第1話ジジイになりました

あれから五十年、王国は平和だ

 だが完全なる平和なんてこともない、残った魔物の残党は、新たなる魔王を作り出そうとしている。

 そして私は、王女直属の、執事として働いている。


 エテル王国…世界第三帝国の一つである

私はは仕事の休憩時間…窓辺で、ティータイム中である。

 すると、一匹の黒猫が、ドアを頭で押し何かを咥え、入ってきた。

 口元を見ると二枚のクッキーを、咥えている。


「ニャ〜ン」


「おや、シャンデ様、…ってそのお菓子また食堂から盗んだのですね。

もう…後でコック長に、怒られるのは私なんですから」


 王国本部…大きな壁で囲まれている王都とは違い高台から見ることのできる、爽やかな風景を、堪能できる。

 七十の老人であるこの身だ、若い頃と違いアウトドアから、完全にインドアへ、静かな部屋にいることで落ち着く。

 緊迫感なんてない、昼の太陽のように穏やかな気分で、午後の紅茶をすする。

 そこから見えるのは人間関係そして、わ

犬を追いかける少年に…詐欺る物売り


「今日も平和ですね…」


 温まった口に、溢れるその一言…。

平和を感じ、寝てしまいそうになる…が。


 ……そんな猶予私にはないらしい。


「どぁぁぁぁぁ!!」


 一本のナイフが右耳を掠り、窓から一人の影が落ちてくる。

 幸い怪我をしなかったが、せっかくのティータイムが台無し…そして恥ずかしいくらいうるさい叫び声を上げてしまう。


「ちっ、聞いた限りじゃ、この部屋には、国王がいるばずだが…部屋を間違えたか?ジジイと猫一匹か。」


「心臓に悪いですよ、驚いただげでポックリ死んでもおかしくないんですから。」


 よろよろと起き上がり、相手の顔を見る。

王国の奇襲か、いいや国王を狙う暗殺者か…


「はて?…どこかで見たような、お顔ですね」


 はっきりと覚えてはいなかったが、右側の頬にあるバッテンの刺青、どうも見覚えがあるような…

 手を顎に添え、思い出している内に、その男は呆れたように言う。


「おい、テメーまさか…この切り裂き…魔血みどろ男を知らねえのか!?」


 血みどろ……思い出した!、たしか重要指名手配犯だったような気がする。


「これは失礼を、その刺青…指名手配書の、

似顔絵と同じ方ですね。そうだ、ご用件は?」


「ふっ、そうだな…国王を暗殺しにきた…

この、五人も殺した愛刀、〝闇蛇〟で………ジジイ殺されたくば、国王を出すんだな」


 男は、どうだ驚けジジイ、見たいなドヤ顔をキメる。

 あまり最近の流行りを知ろうとしない自分だが、こういうやつは男子なら必ず通る者…


「厨二病ですね!!」


 ど直球に、いいすぎただろうか…彼は、大きな声を出す。


「いや、ちゃうわ!!」


 恥ずかしそうに顔を、赤らめるその男…。

 そして、五人殺したという彼の発言は完全なる嘘である。


「殺した人は、致命傷でもなかったですし…

なぜかそのまま笑いながら去っていくとか、なんとか…」


 その男は黙っている。

 もう爆発してしまいそうなくらいの勢い…少し可哀想な感じだ。


「くっ、お前…おちょくりやがって!!」 


「怒らせるつもりはなかったんですよ」


「…うるせぇ!!」


 ナイフを逆手に持ちこちらに向かってくる

 できるだけ穏便に済ませたいが…歯止めが効いていない。


「いいでしょう…この私に戦いを申し込むということは、それなりの覚悟が必要ですよ。」


 首を少し傾け、襲うナイフの刃先を避ける。


「何もかもがデタラメ…稽古をつければかなりの力を持てるかもしれませんが…」


 男の動きが遅くなる…そのまま、そろりと男の隣を通り、すぐさま服からピョンとか出ていた糸を相手の足に巻きついた。

 ドスンと男は、体制を崩す。


「は!?、拘束されて…というか、一瞬に俺の動きがノロくなった…」


「ふぅ、ちょうど服から糸が出ていて絡まってしまいました。」


「お、お前妙な魔法を使ったな!?」


「いえ、あなたが私のスピードに追いつけなかっただけですよ、」


 理解が追いついていない様子だ。

 だがそちらの方が都合がいい…集中力の途切れている人間は、格段に弱くなる。


「シャンデ様…こちらへ」


 さっきの黒猫に声をかける。

 猫は面倒くさそうに、こちらへトコトコと小走りで向かう。


「ふぅ、これしきの運動で汗をかいてしまうなんて…執事失格ですね」


 暑苦しい…シャツのボタンを外す。

 男は、目線をその首にやる、すると驚いた様子で、こちらに言う。


「まて、まさかその首の傷!?」 


「え?、ああやっと気づきましたか、確かに街には最近お出かけしていないですからね…」


「ということは、やはりお前…五十年前魔王を倒した、勇者…!?」


 その傷を見れば、誰でもその名を出すだろう。

自分でもかなりの有名人だと自分でも、思っているが、この年代になってくると、知り合いはもう数が限られてくるものだ。

 

