第27話 手紙

 やっほー、きひろちゃん、青っぴ。元気にしてる?あたしは、まあまあかな。


 あの日、久しぶりに夜、ちゃんと眠れたなーと思ったら、次の日になったら二人ともいなくなってて、めちゃくちゃビビったんだから。


 はゆとちしおクンが朝一で来てくれたけど、あたしもう、全然、泣き止まなくて。


 ……まあ、なんとなく、そんな気がしてたんだけどね。


 結局、空腹には勝てなくて三人でお菓子を作った。五人分あったから、残りははゆのお姉ちゃんとお母さんが食べてたよ。お父さんは、甘いものがそんなに得意じゃないみたい。


 週明けに青っぴときひろちゃんが転校したって聞いて、あたし、しばらく立ち直れないと思った。でも、みんなのおかげで案外、すぐに立ち直れた。


 あの後、ひとまずはゆの家に住ませてもらえることになって。お父さんの失踪届を出したり、警察に見つけられたお父さんと一緒に住めって言われたり。また失踪届を出したり……。


 なんか、診断されたよりずっと大変だったけど、はゆのお母さんとお父さんが本当に良くしてくれて。奨学金借りてバイトしながら大学も無事に卒業して、今は学校の先生やってる。あたしと同じような想いをしてる子どもたちに、何かしてあげたいんだ。


 そんなこんなで、この春、はゆと結婚することになりました! ウエディングケーキはちしおクンにお願いしようと思ってる。


 はゆは大学のときに動画配信を始めて、今では結構、有名みたい。いろんな人と関わりたいからーって始めたみたいだけど、あたしはスマホ見ないから分かんないんだよね。毎日、難しい顔してパソコンと向き合ったり、いろんな人と連絡取ったりして頑張ってる。


 あ、そう言えば、はゆが連絡先交換したのに、青っぴが返信してくれないって嘆いてたよ。


 まあ、あたしも、今は仕方なかったって思えてる。未来診断士って、そういう仕事だから。


 特別な人間を作っちゃいけない。もし、特別な関係性ができてしまったら、そこにはいられない。


 きっと、はゆと連絡先を交換したときにはもう、引っ越すつもりだったんだよね。


 とりあえず、ゆもちゃんが、ちうちーと一緒にきひろちゃんの住所を突き止めたとかで、まあ、その経緯は置いといて。とりあえずこの手紙を送ってみるけど、ちゃんと届くかなあ? 届いたらちゃんと返事してね。診断士じゃなく、青っぴとして。きひろちゃんがついてるから大丈夫だとは思うけど。


 あ、そうだ。ゆもちゃんが、きひろちゃんを見つけるために、未来診断士になったって言ってた。結構、大変だったみたいでようやく資格が取れたって言ってたけど、診断士同士の関わりってあるのかな? あるとしたら、また騒がしくなりそうだね。


 ちうちーとは直接は連絡取ってないけど、住所を聞いたとき久々に会ったら『きいろちゃんに勝ちたい!』って言ってた。対人戦闘でも学んでるのかな? うーん、謎。


 そんなわけで、もしこの手紙が届いたら、二人で結婚式に来てくれると嬉しいな。はゆもちしおクンも来てほしいって言ってる。


 青っぴの顔面に投げる用のパイ、たくさん用意しておくから!


 麻布島まふしまみい→深山みいより


***


「あをい、みいちゃんから前の住所に手紙が届いてた」


 前の家のポストを確認しに行っていたきひろが手紙をヒラヒラさせる。


麻布島まふしまさんから手紙が来たということは、やはり、心夢こむさんと蓮川さんがうちの住所を突き止めたんだね。最近、少し外に出ることが多かったから。あれから十年近く経つというのに、まったく――。引っ越すのがあと一日遅かったら面倒なことになっていたから、よかったよ」


 ぱらと、手紙を開けてきひろが中を読む。


「みいちゃん、深山くんと結婚するんだって」


「そうかい。思っていたとおりになったね」


「結婚式、行くって返事しておくね」


「こら、きひろ。勝手に……まあいいか。初めての依頼人の――いや。昔の友だちのささやかな望みくらい聞いてあげてもいいだろう」


「いえーい。ところで、ご祝儀出せる?」


「……建て替えておいてくれ」


「よかろう。それから、これもやっぱりきてた」


 もう一通、赤い蝋を溶かして封をした手紙が未開封のまま手渡される。


「今どき、シールではなく本物の蝋で封をするなんて。――次の依頼人は一体、どんな人物なんだろうね?」


「あをい、楽しそう」


「ああ、楽しいよ。すごく」


 高窓から差し込む光が、二人を照らしていた。


***


 オレンジの光が照らす室内。木製の机を挟んで椅子に座り、二人は向かい合う。


「――ようこそ、迷える子羊よ。未来診断士であるこの僕に、此度はどんなご相談かな?」


ーENDー

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未来診断士 さくらのあ @sakura-noa

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