アスファルトの衝撃

@0923_0409

プロローグ 

 朝日が水平線から顔を出し、空が徐々に青色になってきた頃、橙色のテントから一人の少女が顔を出した。

「……実に綺麗だ。ここにしておいて良かった」

 彼女の名前は『ミラ』。二年前から日本全国を旅している。目的はない。旅人と言うよりも放浪者といったほうがミラは納得するかもしれない。

「朝は、目玉焼きパンだな。なんかアニメで見たことあるかも」

 有名アニメ映画のグルメのようなパンをミラは作るようだ。

 シングルバーナー、小さいフライパン、トングを用意し、大きい鞄から生卵と食パン、油を取り出した。

 バーナーに火をつけ、パンを火にかざし、いい焦げ加減になってから紙皿に乗せた。ふわっと焼きたてのパンの香りが、辺りの景色に馴染んでいくように広がった。

 次は目玉焼きだ。フライパンに油を引き、生卵を片手で割る。パチパチ音が鳴り、段々形が出来上がっていった。

「半熟がいいんだよなぁ」

 半熟に出来上がった目玉焼きをヘラで取り、パンの上に乗せた。

「出来上がり」

 ミラは紙皿に乗せた目玉焼きパンを持ち、近くの木陰に座った。

 豪快にパンにかぶりつく。ザクッと音がして、口に綿のように柔らかい食感が溢れた。

「フライパンで食パンを焼くのも、悪くはない」

 ミラは一言呟いた。目玉焼きの白身を小さく嚙む。まだ焼きたてなため、ぷるっと目玉焼きがはじいた。

 そして半熟の黄身が溢れ出し、パンからはみ出しそうになる。

「塩胡椒をかけなくても十分だな」

 味付けは特にこだわらないようだ。


 このような生活を、毎日ミラは送っている。窒素な食事を食べ、ありのままの自然を満喫し、何も高望みしない旅を続けている。

 ミラは十分満足していた。誰も自分を邪魔しない、そんな環境がミラにとっては理想そのものである。

 携帯を持っていないため、イヤホンを繋いでラジオのニュースを聞く。

「今日は……晴れか。雨の心配もなさそうだ」

 旅をするにあたって天気は重要。悪い時はずっとホテルに居たり、長く滞在していい店で嵐をやり過ごしたりする。

「また政治家がやらかしたのか。明るみに出ただけで、もっと酷い人もいるんだろうなぁ」

「かなり近くで強盗事件か。色々気を付けないと」

「ラジオのCM好きなんだよな。テレビとは違う魅力がある」

 独り言を続々と言っている。そうしたほうが安心するのだろうか。

「よし、写真を撮ろう」

 ミラは小型のカメラを取り出し、水平線にかかっている朝日を撮った。

 ミラはパソコンで旅のブログを書いており、それで収益を得ている。決して多くはないが、旅を続けられるほどの余裕はあるようだ。しかし、ミラ自身は倹約家である。

「そろそろ出発しよう。次は……地獄をのぞきに行こう」

 今、ミラが居るのは鋸山(のこぎりやま)。千葉県鋸南町(きょなんまち)にある日本百低山に選定されているほど低い山だが、かなり観光客を集める山のようだ。

 『地獄のぞき』とは頂上付近にある展望台であり、天気がいい日だと富士山も見られるらしい。

「このキャンプ場も良かったな。やっぱりのどかな田舎はいいものだよ」

 テントを片付けながらミラは言った。キャリーケースに調理器具を、油は鞄にしまい、出発の準備をした。手には小袋を持っている。

 先程まで朗らかな表情をしていたミラだったが、小袋を持った瞬間、瞳の光がなくなっていった。

 キャンプ場から出る前にトイレに行ったミラは、用を足し、洗面所で手と顔を洗い、小袋から歯ブラシと歯磨き粉を出した。

「(鏡を見る時間が一番苦痛だ。なんでこの顔を見なくちゃいけないのか……)」

 ミラはすぐに鏡の反対を向き、歯磨きをし始めた。

 光がなかった瞳が徐々に元通りになっていき、何とか歯磨きを終えトイレを離れた。


 なぜミラが鏡を嫌っているのかは分からない。しかし、いつの間にかミラは地獄のぞきに行くために、青空を見上げながら、目を輝かせながら歩いて行ったのだった。


『鋸山の水平線』 5月17日

 今日の写真は水平線。ちょうど朝日が昇ってきたばかりの時間に撮りました。

鋸山の近くにあるキャンプ場で撮ったのですが、あまり人が居なかったので、ストレスなく普段の疲れを癒すことができるでしょう。

 おすすめは朝日を見ながらの朝食。有名なアニメ映画に出てきそうな食事を作り、美味しく頂きました。

 次は地獄をのぞこうかと思います。

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