うんだけど…」


彼女は聡明な人間だ…多分。

だから理由もなく相手ことをロリコン呼ばわりするはずがない。

きっと疑念を抱く理由があるはずだ。


「これが…動かぬ証拠です」


彼女は緊張した様子で自身の携帯をこちらに向けた。

それは僕の写真だった。服の柄を考えるとつい先日の休みに出かけた時のものだろう。


出掛けた先で高峰さんも居たようだ。

声でも掛けてくれればよかったのに…と思いつつ、どうして写真を撮られているか疑問に残った。

…盗撮されていることについてはクラスメイトという間柄なのでこの際追求はしないけど。


「この写真がどうしたの?」

「ここに写っている女の子!!」

「ん?」


改めて写真をマジマジと見た。


あまりに当たり前の光景だったので特に気にしていなかったものの、どうやらこの少女の所為で誤解していたようだ。


「この子は僕の妹だよ」


写真に写っていたのは僕が妹と手を繋いで買い物に行っている時のものだった。


「妹さん?」

「うん、妹。義理のでは無いし思い込んでいるとかでもなく。

 僕の両親から生まれた、れっきとした妹だよ」


僕は安堵からか、それとも不満からか、深いため息を吐いてしまう。

まさか妹と買い物に行っただけで誤解を生んでしまうとは。


「ごめんなさい!!私ったら…とんだ勘違いを!!」


高峰さんは何度も何度も俺に謝罪していた。

さっきまで多少なりとも不満に感じていた気持ちが、逆に罪悪感を覚えてしまった。


チラリと教室内を見渡す。聞き耳も立てる。

クラスメイトたちのヒソヒソ話が耳に入ってきた。


「こそこそ。なんだ妹さんかぁ」

「こそこそ。休日に一緒にお出掛けするなんて兄妹仲がいいんだね」

「こそこそ。ならどうして高峰さんと―――」


どうやら他のクラスメイト達の誤解も解けたようだ。


であれば僕からするとあまりこの話題を引っ張りたくはない。

ただ話題を変えるだけでは正義感の強い高峰さんは、ずっと罪悪感を覚え続けるだろう。


何か高峰さんの罪悪感を薄れさせるような落としどころがあればいいんだけど―――。


「あっ、それなら」


手をぽんっと叩く。良い手を思いついた。

それは交渉であり僕は得をして高峰さんも損しない提案。


「さっきの写真を貰ってもいいかな?

 妹の写真は結構持っているんだけど、一緒に写っている写真はあんまり持ってなくてさ」


かなりの名案だろう。

僕は家族写真が増えるわけだし、高峰さんも画像データを送信する手間があるだけで実害はない。

流石はゲームの世界では天才軍師と慕われている僕の計略。全くもって完璧な―――


『…』

「えっと…高峰さん?」

とクラスメイトの皆様?


何故だか高峰さん含めてクラスメイトたちの視線が凍り付いた。

あれ、僕また何かやっちゃいました?


少しの間原因を考えていたもののその前に自体が動き出す―――高峰さんが。


「柊君はシスコンなんだぁ!!!!」

「ちょっと!!!!!」


高峰さんはそう叫ぶと勢いよく教室を出ていった。

その声は校内中に響き渡り、僕のことを『シスコンの柊』として校内に知らない人間はいなくなったのだった。


そしてその様子を見ていたクラスメイト達は何故だか息を合わせたように息を吐いた。


『たまクソボケかぁ…』


ぽつりと呟かれた直接的な暴言に僕は一人涙した。




その日の放課後おかしなことが起こった。


「柊君、一緒に帰りませんか?」

「…どうしたの?」


自宅に帰ろうと準備をしている時、不意に高峰さんが声を掛けてきた。

今朝の一件から互いに少し気まずい空気が流れていただけに少しだけ安心したものの色々と疑問は残った。


高峰さんとはそれなりに交流はあるものの、一緒に下校することを提案されたのはこれが初めてだからだ。


「どうした…ということも無いのですが、折角なら放課後一緒に遊べたらなと…」

「…」


高峰さんは緊張した様子を浮かべながらも確かな信念をもって答えた。

その様子に僕自身思い当たることがあった。


「もしかして今朝のことで気を遣ってる?

