第六話 一週間

「これがゴブベリーかな?」

「それで合ってると思う!いっぱいあるし全部もらおうぜ!」

「全部取ったら意味ないでしょ!せっかく手に入る場所を見つけたのに」


モニカとの約束の一週間が始まった日、私はレイチェルとリカルドを連れて食料の調達に来ていた。ゴブベリーの群生地を見つけた所で、食欲旺盛なリカルドが全部採ろうと言い出したのでせっかくの群生地だからとレイチェルが止めに入った。リカルドと行動するのにレイチェルは欠かせない存在だ。いつも突っ走る彼を止められるのはなんだかんだ彼女しかいない。


「あとはお肉も欲しいわね。カリナは干し肉が好きなんでしょ?」

「うん!おやつに持っておきたいな!」

「じゃ、トロナントカってやつ?探してみるか!」

「たくさん獲るならウェアウルフの方が効率が良いわよ。それに、トロールストレングスを倒すなら万全に準備をしていかないと」

「この間私達が戦った奴の上位種らしいよ」

またも先走るリカルドを二人で止め、ウェアウルフを探して森の奥へと進んだ。


「いた!」

「まかせろ!」

黒い森と呼びたくなるくらい黒々とした草木に覆われた場所に目的の魔物がいた。人間が四足歩行になったような、膝が曲がって頭が下がった姿は確かにウェアウルフと呼ぶに相応しい見た目だった。

見つけたと同時に飛び出して行き奇襲をかけたリカルドだったが、見事に空振りをしカウンターを受けそうになった所を素早く後を追っていたレイチェルが更に奇襲をかけウェアウルフを殴り飛ばした。

「カリナ!よろしく!」

上手くこちらの方に飛んで来た魔物を斬り伏せると、彼女の奇襲が功を奏したのか一撃で倒すことができた。


「やった!二人共!お肉だよ!」

「ナイス!帰ったら焼こうぜ!」

「一つでも十分な大きさね。一旦城に帰ろっか!」

十分な食料を得た私達は、来た道を引き返し、無事に城に戻った。


「良くやった。連携も上手く行っているようだな」

「リーダーは?ノエルと何してたの?」

「俺達は書庫を見ていた。成果もある」

城に残っていた二人は、どうやら書庫を漁っていたようで、新たに古い地図と歴史書を発見したらしい。地図には地下層への入口や竜人族の村までの道が詳細に記されており、最短を通るなら持っておくに越したことはないだろうとのことだった。



さらにその翌日、私はリーダーとノエルと共に魔法を剣に纏わせることはできないかと特訓に出かけていた。どうやら、昨日見つけた歴史書にそういった技があると記されていたらしく、珍しく張り切る二人に「今日は長くなるだろう」と覚悟を決めたその時、足元に違和感を感じた。

「リーダー……」

震える声で絞り出した呼びかけに気付き、心配そうな面持ちで二人がこちらに駆け寄って来てくれた。長い草に隠れていたのは、誰かの遺体だった。まだ新しいようで顔もきちんと判別できる状態のその人を見て、ノエルがハッと息を飲み込んだ。

「マシュー……」

「……そうか……!あの時一緒にいた……」

「止めてやれなくてすまなかった……」

その人はあの時ノエルと共に結界の側にいた人だったようで、ノエルは申し訳なさそうに彼の手を握ると、怪我が原因で亡くなったのか、苦しげな表情を残した彼をそっと布で包んだ。

「城の近く……確か墓地があったよね……」

「ああ。墓を作ってやるか」

「そうしよう。このまま置き去りにはできないもの」


暗い雰囲気で戻った私達を出迎えてくれたレイチェルとリカルドもノエルの腕の中を見て察したのか、何も言わず墓を建てるのを手伝ってくれた。

「ノエル。あまり自分を責めるなよ」

「大丈夫だよ。こうして眠らせてあげられて良かった……」

「そうよ、きっと見つけられないままの人の方が多いわ」

確かにレイチェルの言う通りだった。魔物の巣に連れ去られた者や食べられてしまった者の方が多いだろう。ノエルも知人を寝かせてやれた安堵からか先程までよりは明るい顔に戻っていた。


それから約束の日までは全員で連携の確認や食料調達、当初やろうとしていた魔法を纏わせる特訓に励んだ。結果的に魔法と相性が良かった私が技を習得するに至ったが、リーダーとリカルドは上手くいかなかった。レイチェルは私よりも適性があったものの、生身に纏うのはリスクが高すぎるというノエルからの指摘で断念することになった。

そうして無事に一週間を過ごし、約束の日にがやって来た。

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