第13話🌸桜の木。

「みはるねーちゃん!」「わっ」

障子を開けたわたしに向かって、走ってきた織子さん。

「ねーちゃん!会いたかったー!」

「ふふ、わたしもです。」


「嫁ちゃんも好かれちまったなぁ!」

雨梅さんは笑っています。


「…お前たちより先に、俺のお迎えが来た。

お母さんお父さんによろしく伝えてくれ」

「あきはせんせい、帰っちゃうのー?」「え~」

「すまん…」

秋葉様は、少し嬉しそうな困り顔を浮かべます。


「あとは任せて帰りな。今日もお疲れさん!」

「ありがとうございます。じゃあみんな、またな。」「またあそぼうなー!」


秋葉様は壁伝いに廊下に出ます。

「…っと、」「大丈夫ですよ。」

玄関の段差で転ばないよう、手を取ります。


「さ、秋葉様帰りましょう!」


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「ただいま。」「ただいまです!」

すっかり日が暮れて、家に着いた。

(外に出る機会が増えたからか、家が余計落ち着くな…)


道中で実春が晩御飯のことばかり話すものだから、お腹が空いてきた…

「できましたよ~!今日の献立は、」

「焼き鱈だろう。旬の魚だと実春が話していたからな。」

「ふふ、正解です!」

笑顔の実春は、お盆を二つ並べた。


「あら、わたしったら秋葉様のお箸だけ忘れて…」

どうやら、俺の月柄の箸だけ無いらしい。



「悪いが取ってきてもらえるか?…今ここで食べさせてくれてもいいが」


「へっ⁉///」

「い…いや冗談だ、腹が減ったあまり…//」

二人してぎこちなくなってしまった。慣れない冗談なんて言うものじゃないな…


「…では秋葉様、あーんしてください」

「本当にやるのか!!?///……んぐ」



焼き鱈はとても美味しかった。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


わたしはお風呂を沸かしながら思い出します。

「秋葉様、自分で言っておいて照れ屋さんなんだから…ふふ。」

なんだかここに来たばかりの頃のようです。


(あの時も、秋葉様に半ば無理やり魚を食べさせましたっけ)


さ、火おこし火おこし。



「秋葉様~お風呂が沸きましたよ~!」

口に手を当てて呼びかけます。秋葉様は、

「実春、今郵便屋が来ていた。」

「こんな時間にご苦労様ですね。…あら、お手紙です。」


「嶺眞さんからか⁉」「はい!」

嬉しそうにお顔を輝かせました。


嶺眞さんとはあの日、住所を教え合ったので

こうして文通をしています。結構頻繫にお手紙をくださりますよ。

「ええと、 『秋葉、奥さん、こんにちは。

子供たちは元気?私は毎日仕事に励んでいるわ。それでね、呼ばれた仕事先の一つに

託児所があったの。子供たちの健康観察と怪我の手当てを

依頼されたのよ。まさか医師として、子供たちに会いに行けるとは…

あの子達みんな良い子だから、嬉しいわ。

ついでに貴方も、待っててね。』…ですって!!!」


「本当か……!!?嶺眞さんと、また…!」「良かったですね秋葉様!」


わたし達夫婦は顔を見合わせて喜びました。

「…そうだ実春、風呂、有難う。今日はお前から先に入っていい。」

「いいのですか?では!」



着物を脱いでいる時、わたしの懐から何かが落ちました。

「あ…」


四枚桜のお守り。秋葉様がわたしの為にくれた、手作りの物。

それをきっかけに、思い返します。


『…朝ごはん、ありがとな』『実春、ありがとう。』『ありがとう…』『有難う。』

『……ありがとう、実春…ちゅ』


秋葉様は沢山、たくさんたくさん、

わたしに感謝をくれました。


言葉一つで、どれだけ救われたか。


そのが詰まったこのお守り。

わたしはこれでもかと抱きしめました。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「もー…秋葉様は放っておくとすぐのぼせる。」「……申し訳ない…」

縁側に横になり、秋風を浴びる。


今日も仕事で疲れ、ぼーっと湯に浸かっていたのが悪かった。

実春が当ててくれる、冷たい手拭いが頬に気持ちいい…。


「さ、逆に湯冷めしてしまわないよう、羽織をどうぞ」「有難う…」

今度は起き上がり、縁側に座る。

すると真剣な声で実春が

「秋葉様。」

と呟く。


「どうした…?」

「髪を結っても宜しいでしょうか!秋葉様の!」


「あ、ああ。しかし急だな…」

「いえ。以前から秋葉様のきれいな髪をとかしてみたかったのです。」

「そんな綺麗か…⁉そこまでするほど⁉」

「勿論です!では失礼します。」



実春の手が首に触れて、事前に分かっていても吃驚してしまう。

「長い髪…三つ編みしたいです」「三つ編み…?」


実春は丁寧に髪の毛をとかして行く。その時間が何だかむずがゆくて、

「今晩は月は出ているか?」

と訊いていた。

「はい!月明りのお陰で庭の桜が、とってもきれいです…!」

「そうか…桜の木、な。」


出会った頃も、この縁側で二人で見ていた景色。

俺は見ることが叶わなくても、


実春が代わりに『きれい』と言ってくれる。


「はい。三つ編み完了です!」

「有難う。」



隣に座って、俺の手を握る実春。

「秋葉様。」


きっと実春は、今も笑っている気がする。

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🌸はらひらふたり @rita2299

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