第5話 変身 「ロウパー③」

 全身に力が漲り、満杯フルからさらに限界リミットを超えてゆく。


 周囲の粒子が変異しながら裸体に蒸着し、俺の理想とする護りの形、装甲となって現れる。


 利き手には、これまた俺の理想的な武器、三叉槍トライデントが。


 恍惚として目を開くと、光に包まれた俺の眩しさに、ロウパーの奴が怯んでいる。


 よし、反撃開始だ。


 俺は、右手のトライデントを振り翳した。にわかに竜巻のような旋風が巻き起こ……


らない。


 え?何だコレ。

 トライデント、短いんだけど。

 フォーク?ベビーサタン用なのこれ?!


 俺が思い切り攻撃をスカしたのを見て、ローパーはすぐ様反撃に転じた。

 触手が3本一斉に俺に向かっておそいかかってきた。右手の槍でそれを払う。

 パン。

 すると、やつの手が1本、弾けて飛んだ。

 ギギィーーーッッ。


 立て付けの悪い、古い扉みたいな叫び声を挙げながら、やつは他の2本の手を引っ込める。

 なるほど、小さくても威力はなかなかのものだ。

 俺は全身に力を込めた。それを一気に解放し、赤、青の捉えられている地点まで、一気に飛んだ。


 パン、パァンッ!

 元々速いスピードの2.5倍速で、二人を捉えている触手を切断する。


 スローモーションのように、二人が地面に落ちてゆく。

 腕の締め付けのためか媚薬成分のせいか、若しくは、すでに少量の卵を産み付けられているのか、気を失っているようだが、幸か不幸か、身体に巻きついた奴の腕がクッションになり、致命傷は免れたようだ。


 ギ、ギギ、ギギギッ、ギエッ。


 ドォン。

 ガシャーンッ。


 痛みのせいか、錯乱して辺りの障害物にぶくかりながら、声を上げながらがむしゃらに俺に突進してくるロウパー。


 俺は、ある程度の距離まで飛ぶと、立ちどまってやつを待ち、三叉槍トライデントを水平に構えた。

 目一杯右肘を後ろに下げ、左手で、切先を奴のど真ん中に合わせる。

 あの無数の触手は、真ん中にある球体の核に繋がっている。

 それが奴の本体であり、弱点だ。


 ギ、ギギィッ、ギギギッ、ギエッーーーー。

 

 俺は、その刃先にあらんかぎりの魔力を込めた。

 ただしそれは「聖なる祈り」なんかではなく、沸々と煮え、湧き上がる俺様の怒りのエネルギーだ。

 切先が、黄色と黒紫色の縞模様にオーラを纏い光っている。


 来いや、クソ雑魚が!


 怒りのままに、俺に向かって突進してくるロウパー。


 俺は強い魔力を放つ三叉槍トライデントを、思い切りそのど真ん中に投げつけた。


 プス。

 「ギ?」


 それはあたかも、極小さなフォークが巨大なモンブランに突き刺さった程度の衝撃しか感じられない。


 だが。


 3《スリー》、2《ツー》、1《ワン》……


「ゼロ」


 パァンッッ。


 俺のゼロカウントとともに、大きな破裂音が鳴り響いた。

 増幅された魔力によって奴の体が、内部爆発インクルージョンを起こしたのだ。


 奴の肉片と体液が、飛沫となって降り注ぐ。


 「フッ、汚ねえ雨だ」

 

 三叉槍トライデントを手に戻すと、その様子を眺めながら、俺は暫し黄昏れた。


「はあ〜〜い、皆ぁ〜、大丈夫ぅ〜〜?」


 と、その雨の中を、場違いな呑気な声を上げながら緑色の女が駆けてきた。


 コスチュームを見るところ、赤青黄と同じ仲間チームのようだが、ちゃっかり傘をさして自身が汚れるのを防いでいる。


 傷一つないところを見ると、どうもコイツは始めから戦いに参加していなかったようだ…


「テメェ、来るのが遅えぞっ」

「あら、シトリン。心配してたのよう。一瞬生命反応が消えたから、もうダメかと思ったのに…良かったあ。

…シトリン、何かちょっと形容フォルム変わった?肩のあたり、トゲ多くない?」


「ふん、かっこいいだろ。

……って、そうじゃなくて!

お前さあ、仲間の危機ピンチに高みの見物ってのはどういう了見だよ」


「あらぁ、何を今更。

 言ったでしょ?私、回復専門ヒーラーだもの。私が居なきゃ、誰が皆を修復してあげられるの?」


 そう言って緑は、俺の右肩に手を翳した。

 彼女が目を閉じ、呪文スペルを呟くと、ロウパーにやられた痛みがスッとひいてゆく。


「はい、完了。ふふ、シトリンちゃん、前はあんなに痛みを怖がってたのに。ようやく魔法少女の闘いに慣れてきたのね。

 やっぱりシトリンちゃんは出来る子、私の目に狂いはなかったわね。

 おねーちゃんは、嬉しいぞ♡」


「なっ……や、やめろっ」


 恥ずかしい!


 そう言って俺を抱きしめた緑色は、暴れる俺から離れるとみせて、


 ぷちゅ♡


 唇に軽くキスをした。


「なっ、なっ…」

「うふふ、ごちそーさま。さて、ルビイサフィニアはどこかしら。

あ~、いたいた」


 向こうの方で倒れている二人を見つけると、緑はスキップを踏むように嬉しそうに駆けていく。






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