第6話 仲間

「お、おいっちょっと待て、何だ今のはっ。おねえちゃんとは?キサマは俺の姉なのか?」


 その後を追いかけながら、俺は矢継ぎ早に質問をした。

 何だろう、さっきから顔が熱くなって、ドキドキが止まらない。こいつに、魅了チャームの魔法でもかけられたのか?


「ん~、そういう訳じゃないけどぉ。

あらあ、二人とも気絶しちゃってる。あらぁ、これは駄目ね、だいぶ汚辱が進んでる……ちょっとシトリン、つまんない話は後にして、二人を出すの手伝って」


「貴様ぁ!俺の話をつまらないとはっ」

「うっせえ!!早く手伝えっつってんだよ。分かんねぇのか。

一刻を争うんだぞ?!」


「……ハイ」


 さっきまで場違いなほどニコニコ笑っていた緑は、瞬間的に恐ろしい形相に変った。

恐るべき二面性、魔王の俺も真っ青だ。


「うふっ。いい子、分かればいいのよ♡」


 ああ、こいつは……怖い女だ。

逆らったら駄目なヤツだ。

 俺は、大人しく彼女の言うことに従うことにした。


 

さて、この身体の主は、意外にもポテンシャルが高いようで、あれだけの魔力を放った後でも、変身も解けていないうえ、まだ十分に魔力を残している。


 俺は、緑の言う通りに、ロウパーのゼリー状の肉に閉じ込められている二人を浮遊させると、ゆりかごのように身体を揺すり、その残渣を振り落としてから、ゆっくりと地面に降ろして並べた。


「これでいいか?」

「あらあ、コントロールも随分上手くなったんだ、すっごーい」


 軽く俺に投げキッスをすると、緑は二人の横に座った。

 回復魔導士ヒーラーらしく、まずは赤の全身に掌を当て、それから青にも同じことをする。


「どうだ?息はしているようだが」

「んー、そうね。怪我は大したことないけど、胎内の汚染がかなり。……まあ、半分はいってないから、何とかなるでしょ」


 そういって緑は、赤の下腹に手を充てながら、回復魔法を唱え始めた。


 俺にとっては攻撃に等しい、聖なる乙女の「癒しの祈り」。だが今は、余波で俺の怪我まで回復してきている。


 あれ、もしかして俺、何気に聖なる力を克服してる?

なら、俺って今最強なんじゃね?


 なんて考えているうちに、真っ青だった赤の頬が桃色に染まり出した。


「くはっ…」


 息を吹き返し、うっすらと瞳を開ける。


エーメ……」

「もう大丈夫よ、ルビィ。アイツはシトリンがやっつけてくれたわ」


「そう、良かった、良かったあ…!

 そうだサフィニア、サフィは?」


「待って、サフィは今からよ。

あなたよりはあの子のほうが少しマシだったから」

 そう言って、掌から青に淡緑色の光をあてるエーメ


 ルビイという女には分からないだろうが、さっきと同じではないこの魔法は、攻撃用の白魔法だ。

 腹の中の魔物を弱らせて、胎内に居るまま死に至らしめる。とぼけた顔をしているが、この緑はキレる。


「…エーメ。ルビイに…シトリン」

「サフィ、生きてる?ねえほら私達、ちゃんと斃したんだよ!」


「そう、良かった。シトリンは?大丈夫?」

「ああ、大事ない」


「全く、このコったら。いつも真っ先に捕まっちゃうんだから。私達が助けにこなかったらどうなってたと思ってるの?心配させないでよね!」

「うわっ、な、何をする」


 ルビィという女が、俺の両肩を抱き、軽く頭を小突いてきた。

 どうやらこの戦いの顛末は、この身体の持ち主がまず捕まり、それを助けにきた赤と青が、返り討ちに遭ったという構図らしい。


 実際、斃したのはほぼ俺なんだけどなー…


「フン」

 サフィと呼ばれた青色が、ヨロヨロと立ち上がり、身体についた残渣を払った。


「あ、そうだ。二人とも、数日後に変なものが出てくるかもだけど、気にしないでね♡」


「えー、ナニよそれ」


う、それは孵化したあいつの幼体だよ。

呑気に笑っている二人を見て、タフな奴らだと、感心せざるを得ない。


「さて、シトリン。そろそろ変身解いていいわよ。ってかあんた、何かいつもと違くない?」

「帰るって、どこへだ?」


「ヤダな、あたし達の学園寮おうちに決まってるじゃない。あんた、さっきから何言ってんの?

変身した格好も、肩にトゲがついて厳ついし、喋り方も何か変だし。

あ、もしかして、さっきの死闘たたかいで、何かに覚醒めざめちゃった?

ついでにキャラ変までしちゃったの? 」


腕を組み、さっきまで黙っていた青が静かに告げた。


「そうね、少しおかしいわ。

私達が着いた時、シトリンはあの触手に捉えられて、ぐったりと青い顔で、まるで死んでいるようだった。

それが急に……

もしかして、何かが憑依した可能性だってある」


まずい、サフィニアという女、もしや異変に気づいているのか?


「そ、そんなことないよう!最近こういうのが、流行ってるんだっ」


俺は、至急ちょっぱやこいつの潜在意識を辿り、普段の話し方を極力真似た。

うむむ、歯が浮いてしまう。


「もう、サフィったら。すーぐそうやって、深読みするんだから。

ね、いいじゃない。皆無事だったんだから、ね。さ、帰ろ帰ろ。寮母ステラさんの美味しい夕ご飯が待ってるよ。

そうだ、お祝いしよ、祝勝会。

お菓子いーっぱい買ってきて、さ。

よーし、今夜は皆でパジャマパーティだ!

さ、行こ行こ」


「うおっ、こ、こら!離せというに……じゃなくて、離してよーっ、歩きにくいよぅっ」


夕陽に向かって歩き出すルビィに肩を抱かれ、くっ付いて引き摺られるように俺は、こいつらのアジトへと向かうことになった。




















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魔王なのに、魔法少女に転生した。 ~この俺様が、天然年下可愛がられポジションだと?~ 佳乃こはる @watazakiaya

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