 大丈夫だよ、全然気にしてないから」


今朝のロリコン疑惑、そして現在進行形で学校中にシスコンであることが広まってしまったことに罪悪感を覚えているのだろう。

その埋め合わせをしたいから、こうして僕なんかを誘ってくれたのだろう。


確かに彼女ほどの美少女と放課後に遊ぶことが出来るのならば埋め合わせとしては十分お釣りが来る。

むしろ他のクラスメイトならば自らロリコンを名乗り始めるレベルだ。


やはり高峰さんは優しい人だ。

だからこそこちらとしても気を遣わせたくはなかった。


「ホントに気にしなくていいからね。シスコン気味なのは事実だし」

「そういう訳ではなく…」


素晴らしく紳士的な気遣い返しだったものの何故だか少しだけ高峰さんの機嫌が悪くなったように見え―――


『ちっ』


それだけでなく何故だかクラス中から舌打ちのような音が聞こえ始めた。

えっ、なに?怖いんだけど…。


「ひ・い・ら・ぎ、何話してんの?」

「うわっ!?」


突然僕の背後から一人の青年が肩を叩いた。若干強め。


「宮野くん。どうしたのいきなり」

「悪い悪い。なんか楽しそうな話が聞こえたからさ」


そう言うと青年は快活に笑みを浮かべた。

彼は宮野清彦。このクラスの二人目の中心人物であり、僕の数少ない交流のある人間の一人。


性格は明るく快活で爽やか。顔のイケメン具合もさることながら、性格のイケメン度も非常に高く男女問わず人気な男だ。


唯一彼が不機嫌そうな顔を浮かべたのは、僕がポロっと「高峰さんとお似合いだね」っと口を滑らせた一瞬のみだった。


彼はモテるのにも関わらず浮いた話を聞いたことがない。

きっと意中の相手がいて茶化されるのが嫌だったのだろう。今は反省している。


そんな見た目も性格もイケメンな彼ならば、この状況に的確なアドバイスをくれるだろう。

僕はそれとなく宮野君に状況の説明をした。


「よし、高峰とお出掛けをしよう」

「なんで!?」


即答だった。僕の言葉に高峰さんは更にムスっとする。

確かに今のは言い方が悪かったと自覚はあるけど…。


「別に高峰と出掛けるのが嫌だというわけじゃないんだろ?」

「それはそうだけど…」


相手は高嶺の華。僕なんかと一緒に出掛けてくれるなんてこれ以上ない喜びだ。

だからこそ義理や気遣いで遊びには出かけたくなかった。


「高峰がせっかく勇気を出して誘ってくれたのに、それを断るのは紳士じゃないんじゃないか?」

「…」


宮野くんの言葉に高峰さんは首を縦にブンブンと振った。

これ以上断ればまるで高峰さんを嫌っているように思われてしまう。

僕としてもそれだけは避けたい。


「ありがとう高峰さん。じゃあ一緒に遊びに出かけようか」

「!!」


瞬間、高峰さんの顔がパァっと明るくなる。

よっぽど嫌っているように見えたのだろう、反省だ。


『うぉぉぉぉぉおおお!!』

「!?」


次の瞬間クラスから歓声、同時に拍手喝采が巻き起こる。

まるで大統領の演説でもあったかのような光景に、僕は動揺が隠せないでいた。


「えっ、何?学校にお犬様でも入ってきたの?」

「あっ、あぁ…。ソシャゲが盛り上がってるみたいだな!!いやー、俺もあれには驚いた。 

 そんなことよりお二人さんはさっさと遊びに行きなって」


そういうと宮野くんは僕の背中を押すと、両手を上げて歓声の中へと入っていった。

確かにタイミングこそ良かったものの僕と高峰さんが一緒に遊ぶこととはクラスメイト達には関係ないか。まして拍手なんて。


