人化は予想外に



「さて、弟子入りしたからには私が君の世話をしなければね」



それはまじで頼む。

俺1人でこの森を生き残れるとは思えん。



「とりあえず……ほい、この穴に入って」



ストネス……じゃなかった、師匠が空間に黒い穴を開けて指差しながらそう言った。



これは……空間転移か。



「ピンポンピンポーン! 正解。この穴に入れば私のすみかに繋がってるから」



はぇー、こんな物見せられるとゲームで頑張ってマップ移動してたのがバカらしくなるな。

なんて俺はそんなことを思いながら穴に入った。



「私の住処にようこそ!」



穴を潜り抜けるとそこには木の中をくりぬいたような部屋……というか家が広がっていた。



おぉ、ここが裏ボスの住処……

なんか魔王の方が豪華だな。



「だってあんなにいらないもん。1人で暮らすのに」



まぁそれもそうか。

魔王のとこなんて余裕で千はこえるもんな。

いろんな物が置いてあるのは当然か。



なんて考えていると師匠が当たりを見渡しながら何やら考えていた。



何考えてるんだ?



「ん? 君の部屋だけど?」



俺の部屋?

いやいや、いらないぞそんなの。



「なんでさ、一緒に暮らすんだからいるでしょ」



そうか?

俺にとっては絶対に安全に暮らせて、尚且つそっちのやりたいこととはいえ強くしてもらえるんだぼ?



床になるくらいわけないって。

ってかそもそも俺今狼の体だし。



「あっ、いやそれは……」



ん?



「いや、なんでもない! とにかく! 私からしたら君の部屋が必要なの」



まぁ、そこまでいうならいいけどさ。

こっちが無理強いすることはできないし。



「うん、決めた。君の部屋はここに作る」



指差したのはベットが置いてある部屋の奥だった。



ん?

ここ師匠の部屋じゃないのか?



「うん、その奥に作るんだよ」



……え?

なんで?

なんでわざわざ師匠の部屋の奥に?



「だってそっちの方が便利だし」



いや、そっちがそうなのかも知らないけどこっち精神は男なんだぞ?

精神的になんか罪悪感というか……



「さっき無理強いはできないって言ったのは誰だっけ?」



うっ、俺です。



「はい、じゃあここに作るからね!」



了解です……



俺がしぶしぶ了承すると師匠は満足げな顔で頷いた。



「あっ、ちょっとこっち来て」



俺がどうしてこうなった、と考えているとそう言われた。



はいはい、なんですか?



「君には強くなってもらうって言ったよね?」



そうだな。

それが俺をここにいさせてくれる約束というか契約だからな。



「じゃあ早速強くなってもらおうかな」



……え?



そう思った瞬間、俺の意識が薄れていった。

最後に見えたのは笑みを浮かべた師匠の顔だった。










「あとはここをこうしてっと」



……あれ?

俺はなんで眠って……あ、そうか。

師匠に呼び出されて急に意識が飛んだんだった。



あのセリフ的に絶対に師匠が何かやったよな。

何やったんだ一体……



「……ん?」



そのとき、強烈な違和感が俺を襲った。

手が……ある?



そう、手があるのだ。

いや、前からもあったけどそうじゃない。

意識が飛ぶ前は絶対になかった人間の手が、今あるのだ。



力を込めて見ると動く。

……ということは俺の体だ。



「一体どうやっ……!?」



喋れる?

しかも声男のじゃなかったぞ!?

一体何したんだ師匠!




「あっ、起きた?」



俺が困惑してあるとひょっこりと師匠が顔を出してきて言った。

さっきまでなかったところだから多分俺の部屋なのだろう。

ってそんなことはどうでもいい!



「これは一体どういうことだ!?」



俺がそう叫ぶと師匠は真顔で言った。



「いや、想像以上に可愛いんだけど」



え、なに、なんで急に真面目な雰囲気出してんの?



俺がそんなことを思ってあると師匠はそっと俺に手鏡を渡してきた。



俺が視線を師匠に向けると頷いた。

みろ、ということなのだろう。



俺は恐る恐る鏡を見る。

するとそこには1人の少女が映っていた。



狼、ではない。

おそらく14歳くらいの灰色の髪の毛を持った美少女というべき女の子だった。



……狼の耳と尻尾をもっているが。



服は着てない、全裸だった。

俺がそのことに気づくと顔が真っ赤になるのがわかった。

それと耳と尻尾がピンッ! と立つのが。



えっ、ちょっとまって女の子?

俺が?

ってか裸!?



あーもう色々起こりすぎて訳がわからない!



「はい、落ち着いて!」


師匠のその声で俺は我に帰った。



「さて、今君はなんでそうなったか疑問に思っているでしょう。結論から言えば君のスキルによるものだ」



え?

俺のスキル?

……種族限界突破か……



「そう。君は今、魔狼から獣人へと限界突破した訳だ」



「獣人……いやでもなんで急に? 俺は何もしてないぞ?」



自分の声に違和感を感じながら俺はそう言った。



「何言ってるんだ? 私に出会ったじゃないか」



え、そりゃあったけど。

それが別に何か進化するようなものがあったわけでも……



「いいかい? アル、君と私は師弟関係だ。それが何今更かわかる?」



……契約か!



「そう、契約は複数人が決めるもので上位者が部下というか配下、私たちの場合は弟子に有利になる。例えば君のスキルを私が発動させたりな」



まぁ、それは圧倒的な実力差がある俺らだからこそできたわけだけどな。

本来なら上位者の雑用を聞くようになるとかそういったちょっとしたことだし。



「君のスキルは君の能力が一定以上のラインを超えるとできるようになるらしいからね」



そうか。

俺はもともとチュートリアルのボスだからそこそこ普通の魔狼に比べて強かったのか。



「まぁ、そうなんじゃない? それに勇者のことを見る関係で知ってたけど弱体化されてたっぽいからね」



あー、そういや主人公の後ろのやつデバフとかかけられたな……



「まぁ、そういうことだよ。改めてよろしく、アル」



「よろしく、師匠」



こうして俺の弟子としての生活が始まった。

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チュートリアルボス転生〜死にたくないので裏ボスの弟子になります〜 トラさん @tetoito

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