第10話

「ごめん」

 ヒカリは今日はじめて笑ってくれた。

 申し訳なさよりも失意のほうがはるかに勝っていて、私は途端に恥ずかしくなった。

「誰かが見ていたらどうするの」

「そうだね、ごめんね」

「こういうのは、おうちで……」

「おうちならいいの?」

 いくつかの間が空いて、ヒカリはそっぽ向いた。そして、

「もう夜明けないんじゃない?」

 と言った。

「今日は、すんごい夜が長い気がするね」

 既に初詣を終えてから五時間くらいは経ったかもしれない。

 スマホの画面を確認すると、母親から死ぬほど着信があった。そうだ、ヒカリと一夜を過ごすことは伝えていなかったことを思い出した。

 ヒカリの親も心配してるんじゃない?

 ごく自然にそう言いかけて、口をつぐむ。

 時計はもう朝を知らせている。

「だってもう六時半だよ」

「冬の朝は夜明けが遅いんだよ」

「そんなの知らないー。はじめて聞いたんだけど」

「それは、ヒカリがいつも遅刻ギリギリまで眠ってるからじゃない」

「確かにすぎる」

 私の大好きな人は、今どんな顔をしているだろうか。

 ヒカリの顔を覗き込んだ瞬間、彼女のブルーの瞳に光が点った。

 夜が明けた。

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少女の夏は踊る 西村たとえ @nishimura_tatoe

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