どうやら僕は思った以上に浮かれていたらしい。反省反省、高峰さんには気づかれないようにしないと。


「それじゃあ、高峰さん。行こうか」

「はっ、はい!!」

「あっ、それと一つ頼みを聞いて貰ってもいいかな?」

「…はい?」


僕はせっかくの機会だからこそ、高峰さんに一つのお願いをした。




「というわけで小学3年生の女の子が好きそうなものを一緒に選んで欲しいんだ」

「…やっぱりロリコン?」


僕と高峰さんは近くのショッピングモール内の雑貨屋さんへ来ていた。

…いわれのないロリコン疑惑を受けながら。


「ちっ違うよ、今度妹が誕生日だから何かプレゼントを買いたいなって。

 去年渡したプレゼントは妹にセンスが無いって怒られたから…女性の意見を聞きたいなって」

「…やっぱりシスコン?」

「違う…と思うけど…」


あまり自覚は無かったけど他人から見たらそういうものなのだろうか?

プレゼントぐらいみんな買うと思うんだけどなぁ。


「せっかくの…デートなのに…他の女の子のプレゼントを…」

「?」


高峰さんの呟きはよく聞き取れなかったものの不満に思われていることは間違いないようだ。

いくらお詫びという理由で出掛けているとはいえ頼み事をするのは流石に図々しかったか。


くそっ、僕が宮野くん並みに女性の気持ちがわかっていたなら―――


「よう、柊に高峰。偶然だな」

「宮野くん!!」


振り返るとそこには若干引きつった笑みを浮かべながらもイケメン度の変わらないただ一人の友人、宮野くんが立っていた。

流石はイケメン。良いタイミングで現れてくれる。けどどうしてここに?


「偶然、偶々、この近くを通りがかったから声を掛けただけだからな。

 クラスの皆で後をつけてきたとかじゃないぞ?」

「まさか、そんな風に思う訳ないよ」


いくらタイミング良く現れたからといって流石にそれは自意識過剰が過ぎる。

芸能人じゃあるまいし、クラスメイトの買い物を見ても楽しくは無いだろう。


ただ店の外を見るとちらほらクラスメイト達の姿が見えて―――。

もしかしてクラスの皆で遊んでたのかな、僕と高峰さんだけ除け者で。

だとしたら結構心にくるな…。


僕の反応を見て気を遣ったのか宮野くんは話を続けた。


「それで何かあったのか?

 せっかくのデー…、買い物なのにあまり楽しめて無いように見えるけど」

「それが―――」


僕は自分自身の失敗を素直に説明した。


「妹さんの誕生日プレゼントかぁ」


宮野くんは深くため息を吐き、高峰さんに同情的な視線を送っていた。

どうやら彼から見てもアウトな行動だったようだ。


「わかるぞ、柊にとって大切な妹さんだもんな」

「ちっ、ちがうし。そんなんじゃないし。いっつも付きまとわれて―――」

「そうじゃない。落ち着け」


僕の必死の弁解も虚しく宮野くんの中で僕のシスコンが確定してしまったようだ。


「高峰の気持ちもわかる。柊の妹とはいえ面識ないからなぁ。

 せっかくのデート…。ショッピングで知らない人へのプレゼントは…」

「あっ…」


僕はやっと高峰さんがどうして気落ちしているのが理解できた。

そうだ、高峰さんは妹に会ったことが無い。それなのにプレゼントを選んでくれっていうのは…。


「ごめん、高峰さん。今からうちに来る?」

「柊違う、そこじゃない!!」

「行きます!!」

「高峰も違う!!ていうか積極的だな!!もっとその積極性を他に活かしてくれ!!」


妹に会えばプレゼントを渡したくなる気持ちがわかると思ったものの何が駄目なんだろ?

