「そんな、事が」
口火を切ったのは意外にも樋山組長。
「…不思議なもんだなあ、神龍の坊ん」
「…はい」
「切れてなくなる縁もありゃ、見えなくなっても繋がり続ける縁もある。後者に限っちゃ、神や仏を信じるにゃ
「…ええ」
「王照、お前もたまにゃ、為になることをいうじゃねえか」
「たまにゃ、が余計だよ、隆正」
拗ねるような口調で王照さんは親父に返事をするが。
あくまでもポーズだろう。
「…紳二郎、一応法事の知らせはお前の携帯の留守電に入れておいたが、まさか来るとは思わなかった。手配だけはしといたがな」
「すいません、風来坊なもんで。こんな男の携帯の番号、忘れないで頂けただけで、嬉しいですよ?樋山さん」
「…王照。須永のと、俺は挨拶がまだだ」
「…ああ。そうだったな」
親父の声は穏やかだったが。常よりは威圧があって。
紳二郎さんは親父に改めて向き直る。
「面と向かっては初めてお目にかかる。お噂はかねがね、お聞きしておりましたが、今日の今日まで挨拶無しの無礼を致しまして、誠に申し訳ありません。須永紳二郎でございます」
正座をし、畳に軽く手をついて。
軽くもなく、へり下り過ぎもしない順当な挨拶。
「いや、こちらこそ。
「とんでもない。東には舞い戻りましたが、相も変わらずの群れ無しの犬のような事をしてるんで、威厳なんざありませんし」
紳二郎さんは俺に視線を流す。
「初めて会った時、龍哉はまだ十七、俺は三十八でした」
過ぎた年月を胸の奥で温めるような、静かな呟きが部屋に響く。
「分別だけで言うのなら、不義理は俺のほうですよ。…ただ。『俺達は』」
「紳さん」
「この
「須永の」
「自分の仁義で
笑う、男。
「…友達か」
「ええ。離れた歳の分、龍坊が【大人】になっていくのは嬉しいような寂しいような、ねえ」
「それは、分かる気がするなあ、秀元」
「ええ、兄貴」
歳を重ねた二人の男は、安心したように相好を崩して。
場が少し
淳騎はじっと俺と紳さんを見ていた。
膝を突き合わせるような近さで隣り合う、
淳騎の眼には何の感情も見えない。
清嵩に、高央に、
さすが、【長男】。
何も考えていないわけではない。思っていないわけでも、
でも、完全に消して見せる。
それが、黒橋淳騎という男であることを、俺ももう、知っている。
「…成る程、得心致しました。須永様、後継、無粋な真似を致しまして誠に申し訳御座いませんでした」
畳に両手をついて、俺達に深く頭を下げる、そのあざとさよ。
…あざといなどと
「…
「須永さんが……須永紳二郎が、友達…?」
「…龍ちゃんって、あらためてどういう隠し玉幾つ持ってんだ?」
塚田のお二人さん。
そんなたいした男じゃないよ、俺は。
「…紳さん。【友達】は
「龍哉、師匠ってのこそ
しかしまあ、人様の邸宅で突発的なこの公然イチャイチャ(?)、続けていたところで話は進まない。
今は穏やかな第一補佐様も怖いしね。
「黒橋、とりあえず、現況を報告しろ。俺の説明は後でまたきっちりする」
「承知」
淳騎は頷き、俺にではなく、樋山組長に向き直る。
「先程はお部屋をお貸しいただき、有り難うございました。後継の御命令ですのであえて言葉選らばずにご報告申し上げます」
「…聞こう」
「こちらの案内をしてくださった方と共に部屋へと向かっておりましたら、不心得者の親族とおっしゃる方々が後を追ってこられまして。大変申し訳ない、この馬鹿息子は家へ連れ帰ってからよく身内で話し合い、相応の施設なり病院なりへ押し込めるので、どうかご容赦頂けまいか、身柄をお渡し頂けまいかとおっしゃいまして」
「………馬鹿者どもめ…っ…」
「案内の方に不心得者と先に部屋へ入って頂くようにお願いしました。あの方、相当な手練れですね。すぐに判りました」
「どんな奴だった」
「…少し銀がかった髪が肩下まである…」
「銀がかった髪?…ああ。…淡路だな。うちの子飼いだよ」
「当然ですが、
“大変申し訳ございませんが、それは了承致しかねます”
と御断り申し上げました。私は後継から『 部屋で話をしてこい』と指示されましたので。
“何か勘違いをなさっておられますか?私はご子息からお話をお伺いするように、とうちの若頭からご指示を受けております。【上】のご指示は絶対。私にそれ以外を判別行動する権限はございません”」
いや、淳騎、お前執行部の
色に出にけり我が恋は~華~ 塩澤悠 @gurika
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