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 それからの僕は散々だった。


 上司は残業どころか、無給で休日出勤を命じることが多くなった。


「こんな調子なら会社辞めます」と言ったら、逆に自分の仕事量が増えるのを恐れたのか、新しい人員の手配もせず上司がさっさと辞めていった。


 鬱々と酷寒の冬を過ごし、やがて春を迎えた。


 例年春になると急激に忙しくなる職場は、人員不足で修羅場と化した。


 目の下にくまを作って、ふらふらしながら家と職場を往復するだけの生活となったが、ある日。

 ふと駐車場で足をとめた。

 覚束ない足元周りに桜の白い花弁が散らばっているのに気づいた。


 それを眺めているうちに、昨年の春、彼女が僕に言った言葉を思い出した。そして足を止め、出ない涙に打ち震えた。


 以来僕は、桜がもっと嫌いになったのだった。




(了)

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僕が もっと桜を嫌いになった理由 悠真 @ST-ROCK

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