高峰さんは理解してくれてるのに。


宮野くんは深くため息を吐くと高峰さんに何か耳打ちをした。


「これは…チャンス…義理…妹…結婚…アピール…」

「!?」


単語単語でしか聞き取れなかったものの高峰さんの表情がパァっと明るくなったことはわかった。


「柊君!!私、義妹さんの喜ぶプレゼントを一生懸命探すね!!」

「えっ、あぁ、うん、ありがとう」


あまりのやる気の変化に戸惑いつつも、そこは流石の宮野くんのイケメン力ということなのだろう。

宮野くんには感謝してもしたりないぐらいだ。


すると今度は宮野くんがこちらの方を向いた。

僕にも何かあるのだろうか?


「それで柊。高峰に一方的にプレゼントを選らばせるのって申し訳ないと思うよな?」

「そうだね。それは僕も思ってた」


いくら今回の買い物が謝罪の意味が含まれているとはいえ、先ほどの反応を見るにプレゼントを選ぶことは結構な労力なのだろう。

一方的に選んでもらうことに申し訳なさを感じていた所だった。


「それでだ。柊は柊で高峰に似合うプレゼントを選ぶってのはどうだ?」

『!?』


僕と、そして高峰さんは驚いた。

そりゃそうだろう。高峰さんからすれば異性にプレゼントを渡されても変に意味がついて困ってしまう。


ここは男として僕がしっかり断らなければ―――。


「宮野くん、それは流石に―――」

「高峰は嬉しいよな?」

「…」


ワザと否か、宮野くんは僕の反論を綺麗に躱し、高峰さんに意見を求めた。

高峰さんは恥ずかしそうに顔を赤らめている。ほらやっぱり―――


「…欲しいです。柊君に選んで欲しいです」

「...」

「なら決まりだな!!」


っと、宮野くんが僕の背中を強めに叩いた。

その痛みで気持ちが引き締まる。

危ない、変な勘違いをするところだった。


「それじゃあ、俺はこれで失礼するな。

 後は二人でゆっくり選んでくれ」

「ありがとう宮野くん、助かったよ」

「ありがとうございました」


僕らは雑貨屋を去る宮野くんに頭を下げた。

流石イケメン、まさしく救世主だ。


「あっ、それと、疲れたらちゃんとベンチで休憩するんだぞ。女性の方が疲れやすいんだから余裕をもって提案すること。ベンチについては直射日光の当たる場所じゃなくて多少日陰の場所を選べよな。とは言っても人影が無い場所はそれはそれであらぬ誤解を与えるから。プレゼントは一回で無理に選ぶんじゃなくても、2,3日に分けて選んでも良いと思うが、選ぶときは絶対に高峰も誘う事。いいな?」

「うっ、うん。わかった…」


それだけ言うと再度宮野くんは去って行った。

彼は頼りになるけど心配性というかなんというか…このアドバイスも凄くためになったけど。


宮野くんが雑貨屋から出ると外から歓声のようなものが聞こえた。近くでイベントでもあるのだろうか?

