弟子入り



裏ボス、ストネス。

その力は圧倒的だった。



ゲームの中、主人公はギリギリで魔王を討伐することに成功した。

ギリギリとはいえ、人類では到底敵わないはずだった魔王を討伐したその強さはとんでもないものだ。



そんな主人公でも手も足も出なかった。

こちらは魔王にも大ダメージが入るレベルの攻撃をしているのに相手は涼しい顔をしている。

そして相手の攻撃はこっちにとって致命的だ。



相手には攻撃が通らないのにこっちは大ダメージ、これではすぐに負けてしまう……とはならない。



ストネスら自分が死ぬ前に戦闘を終了する。

なぜか?



このゲームにはレベルがある。

そして、ストネスとの戦闘ではその結果に応じて経験値が入るのだ。



つまりストネスに挑めば挑むほど強くなれる。

ストネスは主人公が強くなり、自分と対等に戦えるようになることを望んでいる。

つまり主人公を育てている。



それがストネスのゲームでのスタンスだった。



そして俺は、そんな裏ボスと



「いやぁ、まさかこの世界が遊びの異世界から来る奴がいるとはねぇ」



裏ボスの住処で話していた。



側から見ればテーブルで女性と狼が向かい合い、女性が一方的に狼に話しかけている場面である。



一体なぜこうなったのか、それは数分前に遡る。







「なんで私の存在を知っている?」



まぁ、知っているもなにも俺はこの世界の人間じゃないからな。



俺が心の中でそう思うとストネスは驚いた顔をした。

やはり俺の思っていることは相手に伝わっているようだ。



「なるほど、私の読心の能力も知っているというわけか」



まぁな。

少なくともここの世界の人よりは知っていると思うぜ?



「それで一体なんのようだ? わざわざ私を呼んだのだろう?」



まぁ、なんというか裏ボスに頼むのはおかしな話なんだがなぁ。



「ウラ……ボスとはなんだ? というよりもお前名前はなんでいうんだ」



名前……か。

そういや名前言ってなかったな。

そもそもチュートリアルのボスに名前なんてないからなぁ。

やっぱ前世の名前か?

ってかそもそも俺はなんでこの世界にいるんだ?

向こうで死んでしまったのか?



いやでも別に何か病気になっていたわけでもないし……



「ややこしい! とにかく名前がないんでしょ?えーと、ちゅーと……りある、とか言ってたしアルでいいでしょ!」



おいおい、急に口調変わったぞこいつ。



「あっ、やべ」



あっ、やべ、じゃないんだよ。

裏ボスの威厳のかけらもねぇな。

そもそも俺もこんなの知らないし。



「う、うるさいな。とにかくお前はアルだ。私が勝手につけた」



アル?

チュートリアルがなんとかって言ってたし最後の2文字からとったのか?

安直というか捻りがないというか……



「……」



俺がそんなことを思うとストネスはぷくー、と頬を膨らませる。



おっと、ストネスさんがお怒りだ。

ってかゲームでそんな描写なかったし。

やっぱゲームの知識は完璧じゃないっぽいな。

まだ聖剣戦争の世界で知らないことは多いってことか。



「で! 結局なんで呼んだの!」



あ、えーとそれはかくかくしかじかで……





「ふーん、それで私のところに来たいと」



そうだ。

俺はこのゲームのチュートリアルボス。

正直いってクソ弱だ。

何かを殺したことなんてないしそもそも勝てると思えない。

それでどこか衣食住があって安全で敵対しないところを探したらあんたのとこだったってわけだ。



「そんなので許可してもらえると思ってるの?」



あんたの性格は知ってる。

面白そうって思ったものになとことん飛びつく奴だ。

異世界から来た奴、興味が湧かないわけなだろ?



「……まーね。正直興味はある。めっちゃある」


だろ?

だからさ!



「でもちょっと足りないかな」



……え?



