第八話 拾い子
リーダーから聞いた話では、私は生まれたばかりの頃に城下町で彼の祖父に引き取られたらしい。母は病気で先が長くなかったらしく、私に今も肌身離さず大切にしているこのペンダントを残して亡くなったそうだ。
彼は私の母から頼まれた祖父からの頼みだから、と律儀に言いつけを守り私を過保護にしてきたようで、口煩くして悪かったと謝られた。とはいえ彼の性格上、これからもその態度は変わらないだろう。
翌日、彼の祖父からの頼みというのがどうにも腑に落ちず、何か大事な事を隠されているような気がした私は、一人である男性の元を訪ねていた。
「だから俺は何も知らねぇって!」
「でも昨日リーダーと話してたでしょ!教えてよ!アルバートさん!」
「わーったわーった!お前が俺に勝てたらな!」
彼はやはり何か知っているようで、「模擬戦で勝てたら」という条件を付けられた。アルバートさんはこの村随一の剣士で用心棒であり私やリーダーの師である人で、その条件は無理難題に思われたが気になった私は模擬戦を申し込んだ。
「もうやめとけ。何回やっても同じだ」
「まだ……まだやるの!」
「今のお前じゃ俺には勝てねぇ。才能は認めるが、足りない部分を自覚しろ」
勝敗はあっさり決し、ストレートで三本取られてしまった。諦めの悪い私は何度か挑んだが見事に全敗。
「カリナ。お前はまだ子供なんだ。難しいことなんか考えず素直に守られとけ」
彼はそう言って、武骨な手で私の頭をくしゃりと撫でると家の中へ戻っていった。
だが、詳しいことは分からないまま、アルバートさんは帰らぬ人となってしまった。
あれから一年程経ったある朝、村に王国騎士団を名乗る人物達が押し掛けて来て彼はあっという間に拘束され、連れ去られてしまったのだ。私は必死に止めようとしたが、リーダーに押さえ込まれ何もできなかった。
それから数ヶ月の後、彼は残虐な拷問の末亡くなったとリーダーの祖父からの手紙で知ることとなった。同時に、国王が魔物狩りの有志を募っているという噂を耳にし、何か分かるかもしれないと参加を決意した。これにはリーダーも頷いてくれた。自身の師が理不尽に殺されたことに黙っていられなかったのだろう。
ーーじんわりと暖かい感覚に、意識が引き戻された。優しい光に包まれているような心地良さの中、ゆっくりと目を開けると心配そうに私を覗き込む皆の顔が見えた。傷口に触れていた優しい手がモニカのものであると確信するのにそう時間はかからなかった。
「ありがとう……」
「まだまだ序の口よ。こんな所で死なれては困るわ」
彼女は少し厳しい口調でそう言うと、魔力と集中力を使ったのか疲れたように眉間を押さえた。彼女が回復魔法を使えるとなると、協力してもらう理由に拍車がかかった。すっかり綺麗に塞がり痛みもなくなった傷口を一度撫で、私は気合いを入れ直した。
再び歩を進め残っていた民家が
夕飯はレイチェルお手製の
「貴方達、何か事情があるようね」
「ああ……俺はカリナを王宮へ連れ帰らなければならないんだ」
他の者が寝静まったのを見計らい、モニカはジョセフにここまで来た理由を問いかけた。
「……あいつが、自分の秘密を受け止めるためにな」
「そう……」
真剣な表情で答えるジョセフに、モニカは静かに頷いた。彼女も最初は気まぐれで興味を持ったものの、唯ならぬ事情を察し本気で手を貸すことを決意したようだった。
lost children 縹香麗 @kaori_hanada
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