第1話「転生」
生きるのは難しい。
だが、死ぬのは本当に簡単だった。
こんな難易度調整もまともに出来てないクソゲーを。
どうして80億もの人々がプレイしているのだろうか。
少なくとも、合理主義者で夢想主義者な俺は、このゲームを止める事を選んだ。
────
ここは、どこだ・・・?
四方を黒い艶のある壁に囲まれた閉鎖空間。
俺はその中心に立っていた。
正面には、白い靄光を放つ扉がある。
近づいて触れてみるが、それは扉というよりも、一枚ののっぺりとした板という方が近い物だった。
当然、開くことも閉める事も出来ない。
(死後の世界って意外とつまらないんだな)
何にもない無機質な空間で出来る事なんて、アレくらいしか無いよな。
俺はズボンを降ろし、息子をしごき始めた。
緩やかな上下運動に感化され、俺のチ〇ポはますます硬くなる。
「さきっ...」
最愛の人の名を叫びながら絶頂を迎えようとした時、その行為は紛い物の乱入により阻止された。
「ちょっ...なにやってるんですか///」
そう言って頬を赤らめるのは、白いローブを身に着けた白髪の美少女であった。
どこの誰だか分からんが、俺の自慰を見られたというこの感覚。
─Not bad
「ちょっ、手止めてくださいっ!!」
「っ...驚いた」
彼女を無視して手を動かそうとするが、動かない。
押さえつけられてる訳でも無く、文字通り手が動かない。
「早くソレしまってください!」
「はーい」
何処か名残惜しいような気もするが、逆らっても無駄な気がする。
俺は嫌々ながらもブツをそっと下着へ収めた。
「で、君は誰なんだ?
幽霊?悪魔?」
「そんっな禍々しいもんじゃありませんっ!
私は神様ですから」
「へぇ」
俺のイメージでは、神=ひげ面なおっさんだったが、現実は違ったようだ。
現に、こいつは滅茶苦茶可愛い。
いや、当然!俺が一番好きなのは咲なわけで...。
「じゃあ、もう早速ですけど本題行きますね。
ったく...調子狂うなあ...もう」
「おうよ」
「笹川幸人様、あなたには転生のチャンスが与えられました」
「転生?」
転生といえば、ラノベ文化におけるまさに王道。
スライムになったり、ハーレム作ったり、最強を目指したり。
そんな事が俺に出来るなら喜んで転生させてもらう。
「じゃあ転生するわ」
「判断早すぎですっ!もう少し話を聞いてください」
こんなにおいしい話。
断る奴いないだろう。
だが、真剣な眼差しを向けられるとそうも言ってられない気がしてきた。
「まず、幸人様が転生する異世界には、魔法や剣術が存在しています。
でも、あなが想像するようなハーレム...とかはありません」
「そりゃあ残念だ」
「無いとは言いませんけど...それはあなたの行動次第な訳で...すみません、話がそれました」
軽く咳ばらいをして再びこちらへ向き直す。
てかこいつ俺の思考まで覗けるのか。
「私があなたに転生の機会を与えるのには理由もあります」
「理由?」
「転生後にお話しします」
まるで何かを隠すかのように口を閉じる彼女。
まあ、別に俺にはどうでもいいことだ。
「それと、諸事情で転生後のあなたの魔力は0になります」
「つまり?」
『魔法が使えません』
「マジ?」
「はいマジです」
異世界の醍醐味である魔法が使えないなんて最悪じゃねえか。
いや、剣術がまだあるか。
「剣術とかは?」
「幸人様の運動神経次第です」
んなもんあるわけ無いだろうがよ。
まあ中学高校と柔道はやってたけど...異世界のバケモン相手に通用するわけないだろ...。
「そう、そうこなくちゃですよ。存分に悩んでください」
俺の感情を察したのか実に嫌味たらしい笑顔を浮かべる。
いくら可愛くても、なんだか殴りたくなるような顔だ。
「咲さんは、転生を選んだようですよ」
「え?」
唐突に彼女の口から発せられた咲の名前。
どういうことだ?
咲も、選んだって事はもう異世界に?
つまり俺も同じ選択をすればまた咲に会えるのか?
「会えるかもですね。まあ...世界は広いので確率は低いかもしれませんが」
俺の思考は全部お見通しか...。
地球も、その異世界も。
広いのは当然だ。
でも、その中でも俺と咲は出会った。
そこには確かに何かある。
そう信じてみたい。
「どうやら決まったようですね。後悔は・・・しなさそうですね」
何かを確信したように、にんまりとかわいらしい笑顔を浮かべる。
クソ可愛い。
「じゃあ、私が合図したらそこの扉を潜ってください」
「分かった」
すると、先ほどまで薄く靄がかかる程度だった扉の光は、目を覆いたくなるほどの閃光へと移り変わった。
(もう一回、もう一回だけ)
「では、行ってらっしゃい」
合図と共に扉を潜ると、俺の視界は一瞬にしてホワイトアウトする。
徐々に気が薄れ、俺は意識を失った。
喰神の魔法遣い 月ノ輪しじま @shijima704
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