休憩がてら後で高峰さんと見に行こうかな。


それからしばらくしてプレゼント交換が行われた。

僕が高峰さんへプレゼントを渡し、高峰さんが僕の妹へプレゼントを贈る。

結局、僕個人が妹に渡すプレゼントが無くなったので後日買いに行くことになったわけだけど―――まぁいいか。


「はい、これを妹さんに」


そういうと可愛らしくラッピングされた袋を高峰さんが渡してくれた。

包装にまで気に掛けるとは、流石は高峰さんだ。


「中は最近女の子の間で流行っているキャラクターのハンカチ。

 多分小学生も好きだと思うんだけど…」


そういうと高峰さんは近くにあったポスターを指さした。

猫やウサギが登場するゆるい世界観のアニメだ。確か妹も見ていたはずなのできっと気に入るはず。


「ありがとう。きっと妹も喜ぶと思う」

「ほんと!?それならよかった…」


高峰さんは優しく微笑んだ。

その姿を見て、今日は買い物に行けて良かったと心の底から思った。


「はい、今度は僕から」


ラッピングのされていないお店のロゴの入った紙袋を手渡した。

どうしても高峰さんのプレゼントと比べると見劣りしてしまう。

こんなことなら先に渡すべきだったと少し後悔した。


「開けてもいい?」

「恥ずかしいけど…どうぞ…」


酷評されたらと内心でドキドキが止まらないけど下手に明日まで緊張が続くよりかはいいだろう。


「ヘアピン?」

「えっと…高峰さんって毎日違ったヘアピンを付けるからもしかしたら好きなのかなって…。

 好みじゃなかったら全然返してもらって大丈夫だから!!まだレシートも持ってるしクーリングオフは法律で―――」


っと、僕が早口で言い訳をしていると、彼女は無言で透明な小袋をあけて―――


「似合うかな?」

「…」


自身の前髪に買ったばかりのヘアピンをつけてみせた。

その様子に思わずドキっと心臓が高鳴った。


「似合うかな!!」

「あっ、えっと…うん」

「何、その反応?」


高峰さんは頬を膨らませつつ、たのしげに笑ってくれた。

見惚れていたなんて正直に口に出すわけにもいかず、僕も笑って誤魔化した。

少しだけ、ほんの少しだけど、高峰さんとの距離が縮んだ気がした。


イベントも佳境なのか雑貨屋の外もざわついている。

拍手に口笛に叫び声まで聞こえる。よほど盛り上がっているのだろう。


このあと高峰さんと行ってみたら喜んでくれるだろうか。

これからも高峰さんの隣で笑い合えたらいいな。


僕はそう思いながら――――――――――――1年が経過した。




「はあああああああああああああああああ早くくっつけよアイツら!!!!!!」


朝っぱらから宮野くんが叫んでいた。

ここ最近宮野くんの様子がどうもおかしい。


相変わらずのイケメンっぷりではあるものの最近はどこかイライラしている様にも見える。


「どうしたんだろうね、宮野くん。

 高峰さんは何か知っている?」

「…いっ、いえ。何も…はぁ…」


僕の質問に答えつつ高峰さんは深くため息を吐いた。

高峰さんもどこかお疲れの様子だ。


僕らは無事に3年生となり同じクラスになることも出来た。

それ自体は嬉しいことだったのだけど…どうにも様子がおかしい。


心無しか二人以外のクラスメイト、同級生たちもどこか気落ちしているように見える。

むしろ何故だか僕だけが元気なのだろうか?


深く考えてみた。推理小説で培われた分析力は他の人よりも優れていると自負している。

だからこそ1つの、完璧な結論を出すことが出来た。


「受験生だからだ!!」


僕は自分の推理力に思わず感心してしまった。

そうだ、僕と違い優秀な二人はその分難関大学を受けるに違いない。

その為夜遅くまで過酷な受験勉強を日々行っているのだろう。僕とは大違いだ。


だとすればイライラしてたり疲れているのも頷ける。

僕は高峰さんに声を掛けた。


「高峰さん、受験勉強が忙しいなら無理に僕を遊びに誘わなくてもいいんだよ?」


ここ1年で高峰さんと友好度が上がったこともあり定期的に遊びに誘ってくれる間柄となった。

最近は放課後には一緒に受験勉強、週末に買い物をしてその後僕の妹と一緒に遊んでくれてたりする。


それ自体はとても嬉しいことなのだけど、その結果高峰さんに無理をさせているのだとしたら申し訳ない。


「いえ、絶対に柊君とは遊びますから。

 むしろ頻度を増やすべきだと確信しました。

 大学は今のままでもA判定なので全くもって大丈夫です。週末柊くんの家に泊ってもいいですか?」

「えっ、あっ、うん。両親に聞いてみるね」


ハッキリとした口調で高峰さんは答えた。

そこまで言うのなら受験は大丈夫なのだろう。

僕と遊ぶことが少しでも息抜きになっているのなら嬉しい。


そう言えば高峰さんの行きたい大学ってどのなんだろ?

