元勇者はジジイになる。

鯖承

プロローグ

まさか、自分が魔王を倒すことになるなんて、思ってもいなかった。

 子供の頃から父親に遊び半分で剣術を教わっていたのだが、半年前…国王直々に魔王討パーティに任命された。

 ーーそれがこの私、ラウンズ=アクミである。

 


「よくここまでたどり着いたわね勇者一行たち…」


 魔王は玉座に座り、こちらを下に見る、正直のところここまで辿り着くなんて思ってもいなかった。


「まさか、魔王がこんなに可憐な人であったとは…かなり驚きましたがね。」


 魔王から溢れ出る魔力は、とてつもないものだ。


「魔力を持たないなんて人間久しぶりね」


 魔王シャンデ…魔物を統べる者である。

 女性のような見た目をしているが、姿形を変えることができ、魔法は世界を滅ぼすほどの力を持つと言われる。


「気をつけろよ、アクミ…あれでも一国を、滅ぼした魔物の王だ。」


 魔法使いリビルドは、自分と並び杖を構える。

 僧侶と戦士は、今魔王城内の魔物たちと戦っている。

 魔王と戦うのは、自分とリビルドだけだ…

リビルドは、国王の一人息子…数ヶ月の仲だが、彼の魔法は最強と言えるだろう。


「アクミ!、援護は任せろ!!」


 リビルドは、炎弾を放つ

 さすが、彼の援護は信用できる、行くなら今だ。


「それでは、行かせてもらいます!」


 愛刀を握り、炎弾と共に魔王の元へ走る。

 魔王も、かなりやる気だ。


「いいじゃない、腕がなるわ」


 立ち上がり、その長い黒髪を揺らし、魔法を放つ。

 やはり、魔王の魔力だリビルドの倍もの魔法を使い、炎弾を壊してゆく。


「魔法のセンスは悪くない、それでも私には勝てないわ」


 魔王の玉座の前で大きく飛び、刀を振り下ろす。

 そして、同じタイミングで魔王は剣を生成し、自分の一閃を受け止める。

 

「なかなかの剣筋ね、褒めてやるわ」


「それは、恐縮です………」


 剣を交える魔王の顔が見える。


「?…なによ…」


 その目は、魔王とも言えないほど綺麗であり見惚れてしまう。

 あまり、女性に興味はないが、しばらく見つめる。

 すると魔王は剣をはなし、自分の顎に人蹴り……激痛と共に玉座から吹っ飛ばされる。


「も、もう!気持ち悪いわよ!」

 

「本当に、何してるんだよ!」


 リビルドも呆れたような様子だ。

 無理もない、魔王に見惚れてしまうなんて。

 早くこの魔王を倒して国を救わなければいけないと言うのに。


「そのいやらしい目、潰すわよ」


「なぜ、怒っているのですか!?」


 先ほどよりも怖い顔をしている、何か地雷を踏んだのだろうか…ただ見つめてしまっただけなのにな。

 戸惑う私に、リビルドは言った。


「あれだよ、多分ツンデレってやつ照れ隠しのつもりで暴言言っちゃうタイプなんだと思う」


 リビルドは、物知りなんだな。

 自分はそう言う方面に、あまり詳しくないならよくわからないが。


「ツンでも、デレでもないわよ!!、もう頭にきた、酷い方法で殺してやるわ…」


 魔王は、持つ剣を自分たちの方向に向け、グルグルと渦巻く黒い波動を溜める。


「我の中に潜まる漆黒の心臓の鼓動ろ響き渡れ……魔力砲解放…」

 

「まずいかなりの、魔力砲を放つつもりだ!

アクミ剣を構えろ!」


 紅色の光線が魔王から放たれる


「無駄です…」


 思い切り刀を振りかざし、その光線を斬り付ける。

 

「なっ、実力を持つ大魔導士でも防ぐことができなかった」


「私は魔法では力にはなりませんが、物理の攻撃では魔王をも超えるでしょう」


 体勢を戻し、刀を魔王に向け構える。


「……人間がこの私を超える?」


「お、おいこれかなりやばいんじゃ…」


 身体が痺れるほどの殺気がこちらに漂ってくる。

 魔王の目は赤く光り辺りは、ゴゴゴと揺れ始める。


「コイツ、魔王城ごと破壊するつもりじゃねえだろうな!?」


「私は、誰よりも最強で、美しくて、可愛くいのよ!、私を超える人間なんて殺すわ!!

