第4話 魔法少女の仲間「ロウパー②」

「あ、ちょっ、止め…」

脚の内側をヌラヌラと粘液を吐き出しながら、ゆるやかに這い上がってくる触手。


「おい、赤青っ。どっちでもいいから、変身ってどうやるか俺に教えろっ」


「んあ…あふうん♡」

「ふぁあん♡」


 慌てて左右を見回すも、薄らぼんやりとした間抜け顔で、恍惚としている二人。

 ……ダメだこいつら。


 そうだった、原始的欲求に特化しているロウパーは、卵を産み付ける際に、痛みを和らげるための媚薬成分を出す。

 どうやら二人とも、そいつにヤられてしまったようだ……

 

 なんて、冷静に分析している場合じゃねえ。


 足首を掴んでいた触手が、俺の足を上に引き上げて、思い切り左右に割開いた。


 口(?)から卵液を垂らした一際大きな触手が、その真ん中に迫ってきている。

 ちなみに、俺に媚薬は通用しない。だって心はヤローのままだから。


 慌てて左右を伺うも、赤と青も同じ状態だ。


 くそっ、気色悪い攻撃してくんじゃねえ。

 ふと、俺を踏みつけながら勃起し、恍惚としていたベルゼホーンのことを思い出す。

 腹の底から、沸々と怒りが沸いてきた。


 このザコが。

 俺は、怒りのままにロウパーを睨みつけた。


- や め ろ キ サ マ 。殺 さ れ た い の か -


「???」


 と、ヤツが一瞬、金縛りにでもあったように動きを止めた。

 ふと、身体を締め付けていた拘束が緩み、俺は地面に投げ出される。


「痛って…」


 くるりと身を翻し、着地の姿勢を取るも、柔らかい掌の皮膚が破けている。

 情けねえ身体。生きて戻れたら鍛えねばならん。


 しかし、今のは何だった。俺の魔力が通じたのか?

 さっき、信じられない力が沸いた。腹の奥から熱くなるような。

 もしかすると、これが変身の原動力なのだろうか。

 

 さっきの隙に拘束から逃れたのだろう。

 上を見ると、赤と青も気を取り戻して宙に浮き、心配そうにこちらを見ている。

 この身体もきっと、本来浮遊魔法が使えるのだろう。


 だが、すぐにヤツは態勢を立て直し、数本の手で同時に、俺達に襲いかかってきた。


「シトリン危ないっ」

 

 うおっ!


 雑魚の癖に、凄まじいパワー攻撃。

 数秒前に飛び退いた箇所に土埃が舞い、一部屋はありそうな程のクレーターが出来上がる。


 ズズズズズ……

 

 後ずさる俺を、無駄にデカい巨躯を引きずり、追いかけてくる。


 くそっ、華奢な身体に弱い魔力。

 あの桜色の光め、よくもこの俺様をこんな身体に転生させやがって。


 これじゃあ、戦えるものも戦えねえ。

 他のステータスよりは、若干ましなスピードで逃げるしかない俺に、空中から仲間の女達が叫ぶ。


「シトリン早くっ、変身するのよ!」

「そうよ、思い出して」


「だから、変身ってのはどうやったらいいんだよっ」


 ロウパーの触手攻撃を避けながら俺は叫んだ。

 だいぶ前から気付いてはいたが、コイツ、ロウパーの中でも特大級中の特大級だ。リーチがめちゃくちゃ長え。


「忘れちゃったの!?女神様に聖なる祈りを……モガッ♡」


 赤がまた捕まった。触手を口に突っ込まれて、口を塞がれてしまった。


「ルビィ!……シトリンお願いっ。

仲間を、仲間を想って。精神を集中させて、聖なる力を増幅させるの……あ、ぐうっ」


 青、またもやお前もかっ。

 触手にぐるぐる身体を巻かれ、空中に吊り上げられた赤と青。

 

 そのうちに、俺の方にもすれすれの位置に触手のパンチが襲いかかる。

 今までは何とか避けられたが、そろそろこの身体の限界に近い。スピードも落ちてきている。


 何だって?

 女神に捧げる……

 聖なる力だと?


 俺、魔族だぞ、んなもんあるわけないだろがいっ。


 だが、この身体はもう限界だ。

 残るは、聖なる祈りとやらで「変身」し、限界値を上げていく……しかない。


 精神を、集中させる。


ドン、ドォンッ。

「のわっ」


 しかし、次々と襲ってくる無数の手を避けながらでは、とても集中などできない。

 おい、この身体の持ち主。中にいるんなら、「変身」とやらの方法を教えやがれ。お前の仲間の危機なんだぞ!?


 ドォン!

「はっ…」


 その時、ヤツの攻撃が肩を掠めた。右肩に熾烈な痛みが走る。

 

 マズイぞこれ、腕が折れたかもしんねえ。


「くそっ」


 絶体絶命。


 祈るような気持ちで上を見上げると、赤と青は股間を割られ、今にもヌメッた生殖手の餌食となりそうだ。


 くそ、くそっ。

 俺との闘いを繁殖の片手間にやりやがって!

 弱くなった俺は、こんな雑魚にさえ勝てないのか。仲間の、いたいけな少女すら護ってやれねえのか。


 悔しい、くやしい……


 ク  ヤ  シ  イ  。


 久々だ、こんなに腹が立ったのは。


 怒りの黒い炎が心を覆った。ふつふつと、腹の奥から力が沸いてくる。


 ビクンッ。


 迫っていた触手が、ふと動きを止めた。

 

 俺は、逃げるのをやめた。

 腹の奥底で、魔の力が増幅している。

 その源から、力が身体の隅々に行き渡ってゆく。


 ふわり。


 身体が宙に浮いた。



 











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