今度、一緒に受験勉強する時にでも聞いてみよう。





「あのさ、これは俺の友人の話なんだが」


お昼休み。僕は宮野くんに屋上に呼び出され突然そんなことを言われた。

どうやら何か相談があるようだ。


「知ってるよ、そのパターンって実は本人のことだったりするんだよね」

「もしそうなら黙って話を聞こうな?

 あとこれは間違いなく俺の友人の話だ」


宮野くんは深くため息を吐いた。

ここ最近溜息の頻度が増えているのはやはり受験勉強が忙しいのだろう。


「その友人のことが好きな女性がいて結構アプローチしていると思うんだが、友人がまるで気づかないんだ」

「なるほど…」


まるでアニメやマンガの様な話だ。

実際僕もよくそんな小説を読んだことがある。


「僕はね、鈍感なのは罪だと思うんだ」

「よし、今から刑務所に行こうな」


あれ、まだ僕のロリコン疑惑は晴れてなかったの?1年も前なのに!?


「いや冗談だ。あくまで友人の話だからな。

 それで柊の意見を聞かせて欲しいんだが、どうやったら好意に気づけると思う?」

「難しい話だよね。普通アピールされているなら気づくものだし」

「そうだよな!!俺もそう思うんだがな!!」


それが気づいてくれないんだよ!!っと宮野くんは頭を抱えていた。

なるほど、最近お疲れなのはその友人の所為か。


ただ彼にここまでさせる友人を僕は少しだけ羨ましく思った。

同時に宮野くんの友人として僕も力になりたい。


自分がその友人の立場だったらと仮定して考えてみた。


「もしかしたら自分に自信が無いんじゃないかな?

 きっと相手からの好意を素直に受け取れないんだと思う」


もし高峰さんが僕のことを好きだとしたら…。

なんて妄想は恥ずかしいが、多分僕も同じように好意を素直に受け取れないと思った。


身分の違いとは少し違うけど、一方はクラスの中心人物。もう一方は友達の少ない根暗ぼっち。

付き合うどころか話し掛けられることすら恐れ多い。

まして好意を抱かれていると思うなんて…罪とすら感じてしまう。


相談相手のことはわからないものの少しだけその人の気持ちがわかる気がした。


「じゃあどうすればその友人に自信が出てくると思う?

 言っておくがその友人は俺から見ても尊敬の出来る優しい奴なんだが」


宮野くんにそこまで言わせるなんてよっぽどの人格者なのだろう。

同時にだからこそなのだと納得も出来た。


本来ならば対等な関係なはずなのに、相手を敬うからこそ過剰に自分を下げる。

その結果相手とは釣り合わないと勘違いして、好意を感じることにすら許せなくなる。


僕の考えが正しいのならば、きっと今後もその人は好意に気づくことはないのだろう。

その人がその人であり続ける限り。その人の美徳が生んだ悲劇だ。


もし方法があるとすれば―――


「やっぱり告白して貰うのが手っ取り早いんじゃないかな?