魔力砲最大出力…」


 一つの地雷を踏んでしまっただけなのに、こんなにキレるとは思いもしなかった。

 

「リビルド下がってください…」


「ちょ、待てあれを受け止めるなんて言わねえだろうな!?」


 リビルドは、次国王になる者…将来有望な者が、私なんかより早く死んでしまうなんて、ダメだ。


「さっきと同じ方法でやります…」


「なに!?、やめろあれを受け止めれるほど、お前の体は奴に追いつけてない!」


 一つだけこの状況を変える方法がある。

 だがその技は一回も成功させたことがない。


 「大丈夫です、確実に勝ちます」


「発動準備完了…勇者一行よ、死になさい!!」


 魔王のチャージも終わり絶大な魔力が、具現化し、発射される。

 魔王が、放った魔力砲がこちらへ向かうってくる。

 だが、後ろに下がるわけにもいかない。 

 刀を持ちその場に立つ。


「無駄よ、そんな弱々しい棒一本で、この魔力砲を突破するなんて!」


 腰を低くし、刀を鞘に収める。

 魔法センスがない私は、魔法を使うことができない。

 だが、自分のたった残された一つの能力…

もうゼロ距離というところで、刀を素早く抜き素早く横切りをする。


「…歪斬り…」


 その大きな魔力砲は、二つに割れ、そのまま天井を破り空へと消えてゆく。

 魔力を使い果たした魔王は、驚きその場で足から体勢を崩す。


「な、なに…私の全部の魔力よ…」


「ははっ、本当に成功しちまうとはな…」


 歪斬り…魔力を歪め実質的に魔法を斬ることを可能にしている技だ。


「たかが、剣技が魔法の領域に踏み込むなんて、あんた本当に人間?」


「一応人間ですが…魔神の遺伝子が混じっており人間以上の怪力は持っていると思います」


「魔神の遺伝子…おかしな話ね」


 ラウンズ家は、代々魔物の中でも最上位の魔神の力を向け継いでおり人間離れした身体能力を持ち生まれてくる。

 

「私も、落ちたものだわ、こんな男に負けるなんて」


 魔王は、諦めたような感じだ…もう楽にしてやろう。

 魔物は魔力がなければ動くことができない殺すなら今しかない。

 簡単なこと刀を持ち、首を切り落とす、それだけのことだ。


「早く殺しなさいよ…殺すわよ」


「アクミためらう気持ちはわかる、お前は魔物にも情をもっちまうくらい優しいからな…」


 確かに、魔物を殺すことにはあまり慣れない。

 だがここまできてくれた仲間にそんなことはさせたくはない。

 覚悟を決め、刀の持ち手を握る。


「いいや、リビルド大丈夫です……魔王あなたを殺します」


「一生呪いたいところだけど、呪いをかける魔力もない…まったく私は馬鹿ね」


 刀を振り上げようとすると、魔王のそばに落ちている小石が、光の柱が現れる。

 

「おい!、使い魔契約の魔石だぞ!?」


「へ?」


「どういうこと、あんた早く私を殺しなさい!使い魔なんかになりたくないわよ!」


 彼女の首を切り落とす前に使い魔の契約が確定しまったようだ。

 辺りは空気は静かになり先ほどから、態度がでかいその魔王は、私の前で土下座をしている。

 契約完了……魔王の飼い主に今私はなったのである。


「ぐぬぬぬぬっ…んもう!なんでこんなところに使い魔契約の魔石があるの!!」


「あらら、こりゃ、お前が死ぬまでの契約だぜ」


 最悪だ、魔王を倒しにきたはずなのに魔王を手なづけることになってしまうなんて……王国になんて説明すればいいのだろうか。

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