「アクミ…そうかよ…ははは俺は、とんでもないやつに、喧嘩売っちまったようだ。」


「おっとそうでした、シャンデ様……この無礼者を排除いなければ。」


「……まったく、私を使わせるなんて、面倒くさいわ」


「猫が喋った!?」


 黒猫は、喋る。

 するとシャンデは形を変え刀へと変化する。


「魔王シャンデ…それがこのお方の名前です」


「何言ってるんだテメー、魔王っていえば、勇者に封印されているはずじゃ……はっ」


 五十年前、封印した魔王は、私の使い魔である。

 あの戦いから、シャンデの調査をすることにした、シャンデの力は封印前とあまり、変わらない。

 この変化能力で刀や猫なんかに、姿を越えることができる。

 

「だけど、あんたのせいで好き勝手暴れることができないのが、不便なとこね」


「まあ、それは仕方ないですよ…」


「ちょ、おい待てまさか俺を殺すんじゃないだろうな!?」


 怯える男…正直のところ私の仕事は、王国を襲う暗殺者なんかを、排除することだ。


「そうですね、殺しましませんが、腕一本くらい切り落とさなければ、割りに合いません」


 そっと刀を、相手に向ける。


「おいおい、おいおい!!待てーーー!!」


 自分と繋がる糸を、プツンと刀で切る。

 

「ちょっと、コイツ泡吹いて気絶してるじゃない…」


 少し、驚かせるはずだったが、倒れてしまった。

 まあ、これくらいしておけば二度とこんなことはもうしないだろう。

 持つ刀は、人型の姿に変え椅子へと座る。

 

「お疲れ様です、久しぶりの変身でしたが、全盛気をたもったままですね」


「そんなことより、一仕事したんだしなんか、ご褒美は?」


「え?」


「馬鹿、給料が出ない仕事なんて、誰がやるのよ…」


 随分長い付き合いだが、シャンデの性格はかなり理解してきた。

 魔王という名を持ちながら、驚くほど器が小さい。

 まったく、主従関係というものがあるというのに完全に尻に敷かれているような気がする。

 わざわざシャンデを使うほどのことでもなかった。


「わかりましたよ…じゃあこのお菓子全部あげますから」


「少ないけど、いいでしょう…今回はこれで満足してあげる」


「それよりも、早く猫型に戻ってください……こんなところ見られたら怒られてしまいます」


 私がシャンデを使い魔にしているということを知っているのは、現国王人間たちだけだ。

 国王なったリビルドは、最近亡くなり、今はリビルドの息子しか知らない

 もちろん、魔王がまだ生きているなんて、国民に知られればかなり面倒だからだ。


「おっと、もう休憩の時間は終わりです。

早く仕事に戻らなければ…早く猫に戻ってください」

 

「…ちょっと待ちなさいよ、まだ食べてるのが見えないの?…」


 ギロリと目を細めいう。

 ……正直魔王と考えると背筋が凍る。


「早く食べちゃってくださいよ」


「なに?、そんな焦ることもないでしょう」


 こちらにも仕事があるというのに、落ち着いた様子で言って、というか王女様が帰ってくる。

 もうこうなったら、無理矢理にでも猫に返信させなければ。


「ほら早く猫に戻ってください!」


 彼女の手を掴むが、体勢を崩して椅子から転げ落ちそうになる。


「きゃっ、ちょっ…」


 シャンデは、私の服を握り、一緒に倒れてしまう。

 

「…この体勢かなりまずいのでは!?」


 服が乱れている女性を、私が押し倒しているこの状況…普通に捕まるレベルなのでは?


「あんたが、こんなに積極的だったなんて…」


 なんか勘違いされている。

 そうだ、こんな茶番やっている暇はない…

すぐ立ちあがらなければ。


「はあ、もうお遊びは、おしまいです。早く立ち上がりますよ……」


 ガチャと、ドアが開く音がする


「…アクミ様失礼します…え……」


 そこに立つのは現国王、フレイ国王であった……かなり気まずそうな顔をしている。


「いや、これは違うんです!、事故です!」


 側から見たら完全に私が犯罪者じゃないか


「……押し倒されてしまうなんて、屈辱だわ」


「あなたは、黙ってください!!!」


 この後弁解するのに十分くらいかけた。


つづく

 

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元勇者はジジイになる。 鯖承 @AirMac1003

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