第七話 試験期間
朝、身支度を済ませた私達は指定された広間に集まっていた。少し待つと、音も気配もなく彼女は現れた。
「元気そうね」
「モニカ……!」
「それで?私の手助けはまだ必要なのかしら」
「もちろん!私達ねーー」
「分かってる。あなた達の様子はずっと伺っていたし、目指している場所も目的も知っているわ」
彼女は私の言葉を遮り、全て見ていたと明かしてくれた。私達が信用に値するかどうか、協力する価値のある実力なのかどうかを伺っていたそうだ。彼女によれば殆どの者がこの城を目指す進路を取っていたらしいが、五体満足で到着した者は私達以外にいないらしい。
もし本当に彼女の協力を必要とするなら、と言い渡されたのはとある魔物の討伐だった。少々危険なそれは「最終試験」と称すには十分過ぎるだろう。しかもその魔物は、私達の目指す地下層への入口にいるらしく
早速荷物を纏め、その場所を目指して再び行軍を始めた。もちろんすぐに入口に辿り着ける筈もなく、かなり上層にあるこの旧城からは最短でも一週間程度かかる上、これまでよりも上級の魔物もたくさんいるらしい。
途中で何度も魔物に襲われ、怪我もした。余裕だと思っていた旅路に今更のように危機感を覚えた私は、緊張からか変に力が入ってしまいあらぬミスをした。
魔物の鋭い爪が皮膚を切り裂く。感じたことのないような痛みと共に、傷口から熱い血が流れ出た。痛みに気を取られていた私は、そのまま後ろへと吹き飛ばされ崩れた建物の石壁に叩きつけられた。焦ったようなリーダーの声が遠くに聞こえたが彼の顔を確認する前に私の視界は暗転した。
私にはお母さんはいない。お父さんも。いるのはジョセフという少し歳の離れたお兄さんとその人のおばあさん。私達は三人で結界のすぐ側にある小さな村の小さな家で暮らしている。
ジョセフは私にとっても村の子供達にとっても頼れるお兄さんで、子供達の遊びの中でいつしか「リーダー」と呼ばれるようになっていた。だが、年々お転婆さの増す私にとって彼は口煩く感じられ、成長するにつれて衝突することも多くなっていった。
「ーー全く。軽い怪我で済んだから良かったが、あんな無茶するんじゃないぞ?」
「だって……!あの子助けたかったんだもん」
「お前の気持ちもわかるが、俺は心配なんだ。今度から先に呼んでくれ」
「リーダーはいっつもそう!私だってもう子供じゃないもん!」
「おい!カリナ!」
何やら小言を言われながら手当を受けていた少女は怒ってその場を飛び出した。青年も慌てて後を追うが、彼女は自室に駆け込み鍵をかけてしまった。
「おーい!ジョセフー!いるかー?」
「アルバートさん!」
少女の部屋をノックしようとした所で、玄関先から青年を呼ぶ声が聞こえ、彼はそちらへ出向いた。
「ほら、
「いつもありがとうございます!」
壮年の爽やかな男性から手渡されたのは籠いっぱいの大きな南瓜。それは青年の大好物だったようで、彼は満面の笑で礼を述べた。
「で?カリナとはまた喧嘩か?外まで声が響いてたぞ?」
「す、すみません……」
「あいつも年頃だからな……そろそろ話してやってもいいんじゃないか?お前が守る理由をさ」
男性は何か知っているようで、少女に話をするよう青年を促した。彼は少し考えるように眉間に皺を寄せたが「分別の付かない年頃じゃないだろう」と再度促す男性の言葉を聞き、決意したように頷いた。
その夜、ほとぼりが冷めたのか漸く部屋から出て来た少女に、青年は「話がある」と努めて冷静な態度で声をかけた。
「いつもうるさく言って悪いな。お前のことは祖父からの頼みなんだーー」
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