女子3人組で沖縄の離島をサイクリングした話

夢生明

女子3人組で沖縄の離島をサイクリングした話





 あれは、高校2年生の時のことだ。私は三泊四日の修学旅行で沖縄に行った。


 クラス単位での観光が一通り終わった3日目。待ちに待った自由行動の日となり、私は友人2人と共に離島へサイクリングすることになった。


 一緒にサイクリングに行くのは、寺田梅ちゃんと真島佳子ちゃん。

 実は、私はこのメンバーに一抹の不安を覚えていた。


 というのも、佳子ちゃんはしばらく自転車に乗っていなかった為である。彼女曰く、「自転車?十年近く乗ってないけど、大丈夫だよ」と。

 本人が不安に感じていないことが何よりも不安だった。


 そして、もう一人の友人である梅ちゃんは、誰にも連絡先を教えていなかった。

 彼女曰く、「同じクラスで毎日会うのに、何故ラインを教える必要が?」と。

 サイクリングをすることに決めた時、はぐれてしまった時用に電話番号を教えてもらえるよう頼んだのだが、「はぐれたら、後は自由行動でいいんじゃない?」とのこと。(ちなみに、次の年に別のクラスになった時はラインを教えてくれた)


 そして、私は地図を読むことができない方向音痴。一人になったら迷子になる自信があった。二人とはぐれたら、帰ることが出来ないのである。


 そんなあまりにも大きな不安を抱えながらも、離島でのサイクリングが始まった。係の人から地図をもらった私たちは、海に行くことに決め、自転車に乗って進み始める。


 そして、開始1分。


 佳子ちゃんがブロック塀に突っ込んだ。


 一方、先を走っていた梅ちゃんは、事態に気づかず、どんどん前に進んでいってしまう。三人での思い出をたった一分で終わらせるわけにはいかないと、ありったけの大声で彼女を呼んだ。


「梅さーん!」


 私は佳子ちゃんを助け起こし、必死に梅ちゃんの名前を叫んだ。しかし、かなり先に進んでいた彼女は気づく気配がない。


「梅隊長ー!!!」


 そこでようやく気づいた彼女は、振り返って止まってくれた。


「ゆっくり行こう」


 そう言って、梅ちゃん、私、佳子ちゃんの順番で再び走り始めた。しばらく順調に進んでいた私たちだったが、下り坂に差し掛かった時に再び問題が起きた。


 梅ちゃん、ブレーキをかけない。


 離島には車がほとんど通らず、危険も少ないとはいえ、そこそこ急な坂。ブレーキを一切かけず、交差点でも止まらないのは、流石に危険だと言えるだろう。

 何より、梅ちゃんと私・佳子ちゃんの間に少しずつ距離も開いてきていた。佳子ちゃんの負担と安全を考えて、少しスピードを緩めてもらえるように梅ちゃんに伝えるかと迷っていると。


 私を抜かしていく自転車の影が見えた。


 その影は、果たして佳子ちゃんで、私を抜いた彼女は梅ちゃんに続いてブレーキを使わずにすいすい進んでいってしまった。少しずつ二人が遠くなっていくのが見えた。



 私は、ブレーキをかけることをやめた。



 後から聞いたところによると、佳子ちゃんは「一度走り出すと、もう二度と止まることは出来ないから」と歌詞のような供述をしていた。


 しばらくして、私達は道に迷ってしまった。しっかり者の梅ちゃんが先導して道の案内をしてくれていたのだが、道が分からなくなってしまったそうだ。

 その時も梅ちゃんと佳子ちゃんが道端に止まって地図を確認してくれていたけれど、もちろん私は役に立たない。


 しばらく三人で自転車を止めていると、一台の車が私たちの元に止まった。


 自転車を路上に置いていることを怒られるのかと思ったが、車に乗っている人は「どこに行きたいの?」と尋ね、海までの道を優しく教えてくれた。離島の方の優しさに心が温かくなった。


 私たちはお礼を言って、海に向かう。進むうちに、波音が聞こえて海が近づいていることが分かった。

 自転車に乗っていると、心地よい海風とほのかな塩の香りを感じる。


 そして、ようやく私たちは海にたどり着くことが出来た。沖縄の海は、太陽に照らされ煌めいており、とても綺麗だった。

 靴を脱いで足元だけ海に浸かったり、かき氷を食べたり、存分に沖縄の海を楽しみ、最後には三人で記念撮影をした。


 さまざまな不安があったけれど、島の人の優しさを感じ、大好きな友人と共に美しい海を見ることができて、とてもいい思い出になったと思う。


 そうして清々しい気持ちで帰路についたのだけど。


 やっぱり、帰り道でも二人はブレーキをかけなかったので、私が叫ぶことになった。

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