「その様子だと私がなんでここら辺にいるか知ってるよね?」



それは……主人公、勇者となったレイトを観察するため。



「そう、で、そんな勇者くんに私が期待してることは?」



……自分と対等に戦うこと。



「ピンポンピンポンせいかーい!」



強さ、俺に今1番ないものだ。



「だよね、だから断ろうかなって」



……甘かった。

異世界から来たっていへば飛びつくと思ったんだが……

いや、でもそうだよな。

ストネスが主人公に求めてたのは強さだ。

わかりきってたんだ。



「ちょ、ちょっとそんな悲観しないでよ! まだ話は終わってないんだから!」



俺がそう思い、絶望していた時ストネスがそう言った。



……どういうことだ?



「確かに断ろうかと思ったんだよ。さっきまでは」



さっきまでは?



「アルくん、ステータスって知ってる?」



ステータス?

そりゃもちろん。

あんたを倒すために睨みっこしてたよ。



「じゃあ君のステータスは知っているかい?」



俺のステータス?

いや知らないな。

気づいたらレイトに殺されかけてたし。



っていうかそもそもステータスってどうやって見るんだ?

ゲームだと自然にメニューから見れてたから考えもしなかったな。



「ステータスっていうのは人間の『特性』さ。魔物には特性が存在する。例えば君の魔狼の場合は炎によるダメージの軽減だったかな?」



特性は人間が勝手につけたものじゃないのか!?



「いいや、違う。特性は全ての生き物にある特別な力だ。人間の場合は自分の力を数値化するという特性のようだね」



そんな特性……見たことがない。

魔物は特性を持っていたが数値化なんていう特性を持っている奴はいなかったぞ?

亜人と呼ばれるエルフ、ドワーフもだ!



「だからこそ、人間から『勇者』などという特別な存在が生まれるんだろうね」



人間がそう言った特性を持っていたから勇者なんかが生まれるのか?

一体なんで……



「さぁね、でも考えられるとしたらそれしかないだろう? 人間と他の生物の大きな違いはそこなんだから」



なんなんだよ……

こんなのゲームで知らないことばっかりじゃないか……



「まぁ私しか知らないってものあるね。だからそっちでは出なかったんじゃない?」



そうなのだろうか。



「まぁ、でもこれを聴いたら人間たちは大パニックだろうね」



え?



「なんせ、人間と他の種族を特製があるかないかで区別しているんだから」



確かに。

ゲームの中では人類至上主義とでもいうべき国もいた。

そんな国がこれを知ったら大発狂もんだろうな。

まぁ、俺が関わるわけでもないか。



……で?

だいぶ脱線したがそのステータスがなんだって?



「そうそう、君のステータスを見せてもらったんだけどね」



いや、しれっと見るなよ。

なんでお前が見れるんだよ……ってそういやこっちの状態わかるんだったな。



「そそ。看破っていうスキル持ってるからね。んで、それを見たんだけど君、『種族限界突破』っていう面白いスキル持ってるね」



種族限界突破?

それって、俺がここに来る前に見たバカかなって思ってた奴……



「それがなんなのかはわからないけどこのスキルは面白いね」



というと?



「簡単にいえば同系統の別の種族になれるんだ」



ん?

どういうことだ?



「君は今魔狼だ。どう頑張っても聖獣〈フェルリル〉にはなれない」



そりゃそうだ。

なんだったら進化とかそういうものが用意されてる種族も少ないんだからな。



「でも君のスキルがあれば同じ狼系統であれば力さえあれば聖獣にもなれるのさ」



は?

なんだよそれ、そのぶっ壊れスキルは……



「つまりね、私は君を育てたいのさ。この手で」



俺を……育てる?



「そう。君はこの世界で生きていけない。だから私が君を鍛える。強くする。そして私と戦えるようにする」



裏ボスに……鍛えてもらう?

そうなこと……いや、でもそしたら俺も強くなれる。



「そしたら私の目的も叶う。利害の一致ってわけだ」



なるほど。

そういうことか。

互いにメリットがある……と。



「そゆこと。だからさ、アル。私の弟子にならないか?」



……わかった。




これが、俺が裏ボスの弟子になった瞬間だった。




ーーーーーー


応援コメントをいただいて張り切ってしまいました!

ありがとうございます!

これからも頑張ります!

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