 ハッキリと誤解の余地を与えないぐらい素直な言葉で―――」

「話は聞かせて貰いました!!!」

『!?』


屋上のドアが勢いよく開かれる。

そこに立っていたのは高峰さんだった。


「高峰さんどうしたの?いきなり…」

「宮野くんが柊君を連れだした時は何事かと思いましたが、念のため柊君に付けていた盗聴―――愛の力で全て聞こえました」

「高峰、お前1年で随分とぶっ壊れたな…」


宮野くんは本日何度目かの溜息を吐いた。

話についていけないのは僕だけの様だ。


「ごめん、よくわからないんだけど―――」

「柊君!!」

「!?」


高峰さんは僕の手をぎゅっと握った。

自然と高峰さんの顔が近くなる。

いつも見ていた顔は赤く染まっている。


今日も僕がプレゼントしたヘアピンを律儀に付けてくれてる。嬉しいな。

―――なんてことを緊張を逸らす為にか思わず考えてしまった。


「柊くん。ずっと貴方のことが好きでした。

 付き合って欲しいです」

「!?」


突然の高峰さんからの告白に驚きを隠せない。

イジメやドッキリなんてことも考えたけど、高峰さんに限ってあり得ない。

他に考えられることは―――


「買い物に付き合うとか、チャンバラで突き合うとかいう古典的なギャグじゃないですよ。

 異性としてカップルになって欲しいという意味です」

「高峰。いくら柊でもそれは流石に―――」

「なんだって!?」


てっきり僕のはやとちりかと思ったけどそうでもなかった。

本当に、本気で、本心から。ならば答えは―――


「ありがとう。僕で良ければ喜んで恋人になりたいよ」


僕は素直な言葉を口にした。

高峰さんの握られた手は震えていた。僕は安心させるために握り返した。

手の感触が伝わってくる。柔らかく、すべすべな手は異性を意識させた。


もしかしたら彼女も同じ気持ちだったのだろうか。頬が高揚し、息遣いが少し荒くなった。

恋人になれたのだ。なら遠慮する必要はないのかもしれない。

僕は高峰さんの方をじっと見た。高峰さんも僕の方をしっかりと見据え、唇に―――


「スト―――ップ!!」


宮野くんが僕と高峰さんを引きはがした。


「なに、今いい所だったのに…」

「それについては悪いと思うが…」


宮野くんはコホンっと一回だけ咳払いをした。


「高峰、何で俺がいるのに告白した!!

 普通人気が無い所だろ!!特に初めては!!」

「善は急げということわざをご存知ないのですか!?」

「急がば回れを存じ上げろ!!

 気まずいわ!!俺はどんな気持ちでこの場に居ればいいんだよ!!」


宮野くんは一通り高峰さんに意見を言い終わると今度はギロリとこちらを向いた。

なに、恐いんだけど…。


「それで柊。あそこまで拗らせてきたのに、なにアッサリ告白を受けてるんだよ!?」

「だって僕からしたら断る理由ないもん。願ったり叶ったりだもん」

「そうかもしれないけどな!!

 しかもキスまでのスパンが短くないか?」

「そういう雰囲気だったし…。高峰さんに恥をかかせるわけにはいかないし」

「今まで散々恥をかかせてきたんだけどな!!」


どうも慌ただしい宮野くん。

ただ宮野くんの言葉に少し違和感を覚えた。


「もしかしてさっき言ってた宮野くんの友達って僕のこと?」

「どうしてそこは察しがいいんだよ!?

 そうだよ、結構前から高峰に柊を落とす方法を相談されていたんだ」


同時に今までの彼の行動が点と点が線で繋がった。

確かに言われてみたら不自然なことが多かった。


「そっか。やたらアドバイスをくれてたもんね。

 それに僕と高峰さんを二人きりになることがやけに多いと思ってたけど、そういうことだったんだ!!」


僕の中で今まで疑問に思っていた出来事が妙に腑に落ちた。

思い出してみると学校の行事ごとに高峰さんと関わっていた気がする。


「文化祭の資材購入の買い出しに体育祭の二人三脚。

 修学旅行の時なんて混浴まですることになったし―――」

「最後のは知らないんだが!?」


えっ、あれは違うの?

そっかぁ。流石にあれは事故だったのかぁ…何故だか高峰さんが視線をそらしているのは気になるけど。


つまるところ、宮野くんはずっと僕たちのことを応援してくれたのだ。

それに恥ずかしいけど…僕のことを尊敬の出来る友人と言ってくれたし。


「宮野くん、本当にありがとう。おかげで僕は幸せだよ」


心からの感謝を告げた。

虚を突かれたのか宮野くんは一瞬驚いた顔を見せたがすぐにいつものイケメン顔に戻る。


「それならよかった。完

 末永く幸せになってくれよな」


僕は良き友人と、良き恋人を持てて幸せだ。

きっと二人とはこの先ずっと仲良くやっていける気がする。


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