世界樹の専門医

@hydrangea0000

短編

 この世界には「世界樹」と呼ばれる世界を循環させる大きな樹がある。世界樹は「マナ」を生み出し、世界中の人々は「マナ」の力を使うことによって生活をしている。

「マナ」を体に取り込むことによって「魔法」を使うことができる。

 魔法は主に8つの属性に分類される。火属性、水属性、風属性、土属性、光属性、闇属性、無属性、治癒属性である。

 この世界の住民は主に1つの属性に適性を持って生まれる。稀に複数の属性に適性を持つ人も生まれるが希少すぎてすぐに国が保護するため世に出ることはほとんどない。

 この8つの属性の中で適性を持つ人口が少ないのは光と闇と治癒の属性である。

 光は主に人々を雷を発生させたり、けがを治す力があり、人口が少ないことと天候や人体に干渉するからことができることも相まって信仰の的になることも多い。

 闇も光と同様に人口が少ないことや攻撃魔法を無効化したり呪いまじないを使うこともできるためある種の信仰の対象である。

 光と闇は人口が少なく希少で、この属性に適性を持つものは複数の適性を持つものと同様に国によって保護・管理されている。

 しかしこの光や闇よりも人口が少なく、物語の中だけの存在と考えられている属性が「治癒属性」である。

 治癒属性はその名前の通り「治癒」をする。しかし光属性の持つ傷を癒す程度の魔法とは比べ物にならない規模の治癒を行う。

 瀕死の人間でも魔法を用いた次の瞬間からフルマラソンで完走できるようになるくらいの治癒を行う。

 そして「世界樹」を治癒するからことができるのも治癒属性だけである。

 そのため世界中の人々がその恩恵にあやかろうと血眼で治癒属性の適性を持つものを常に探し回っている。

 しかし世界の人々は知らない。

「治癒属性」は継承される属性であることを。

 ある一族が俗世から離れ世界樹の治療のためだけに生活をしていることを。

 世界樹を守り、また世界樹から祝福を受ける一族が存在していることを。


 世界樹を守り、治療しているユグドリア一族に生まれた末娘のアドリアナは一族みんなから愛を注がれて成長した。

 長い金色の髪に小さい顔、大きな緑の目にツンとした形のいい鼻とピンク色の小さな唇。街を歩けば二度見、三度見されるほどの絶世の美女。

 しかしその容姿とは裏腹に性格をお転婆で、好奇心の塊、さらにしたいと思ったことは何がなんでもしてみるという性格であるため騒がしいことこの上ない。

 そんなアドリアナが16歳を迎えた。

「私、世界中を旅したいわ!!」

 いつも通りの夕飯の席での発言に一族全員の動きが止まった。

「私世界中を見てまわりたいの!ここで生活するのももちろん楽しいけれど世界を見てたくさんのことを経験したいのよ。」


「何を言っているんだッ!!我らには世界樹を治療し、守るという役割があることを忘れたのか!!」

 そんなアドリアナの主張を聞いて父・エドアルドは思わず大きな声をあげてしまった。

 しかしそんなエドワルドの声を聞いても怯むアドリアナではない。

「知っているに決まっているでしょ!!でも世界を見てまわりたいという好奇心を止めることなんかできないわよ!!それに世界樹は世界中に根を張っているんだから世界中を周りながら治療することだってできるじゃない!!」

 そう言われてしまうと言い返すことはできない。

 実際に世界中に世界樹は根を張っており、それらの根やそこから生える木が勝手に伐採されたりしていることは問題になっている。

 しかしエドワルドとしてはなるべく俗世と関わりを持って欲しくはないのだ。変な虫がついても困る。

 アドリアナは一族の中でも確かに治癒の魔法を上手く使うことができるし、力には問題はない。

 しかし世間知らずに育っている部分もあり、世に治癒の力が露呈したりしないかという心配を拭うことができない。

 食卓にはアドリアナとエドワルドの対立もあり緊張が走る。

 その緊張を打ち破ったのは一族の長であり、アドリアナの祖父でもあるエドガーだった。

「ふむ。確かにアドリアナの言うことも一理ある。エドワルドの言い分もわかるがもう16歳の成人を超えたのだから俗世と触れ合って見ても良いだろう。

 しかし、絶対にその力を持つと公にしてはならん。

 必ず悪用しようと目論んで近づいてくる者がおる。

 危険であると感じたならばすぐにでも帰ってくるのだ。良いか?」

「しかしッツ!!」

「もう成人なのだ。良い機会ではないか。」

 エドワルドの反論を制止してアドリアナの返事を待つ。

「えぇ!!必ずおじいさまとの御約束を守ることを世界樹に誓いますわ!!ありがとう!!」

 アドリアナは歓喜した。


 一族の長に許可をもらったことをこれ幸にアドリアナはすぐに出発の準備を始めた。アドリアナは猪突猛進なのである。

 母や姉兄に「風邪は引くな」や「いつでも帰ってこい」と心配されたり、なぜか旅について行こうと準備している父をなんとか説得して我慢してもらったり、出発までになんやかんやとあったもののなんとか出発の日を迎えることができた。

 目に入れても痛くない一族の末っ子を見送ろうとみんなが集まる。

「約束を忘れてはいないな。」

「えぇおじいさま。必ず約束をお守りいたします。」

 エドガーの声を皮切りに各々がアドリアナに声をかける。

「風邪ひかないようにね。」

「何かあればすぐに伝書鳩をよこして俺を呼べ!!きっと助けに行くぞ!!」

 ・・・

 みんなの心配や応援に心が熱くなったアドリアナはこれは若干ホームシックになるかもしれないなと思いながらも外の世界に思いを馳せる。


 アドリアナの旅が始まった。

 旅早々に世界樹に通じる森の中で行き倒れている奴を助けたり、助けた奴が仲間になったり、旅の途中で立ち寄った国で誘拐未遂されたり、それがきっかけで国家の陰謀を暴いたり、孤児だと思っていた奴がなぜかその国の王族に連なるものだと判明したり、なんやかんやあるのはまだ未来の話だが。

 アドリアナの旅はきっと順調に進んでいく!!

 行く・・・?

 はずである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界樹の専門医 @hydrangea0000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