喰神の魔法遣い
月ノ輪しじま
プロローグ
俺はカイン・エンフリーレン。
この地へと転生して来て10年になる男だ。
前世では極普通の高校生をやっていたのだが、ひょんなことで死亡。
気付くと生まれ変わっていた。
今はというと、両親の魔法具の整理を手伝っているところだ。
「カイン、ちょっと来て」
「はーい」
白いワンピース姿で手招きする少女は、俺の姉。
ユーリ・エンフリーレン。
「ユーリ、どうかしましたか?」
「うひひ・・・」
悪戯な表情を浮かべるユーリは、両手を広げて抱き着いてくる。
その両手に収まった瞬間俺の胸板を柔らかい感触が包んだ。
(ん・・・)
こんな風に少しスキンシップが過ぎる所があるが、正直嫌では無い...。
「やめてください」
「もう少しだけ」
俺が軽く腕を解くと、ユーリ肩をすくませ拗ね始めた。
「チっ...少しくらい良いじゃん」
「今はまず、目の前のタスク処理ですよ」
「事務的~」
駄弁りながらも作業は着々と進んできている。
黙々と手を進めていると、ユーリの足元にある光輝く何かが目に入った。
「それ、なんですか?」
「それは、魔力測定球だな」
返事を返したのは俺でもユーリでも無く初老の男であった。
彼は俺たちの父親。
ワイス・エンフリーレン。
幼い頃に病で母親を亡くした俺たちを男手一つで育ててくれた恩人だ。
「魔力測定球...?」
「あぁそうだ。
ちょっと貸してみろ」
水晶玉のような透明な魔法具をそっとワイスに手渡した。
それを受け取ると、球の上部に手をかざす。
「インターフェルンツ」
短い呪文を詠唱すると、球の上部に何やら数字が浮かび上がった。
球が示したのは67。
「67...随分と下がったな。俺ももう歳か」
「父様、これは何の数値なんですか?」
「『魔力測定球』の名前の通り、使用者の魔力量を数値化したものだ」
「なるほど」
実に興味深い。
魔力という概念が存在する事自体は以前から文献で知っていたが、それを測れるとは。
「私もやってみていい?」
「好きにしろ」
無愛想な返事を返すと、手に持っていた球をユーリに手渡した。
「インターフェルンツ」
呪文を唱え、球が示した値は23。
基準が分からないが、どれほどなのだろうか?
「23...どう?」
「そうだな。まずまずといったところだな」
「じゃあ悪くないんだ」
「良くも無いがな」
それを聞きユーリは再び拗ねてしまった。
「俺もやってみていいですか?」
「いいぞ」
ワイスから球を受け取ると、ずっしりとした重さが手に響いた。
「インターフェルンツ」
あれ?
球の上部に示された数字は...”0”
「インターフェルンツ」
再び唱えてみるがそれに変化はない。
「父様...これって」
返事のないワイスの顔を覗いてみると、その表情は強張り目を見開いている。
(嘘だよな...)
「いや、そのなんというか...。がんばれよ...」
ようやく口を開いた父の口から発せられた励ましの言葉に追い打ちをかけられる。
(0...0...)
魔力量が0って魔法が使えないって事なのか...。
マジかよ...異世界転生してまで凡人だなんて最悪なんだけど。
「あはははは!0って...カイン...」
ユーリが腹を抱えて笑っている。
(ちきしょう・・・)
思わず泣きなくもなったが、俺は男だ。
ここは我慢、我慢。
「なんでだよぉ!」
思わず心の中で叫んだが、球の数値は変わらず0を示している。
せっかく第二の人生を手に入れたってのに...最悪だ。
その日の夜は、枕をびしょびしょにしながら眠りついたのだった。
喰神の魔法遣い 月ノ輪しじま @shijima704
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