第3話 魔法少女の戦い 「ロウパー」

…あれ、俺、どうなったんだ?

何だここは、眩しいな。

ふいに辺りが明るく、空気が濃くなった気がした。急速に、物体としての実感が感じられる。


 身体が痛い。

 四肢を引き千切られるような、引っ張られる感覚。それから全身に切り傷、擦り傷、たくさんの怪我の痛み。

 これは…ベルにやられたところからの、続きなのだろうか。


 いいや、違う。

 これは新しい身体の、さっきの黄色い光球体の持ち主が感じている痛みだ。


 その上。

 何だ、この匂いは。


 …何とも言えない、生臭い……



「いっ、」


「イカ臭せええええええええええっ!!」


ヌルヌルの冷たいものに頬を撫でられて、俺ははっきりと目を覚ました。


なんだコレ、ようやく目覚めたと思ったら、いきなりピンチじゃねえか!


 なんと俺は、巨大なイソギンチャクのような魔物に絡めとられ、宙づりにされているではないか。


 コイツのことは、良く知っている。

 ロウパー。

 下位の魔物で、知能をほとんど持たず、ただ本能のままに、捕食と繁殖のみを目的に生存している。


俺の配下ではあるが、何せ脳が小さいから、話すことも、聞くこともできない。

 その上、やつらの旺盛な食欲と繁殖欲ときたら…


おいおいおいおい、いくらセオリー通りとはいえ、目が覚めた途端、この状況かよっ。

 冗談じゃねえっ、俺にエロい攻撃とかしてくんじゃねえぞ。


「??」

 眼力をこめて睨みつけ、魔王の威圧でもって威嚇するも、こいつにそんなものが通用するはずもない。


 ぬ゛ーーー⋯、


「う、げっ」


 一際大きな触手が一本、目の前に迫ってきた。先っぽから瀞みのある卵液を垂らし、ヌラヌラと光に照らされている。


 マズイなコイツ、発情してやがる。


 こいつらの繁殖方法は最悪だ。

 人間だろうが魔物だろうが、雌を捕らえると己の触手を生殖器官に侵入させ、幾千もの卵を産み付ける。

 卵を産み付けられた雌は、奴らの巣に捕らえられ、餌がわりの粘液を口から与えらえ、胎内の卵を幼体まで成長させる。

 そいつが一定の大きさまで成長すると、寄生された雌は強制的にそれらを産み落し、死ぬまでそれを繰り返す。

 その数、平均二千匹。


 せっかく生き返ったのに、一生をこいつの苗床で終えるなんて、ぜってーイヤだっ!


  俺は、改めてこの身体いれものを確認した。細い腕に、華奢な身体。体力値バワーポイント=10(最高値100)。


 まじかコイツ、くっそ弱い。女だというのは理解していたが、まさかこんな貧弱な少女だとは。


  その時、横の方から甲高い声が聞こえてきた。


「良かったシトリン、気がついたのね!」


 声の方に目をやると、赤い髪に赤い衣装の少女だ。どうやらこのいれもの仲間ツレらしいが……


 お前も捕まっとるんかい!


 ボロボロの衣装は、戦ったために破れたものに相違ない。

 しかしこいつの服装。ヒラヒラした短いスカートに肌を露出させ、鎧のひとつ着けていない。本当に、戦う気があるのだろうか。


 と、別のところからまた、違う声がした。少しハスキーな声だ。


「シトリン、変身するのよ。

 もう戦えるのは、最初に気絶して魔力を残しているあんただけなんだから!」


 同じく少女。こっちは全身蒼い衣装だ。

 しかも、こいつも捕まっている。


 なるほど、俺の名前はシトリンというらしい。


 しかし、変身だと?

 こいつの魔力値マジックポイントを探る限り、残りは……2だ。


 え、「2」?!

 ちょっと待て、これでどうやって戦うんだよ。

 もしかして、「変身」をすると格段にパワーが上がるタイプの戦闘員なのだろうか。


「へ、変身とはどうやるんだ、教えてくれっ」


「は?あんた何言ってきゃっ、…んんっ」


 何てこった、オーマイガッ。

 何かを言おうとした青い女だが、ロウパーの触手に口を塞がれてしまった。


 こうなったら赤、お前が頼りだ。

逆に首を回してみると、


「あぐっ、ふ、ふう…んっ」


 コイツも既に触手の餌食だ。


 そうこう言っているうちに、俺の股間にも、ロウパーが迫ってきた。


 ぬ゛ーーーーーー……

 













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