西村たとえ

「私」は、屋上遊園地の観覧車が崩壊する夢を見た。聞けば、「私」の家族も同じ夢を見たことがあるらしい。ある日、私たちは家族みんなで同じ夢をみた。紅色の惑星が、観覧車に向かって落ちて…

カーテンの中で、彼女は眠っていた。思っていたよりも閉じられた睫毛は長く、生唾を飲んだ。その一方で、鼻から伸びる管や呼吸器が彼女の容貌をくすませていて、一気に取り去ってしまってあげ…

――世界よ、僕みたいになれ。SNSでそう呟いてからちょうど一年が経ったとき、はじめてコメントがついた。 不登校の「僕」はSNSで初めての友達に出会い、やりとりをしていくうちに自分…

この熱はもう二年目になる。これは、権威への憧れなのか、父性への憧れなのか、そういったことにずっと頭を悩ませている――。自分には存在しなかった父親という生き物を、大学の「センセ」に…

フジサワのことを初めて認識したのは、中学に入ってから半年経ったとき。プールの授業後の塩素臭い廊下の隅で、あの子は上級生にキスされていた。――典型的な関西人気質の水野ゆり子は、地味…

私は愚かだ。まさか教室でスマホを落とすなんて。自分のスマホが、机の中にも鞄の中にも無く、とにかく焦った。幸い、スマホには自分のプリクラとか、私を特定できるもの貼り付けていなかった…

結局、気が付いたら綺麗にくりぬかれていたような態度の目のくぼみや、いい塩梅で削られた身体の曲線に対して、素直に受け入れてそれを活かすべきであるということを、美人の者はみな心得てい…

*第五十四回北日本文学賞第四次選考通過作。 別に、応じることが嫌なわけじゃない。でも、客観的にみれば、男と女だ。歳はずいぶん離れているけど、私はここで滑らかに座ることのできる類…

　新型コロナウイルスが流行し始めた２０２０年は、社会的弱者がいかにして更なる転落をするのか、ということに焦点をあてた記事が量産されたように思います。その傍らには、コロナにより大打…

学校の屋上の柵を乗り越えるには、どうしてもヒカリはわたしの、わたしはヒカリの手を借りるしかなくて、互いの肌をあわせることになった。ヒカリの手はわたしよりも小さいわけではないのに、…

叔父を「大人の男性」と割り切ることもできず、「父親」として信頼することにも引け目を感じる。僕は彼をどのように好きなのだろう？　わかっているんだ。一歩間違えれば、この関係性は崩壊し…