君はきっと、天然色
@Alter_Align_86
君はきっと、天然色
「来世でも会ってやるからな」
そう最後にタイムラインに書き込んだ君は、
きっと、きっと笑っていたのだろう。
では、何故笑っていると、自分は此処に書いたのだろう?
「別にどうでもいいだろう」
そう冷たくあしらう読者もきっと居るだろう。
別にそれについて読むのを止めろだのと、そんな強制はしない。
無論、いいから最後まで読めとも言わない。
「さあ、自分は自分で話をさせて頂こう」
◆
此処は、とあるSNSサーバー。
無数のサーバーはもぐら穴の様に繋がっており、
どのサーバーでも(多少の差異こそあれど)自由に繋がる。
すなわち、
じゃあ、僕はその結線図で何をしているかって?
あはは、単純な事だよ。
僕もまた、もぐら穴を探検している一人だから。
何故探検を続けているか? 何を見つけ出そうとしているか?
それは『この際関係ない』事だよ。
僕はアートを愛していた。
今なお、何処彼処でこぢんまりと何らかを生み出し、
そして僕を僕たらしめている。
それだけが探検する理由だよ。
考えて欲しい。
君が最初にSNSに降り立った時、
何を考えて降り立ったのか。
些細な目立ちたがりでも。
真面目に何かを考えていたい人も。
つまるところ、同じである。
正確には『違うようで似ている』といった感じか。
僕はそうやって密やかな楽しみを満喫していた。
ところが、僕に待っていたのは……
◆
それは唐突だった。
始まりも終わりも。
僕はとある絵描きとひょんな事で繋がった。
この際、出会いの理由なんか探っても意味など無いだろう。
『リノート、リアクションで画力が伸びた絵を描きます』
そんなひとつの言葉に僕は居ても立っても居られなかった。
『どんな絵を描いているのだろう』
そんな好奇心がいつしか、パソコンのマウスを動かしていた。
リノート、リアクション、そしてフォロー。
それが始まりだったのだから僕だって笑ってしまう。
だけど『そんな単純なもの』でこのタイムラインは成り立つのだから、少し恐ろしさも感じる。
暫く繋がっていた最中、僕はいきなりだがそのコに『リプライ』をしてみた。
最初は他愛も無い話だ。まあそんな感じでいい。
続いて『リアクション』、そして『リノート』。
これは自分が好きだと思った絵をアップロードしてくれた時だ。
この時、『絵なんか自分が刺さればそれでいい』という感情であった。
実際『刺さった』と思えたし、絵柄がとても好きだった。
そんなこんなの意思疎通と共に、やがて夏が過ぎ秋になった。
◆
そのコから光が消え始めたのは、秋になってからだった。
秋になってから、唐突に『いじめを受けている』という事実を報された。
僕は懸命になって、「学校には行くな」とそのコを励ましていた。
いつも口煩く云っていた事は『欠席しても誰も咎めない』事。
実際そうだ。
『そのコにはそのコの生き方があるのだから』
秋雨前線。
空は曇り淀み。
やがてそのコにも変化が訪れた。
刃物での自傷行為。
風邪薬等の
普通の人間なら鼻つまみものだろう。
だが、僕は『そんな事出来なかった』。
自分もまた、ODをした一人だったからだ。
薬は、咳止め薬。まあ広義での風邪薬だ。
しかしそのODは地獄だった事は言うまでもない。
実体験だが、最初は少し胃に不快感をおぼえた。
次第に身体が浮き始めた。
やがて全ての怒りがどうでも良くなり、
明るい気持ちのまま、僕は人と話していた。いや、チャットと云うべきか。
そして地獄の離脱症状。
身体は石のように重く。
己がしてきた事に対して嫌悪を抱く。
涙。
嗚咽。
故にその苦しみは誰よりも解っていたつもりだった。
僕は何度となく、そのコに逃げろと言い続けた。
ヒッチハイクでも親の金を盗んででも、ただ、ひたすら逃げろと。
その努力は、そりゃあ努力と言えたものじゃあないのだが。
虚しい結末を迎えた。
◆
全てが終わった。
そのコから遂に自分の一生を終える決断をしたと発言が出た。
ノートには、こうあった。
『ばいばいのメッセージでもなんでもどぞ~』
この発言をタイムラインで見てしまった僕は、諦めるという選択肢しかなかった。
『もう充分生きたんだよね』
そんな気持ちだけが己にあった。
「引き止めるべきだろ」
そう仰せになる貴殿の言葉はご
だがそれは出来なかった。
何故かって?
『僕はこれ以上苦しんで欲しくない』
それだけだった。
一度、それこそ。
『失敗して生き続けてくれないかな』
という気持ちこそ脳裏を過ったが、直ぐに消えた。
『これ以上の地獄はそのコには似合わない』
ただ、それだけだ。
そして気がつくと、僕はお別れのメッセージを書いていた。
「向こう側で、一緒に絵を描こう」
そんな文面だった。
『嗚呼、これでお別れなのか』
そのメッセージを送信した後に、僕には『すっからかん』が残った。
美しくも醜くもないすっからかん。
それはそのコが幸せになって欲しい、という気持ちを、一欠け残していた。
やがてそのコから返信が来た。
「向こうでも会ってやるからな」
その言葉に少し安堵した後に、
僕は涙が出た。
独りぼっちだった。
そして、僕の想い出はモノクロームな世界へと吸い込まれていった……
『向こう側では、どうか色を点けてくれますように』
◆
これで、僕の話は終わりだ。
全てが後味悪い終わり方をしてしまった物語であるが、それはまあ、
『致し方なかった』
その一言で終わらせてくれると嬉しい。
実際問題、自分は非力だから自殺なんか絶対にして欲しくはなかった事を打ち明けられなかった。
だがしかし、一度考えて欲しい。
地獄から這い出る道を、『やめろ』という言葉で
それは何よりも残酷だ。
しかし『致方のない犠牲』と片付けてしまう事はいじめっ子への優位な立場を作ってしまう事になるかもしれない――
――と、思っているだろうが実はそうではない。
刑法202条
『自殺幇助罪』
そのコに関わる話で、何らかの証拠さえあれば彼等は法の前に敗れ、塀の向こう側、そして信用を失い、前科ありという事になる。
仮にそのコが『物的証拠』を作れなかったとしても、誰か彼かが『状況証拠』を幾つも残していれば、それは『事実』だ。
彼等いじめっ子に対して云うべき事はそれだけだ。
これは警告だ。
見て見ぬ振りなどしても、誰かが見ていればそれは証拠と成り得る。
『無駄な抵抗はやめたまえ』
この言葉で自分はこの
『オマエら。変な事は考えるなよ?』
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