不死者
「私の名前は枙上 三奈、君と同じ高校一年生であり不死者だ」
「……はぁ!?」
枙上 三奈……名前は聞いた事ある
入学式にすらまともに姿を見せず、一年どころか学校中の誰もが姿を見た事無いと噂の不登校生徒……いや、それよりも
「不死者……って」
「ん?名前の通り不死者。死ねないの、私」
「は?マジで何言ってんだ」
「まぁ、そりゃそーだよねー。初めは皆そうだったし……よし、君には特別に見せてあげよう!」
枙上はそう言うなりスカートのポケットから革素材の何かを取り出した
その革素材の何かを外した瞬間、目に太陽の光が刺さった
なんでそんなもの持っているんだと言おうとした時
ドスッ……
鈍いような音と共に太陽の光を反射が消えた
枙上の体に目を向けると
左胸部にナイフの刀身が埋まったのが見えた
「……は?」
「ゴフッ……」
困惑してる俺に返事をするように血を吐く枙上
「……は!?おい!何やってんだ!」
枙上の口から赤く濁った血液が流れると同時に理解した
自分の胸にナイフを刺したと
「おい!おい!返事しろ!」
焦った俺は必死で彼女の傷口を抑える
一瞬の出来事が永遠のように長く感じ始めたその時
「ごほっ、ごほっ、かっ!」
苦しそうな咳が聞こえる
「あ……あ、ど、どうすれば……」
枙上の咳が聞こえた俺は傷口を抑えた手に更に体重を乗せた
「……ルシイ」
「!?待ってろ!今助け」
「苦しいって言っとるやろがーい!」
「あがっ!?」
枙上の怒声と同時に先程と同じく顎に激痛が走った
「ってぇ!……って、はぁ!?」
「あぁー苦しかったー。ったく、抑えすぎだよ!危うく窒息死するところだったじゃないか!」
「え、は、ちょ……え?」
困惑してる俺をよそにはにかみながら
「まぁ、死なないんですけどね☆」
両手でピースをしながらそういった
俺はここで初めて真剣に
あ、こいつ殴りたい
と衝動的に思った
「ねー?いつまでボーーーっとしてるの?口ポカーンだよ?君」
誰のせいだと思ってやがる
「いや、だって……さっき心臓刺して……」
「ん?だから言ったじゃん『不死者だ』って」
フシシャって……本当に不死者なのか?
本当に死なないのか?
でも、確かに心臓を刺して血も出てた……
そんな事を考えていると
「そんなに信じれないんならもう一回」
と言いながらナイフを持った右手を空へ掲げた
「ま、待て!分かった!分かったからもう辞めてくれ。心臓に悪い」
「まぁそりゃコレで刺しましたからねw」
ヒラヒラとナイフを揺らして笑う
俺の心臓の話だっつの
「ま、流石にやめるとしますか」
掲げたままの右手でまるでポールペンを回すようにナイフをクルクルと指と指の隙間を通す
「それに、もうこんな時間だし」
彼女の言葉と共にチャイムが鳴った
最終下校時刻十分前のチャイムだ
「あ、あぁ、そう……だな、帰ろう」
「ねぇ、良かったら帰り一緒に帰らない?」
「へ?まぁ……良いけど」
「やったー!友達と一緒に帰るの憧れてたんだよねー!」
いつから俺らは友達になったんだよ……
内心ではそう思いつつも帰宅準備を始めようと枙上に背中を向けたその時
「あ」
グサッ
「あ?」
何やら嫌な音がした為、後ろを振り返ると
「刺さっちったーテヘペロ☆」
鬼に生えてる角のようにナイフが枙上の脳天を突き刺した
「……はぁ」
俺はあと何回「は」の一文字を言えばいいのだろうか
「へぇー。
「あ、あぁ、よく……言われる」
なんだ?なんなんだこの女!
さっきまで頭にナイフ刺さってたとは思えないくらい普通の会話するじゃん!?
妙な同様と相まって返事が淡白になるのは分かっているのだが……分かっているがそれ以前にツッコミしか出来ない事が目の前にありすぎてろくな思考ができん!
「ねぇ!聞いてるの?クルマ君!」
「へ!?あ、すまん、聞いてなかった」
「よく堂々と言えるなコノヤロー」
「ご、ごめん、それで、なんて言ったの?」
「いや、私も自己紹介しないとなーと思って」
ただの女子高生のような笑みを含んで俺に言う
「そ、そう言えば聞いてなかったな」
そう言うと変わったばかりの赤信号を止まり、俺の方を見て言った
「でしょ?じゃあ、改めまして。私の名前は
枙上が笑顔で自己紹介を始めようとした途端横断歩道に視線が行くのが見えた
真ん中には風船を小さな子供がいた
道路信号はまだ青になってない
間に合うか?
そう思った瞬間、横から分厚いエンジン音が聞こえた
瞬時にトラックだと判断した
「逃げ」
逃げろ!
そう口にしようとした時、視界から黒い髪が
次の瞬間には長い黒髪が少女を包み、トラックに跳ね飛ばされた
余程衝撃があったのか6m程吹き飛んだ
「……!枙上ッ!!!」
俺は急いで転がっている枙上の元へ駆け寄った
地面が枙上を中心に赤く染まっていく
「おい、大丈夫か!?」
返事がない
まさかと思い彼女の体を仰向けにした
綺麗に抱え込んだのか、泣いている少女に大きな傷は見られなかった
と言うより見えない
少女の体の半分程が枙上と思われる血液に染まっていたからだ
「枙上?大丈夫……だよな?」
やはり返事がない
「枙上?枙上!?」
嫌な予感がしたと思いそっと肌に触れてみる
……温かい
そうだ、脈!
脈の計測をしようと枙上の首元を抑えた
トクッ、トクッ、トクッ
……正常だ
……息、息は!
俺は自分の耳を枙上の口元に近づける
スゥー、スゥー、スゥー
……え、もしかしなくても寝てる?
おい嘘だろこの女
トラックに跳ねられて寝てやがるぞ
信じ難い光景を目の当たりにし、現実を受け入れられずにいた時
「大丈夫か!?」
トラックから運転手が降りてきた
片手にスマートフォンを持っていたことから救急に連絡したのだろう
……え、要る?救急車、寝てるよ?
そう思っていると運転手は枙上の元へ駆け寄った
「大丈夫か姉ちゃん……!」
あまりにも必死そうな運転手さんを見て少し気の毒に思った俺は
「はい、大丈夫です。彼女なら寝てます」
そこから救急車が来るまで運転手はずっと口を開けてたのを、俺は生涯忘れる事はないだろう
多分、俺も同じ顔してたと思うから
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