怒り、恐怖、爆ぜる

枙上が救急車に運ばれてから三時間が経過した

俺は何があったかの事情聴取をされたが、ありのまま全てを話す前に帰された

と言うのも、救急車到着して救急隊員さんが降りて枙上の安否を確認しようと駆け寄ったが、顔を見るなり「またお前か」と言わんばかりの表情を浮かべた

気になって事情聴取の最後に聞いてみた所、枙上は病院の常連だと

ん?何、病院の常連って?

どうやら枙上はしょっちゅう事件や事故に巻き込まれては運ばれ、翌日に退院するらしい

異常なまでの回復速度と救急搬送数から、一部の病院関係者からは『生きた死霊しりょう』と呼ばれているらしい

そりゃそうだよね、俺も多分そう呼ぶ

なんて事を思っていたら枙上の病室に着いた

せっかくだし顔みて帰るか

そう思いノックをして部屋に入る



「失礼します」

「お、クルマ君!来てくれたんだねー!」

入って早々元気そうな声を聞いて何故か安心よりも苛立ちが勝った

「……元気そうだな」

「そりゃあね!なんたって私は」

「死なないから……か?」

自信を含んだ枙上の言葉を断ち切るように俺は言った

「お、分かってんじゃん」

「……死なないから平気でトラックに轢かれるのか?」

「え、何?急に」

何なんだろう

急にこんな事なんで言うんだろう

「お、落ち着いてよ、ほ、ほら!女の子も助かったんだしさ!」

「いい加減にしろ!」

俺の怒鳴り声に枙上の体が跳ねる

「確かに女の子は助かった。でも、俺が言いたいのはそうじゃない……」

「クルマ……君?」

「怖かった……屋上でお前が心臓を刺した時も、トラックに跳ねられて動かなくなった時も」

「ど、どうしたの?どうして……」

もしかしたら、もしかしたらこの瞬間から枙上が本当に死ぬんじゃないかと思った

会って数時間、ましてや、自分の人生の終わりを邪魔したような奴のために

「どうして……泣いてるの?」

視界が歪む

目から雫が落ちるのがよく分かる

「……約束しろ」

「……え?」

「俺の前で危ないことをするな」

「え、あ、うん……」

……そうか……怖いんだ

人が、目の前で死ぬのが

目の前で誰かがうしなわれていくのが……とても怖いんだ




二分程経っただろうか

ある程度気持ちが安定したあたりで枙上が口を開く

「……クルマ君、ごめんね。もうしないよ」

枙上は優しい目をして俺を見つめた

そのまま時間が止まったように思ったその時

「あのー、そろそろ良いかな?」

「!?」

後ろから声がしたと思い瞬時に振り返る

そこには白衣を着た男性が立っていた

「あ、古久保っち!おつかれー!」

「はいはい、おつかれおつかれ」

古久保っちと呼ばれた男は枙上が横たわるベッドの隣に座った

「んで?トラックに跳ねられてそのまま寝たJKがいるって聞いてまさかと思えばそのまさかだったんだけど……何してんの?」

「む、何してるとは失礼な!立派な人助けだよ!」

「勤務時間終えた瞬間に呼び出された僕からしたら何が人助けか皆目見当もつかないんですけどねぇー?」

そう含みのある言い方をしながら枙上の頬をつねる

「わぁー!いたいたいひはいひはいごめんなさいぃほへんなはいぃ!」

「ったく……あ、君もやる?スカッとするよ」

「い、いえ、俺は……」

……正直言ってめっちゃやりたい





「はぁー、痛かったー」

頬をさすりながら枙上は男を睨む

「自業自得だバカ」

かれこれ5分は頬をつねられていたせいか、とても腫れてる

よほど苛立ったんだろうな

「ところで……あなたは?」

「あぁ、自己紹介がまだだったね。僕は古久保こくぼ おさむ、こいつの担当医だ」

「あ、ご苦労様です」

つい反射で出てしまった

「えぇ本当に」

古久保さんは絶対に何かがないと出来ない暗い表情をして答えた

本当に苦労してるんだな

「ちょっと!二人してなにさ!人を問題児扱いして!!」

「「問題児だろ」」

どうやら、俺含めこの場に枙上の味方はいないらしい

「ぬぅ……」

涙目になり、反論出来ない悔しさを全力で顔を出している枙上

そんな彼女を横目に古久保さんは言った

「今日はもう遅いし、どうせ明日には退院するだろうから、もう帰りなさい」

「あ……はい、そうします」

「え、クルマ君帰っちゃうの!?」

明日になったらピンピンしてる姿を浮かべた

容易に想像出来るな

「もうちょっと居てくれてもいいじゃんかー!」

「お前みたいに暇じゃねーだろ」

そう言って枙上の額にデコピンをかました

「あだっ!」

「こいつの事は気にせずに、気をつけて帰ってね」





今夜はよく眠れそうだ

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死にたい僕と死ねない彼女 ごーや @Goya3389

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