第13話 好きな人の前ではカッコよく

 シンシアさんの所持スキルは暗殺者S級。


 不穏なスキル名が出てきた。

 俺はスキルのことはほとんど勉強していないので、それがどんなスキルなのかわからない。

 だけどまずもって普通のスキルではないことはわかる。

 暗殺者だからな、誰かを殺すってことだ。


「暗殺者スキルは複合スキルと言われます。探索、警戒、消音など様々なスキルが統合されているスキルです。S級ともなると10種類以上のスキルが入ってますね」


 エロ精霊がご丁寧に説明してくれる。

 スキルって統合出来るんだ、なんてことに驚きつつも、俺は表情を変えない。

 女性の過去なんて気にしないのだ。


「なんで余裕ぶっこいた表情しているのかわかりませんけど、人をたくさん殺してますからね。暗殺者スキルって人を多く殺しているからそうなるんです」


 好きな女性は暗殺者だった。

 でも俺は過去を気にしない男……なんて考えていたが、冷静に考えると今現在も暗殺者なのではないだろうか。

 好きな人は暗殺者でたくさんの人を殺している殺人鬼だった。

 これが日本でのことだったら恐ろしく動揺したし、シンシアさんとは今後関わらないようにしていたかもしれない。

 だがここは異世界だ。

 きっと彼女は巨大な悪と戦っていて、必殺仕事人みたいなことをしているだけ。

 だから人も殺すし、その素性を隠していた。

 でも俺と出会ったことで、その運命は一変する。


『もうこんなことはしたくない……だからハルト。結婚して!!』


「バカな妄想してる顔ですね。まあ私はあいつがハルトに危害を加えるようなことがなければどうでもいいです。それじゃあそろそろ戻ってください」


 このエロ精霊、なんだかんだ言うけどやっぱりいい奴だな。

 危害があるかもしれないことを心配してくれていたのか。

 


 俺は若干動揺しつつも、ポーカーフェイスを維持し、シンシアさんのところに戻る。

 すぐにおしぼりを手渡してくれるシンシアさん。

 こんな素敵な女性が殺し屋なんて思えない。

 やはり何か事情があるはずだ。


「そういえば先ほどゴブリンメイジ倒されてましたよね?」


 戻って来てすぐにそんなことを聞かれる。


「え!? 見てたんですか? 戦ったのけっこう森の奥でしたけど……」


「はい、道に迷ってて、音がするなぁ~って思って近寄ったらハルトさんがかっこよく戦ってて……思わず見惚れてしまいました……」


 急にまた腕に抱き付かれ、太ももをさすられる。

 ここで俺は決断した。

 もう別にシンシアさんが暗殺者だっていい!

 俺に何か被害があるわけじゃないし、こんなに体を密着してくれているということは、少なからず俺に好意を抱いてくれているはず。

 その好意を俺は受け取る。


「いえ、たいしたことありませんよ……ゴブリンメイジなんて」


 好きな人の前ではかっこよく。

 ゴブリンメイジは俺が倒したわけじゃないけど、たいしたことがなかったというのは本当だ。


「どうやって倒したんですか? ゴブリン、すごい苦しんで死にましたよね」


「まあなんて言いますか、ちょいちょいっとやりましてね……」


「そういうことじゃなくて、具体的にどう倒したのかお聞きしたいなって」


 具体的にというと、エロ精霊の常闇とかいうよくわからないスキルで死にました。

 ってことになるんだけど、その常闇の効果がいまいちわからないので、具体的に説明が出来ない。

 よってここは俺のスキルを見せるべきだ。


「セット」


 俺の目の前にカードが展開される。

 この瞬間が一番カッコいいまである。

 スキルを見たシンシアさんは驚き、一瞬で俺から離れる。


「ごめんね。驚かせちゃったよね。これ、俺のスキルだから」


 さて、どうやって説明しようかな。

 この異世界にはカードという概念がないから、まずはそこから説明して、後はカードには固有の能力があってみたいな感じでいいか。

 

 あれ……?


 カードを操作して悩んでいたら、横にいたはずのシンシアさんが消えている。

 そしてその代わりにエロ精霊がいて、遠く見て呟く。


「ま、そりゃ逃げますよね。私の常闇を見ているからなおさら。単純にハルトのスキルが異質っていうのもありますけど」


「俺のスキルを見て怖がって逃げったってこと? カード並べただけじゃん!」


「それが異質なんですよ。警戒している相手にこんなもの見せられたら私ですらぶっ飛んで逃げますから」

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最強カードブリーダースキル持ちの俺はサキュバス妖精と旅をする @tora-tora64

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